(265)高齢社会の一局面【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年1月14日
「高齢社会白書」というものが内閣府から出ています。令和3年版の内容の中で興味深い点をひとつご紹介します。
調査はあくまで全体の傾向を反映しているが、時々、思いもかけぬ発見や気づきを与えてくれる。それはいつの間にか常識になっていたことに対し、「言われてみればそうだ...」という類のものである。
調査の1つに「利用者の年齢階級別インターネット利用率」がある(注1)。2010年と2019年の比較である。20代から50代までのインターネット利用率はいずれも80%以上で多少の変化はあるが大きな差はない。
60代の2010年は64.4%だったが、2019年には90.5%と上昇している。つまりイマドキの60代は9割以上がインターネットを利用しているということになる。さらに70代を見ると、2010年の39.2%から2019年は74.2%となり、4人に3人が利用者である。80代はどうか。驚きである。2010年は20.3%だったが、2019年には57.5%である。実に80代の6割弱が利用しているという。「ホントかよ?」と言いたいところだが、周囲の事例を見ると、そんなものかとも思う。
さて、ここでいくつか考える点がある。
第1は、「高齢者はネットにうとい、使わない、そんなもの見ない」という思い込みが既に過去のものになっていることである。この統計の大本は総務省「通信利用動向調査」である。データの詳細を検討していないので何とも言えないが、例えば「過去1年間に少なくとも1度はインターネットを利用したことがある」人の数なのか、それとも日常的に使用している人なのかがわからない。結論は別の機会に調べてみたい。それでも、10年前より明らかに高齢者はネットを使用するようになっているのであろう。
第2は、利用状態だが、恐らくは自宅のパソコン等での利用より携帯電話での利用が圧倒的に楽になったからとの推定が出来る。実際、あと数年で前期高齢者に入る筆者も、パソコンを使用するのはほぼ職場のみであり、移動中や自宅では携帯電話の端末で全てを済ませてしまう。タブレットすら重い。少し画面が大きい携帯を持てば、パソコンやタブレットを使わざるを得ない状況は極めて限定されるようになってしまった。
一方、ソフトは一時期多くの職場で「ワード、エクセル、パワポは社会人の必須スキル...」のようなことが言われたが、携帯端末の機能が向上したため、送られてくるファイルや表計算ソフトは、そのまま端末で編集して使用することが可能になった。その結果、最近は「キーボード」が使えないだけでなく、パソコンの操作そのものも苦手という中高生までが出てきているという先祖返りのような現象が起き始めている。
第3に、こうした状況と対をなす形なのか、先日、紙の新聞の部数が大きく減少とのニュースに接した。あるSNSで筆者の知人は、早朝散歩をしているが新聞配達をする方が住宅街を1ブロック以上飛ばしている、つまり配達先が無いとの観察を述べていた。手元の端末でニュースを見ることに多くの人々が慣れてきたからであろう。
率直な感想を言えば、もはや「インターネット」という言葉すらあえて意識しないと日常では使わない。携帯はそこに接続していることが当然であり、部屋に鎮座したパソコンに電源を入れて立ち上がりを待つよりはるかに楽に手元で最新ニュースを見ることが可能になったからである。
それにもかかわらず、我々の意識だけは意外と強固である。実は高齢者の行動はとっくの昔にかつての常識を超えて先に行き、一方で若い世代からは「何でパソコンが必要なのですか。携帯で全てできるのに...」と問われたときに、もしかしたら中間世代、つまり生産年齢人口(15~64歳)に相当する世代だけが古い枠組みで仕事をしているのかもしれない。これは意外と大きな問題である。
* *
今後10年たてば、自然な流れとして80代の「インターネット」使用率はさらに上がる...ということになりそうですが、さて、どう思われますか?
(注1) 内閣府、「高齢期の暮らしの動向」「高齢社会白書」、上の数字は、図1-2-4「利用者の年齢階級別インターネット利用率」のものである。アドレスは、https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2021/gaiyou/pdf/1s2s.pdf (2022年1月11日確認)
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(158)-改正食料・農業・農村基本法(44)-2025年9月6日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(75)【防除学習帖】第314回2025年9月6日
-
農薬の正しい使い方(48)【今さら聞けない営農情報】第314回2025年9月6日
-
【注意報】普通期水稲に紋枯病 県内全域で多発のおそれ 長崎県2025年9月5日
-
「適正な価格」の重要性 消費者に訴える 山野全中会長2025年9月5日
-
米価暴落防ぐ対策を 小泉農相に小松JA秋田中央会会長2025年9月5日
-
(451)空白の10年を作らないために-団塊世代完全引退後の「技術継承」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年9月5日
-
【統計】令和7年産一番茶の荒茶生産量 鹿児島県が初の全国一位 農水省調査2025年9月5日
-
【統計】大豆生産費(組織法人)10a当たり0.7%増 60kg当たり1.6%増 農水省調査2025年9月5日
-
【統計】大豆生産費(個別)10a当たり0.8%増 60kg当たり10.7%減 農水省調査2025年9月5日
-
【統計】冬キャベツ、冬にんじんの収穫量 前年比2割減 農水省調査2025年9月5日
-
長野県産ナガノパープルのスイーツ「いっちょう」「萬家」全店で提供 JA全農2025年9月5日
-
『畜産酪農サステナビリティアクション2025』発行 JA全農2025年9月5日
-
「国産シャインマスカット」全国のファミリーマートで販売 JA全農2025年9月5日
-
「わたSHIGA輝く国スポ2025」参加の広島県選手団へ清涼飲料水贈呈 JA共済連広島2025年9月5日
-
「いちはら梨」が当たるSNS投稿キャンペーン実施中 千葉県市原市2025年9月5日
-
猛暑対策に高性能遮熱材「Eeeサーモ」無料サンプルも受付 遮熱.com2025年9月5日
-
農機具王とアグリスイッチ 構造再編をチャンスに「週末農業プロジェクト」始動2025年9月5日
-
鳥インフル ハンガリーからの生きた家きん、家きん肉等の一時輸入停止措置を解除 農水省2025年9月5日
-
旬の巨峰を贅沢に「セブンプレミアム ワッフルコーン 巨峰ミルク」新発売2025年9月5日