プロが選ぶ業務用米コンテストで重視された価格【熊野孝文・米マーケット情報】2022年11月15日
11月13日、都内で東京の米穀小売店で組織される東京米穀小売商業組合(略称東米商)が主催したこだわり米生産者の展示・商談会が開催された。この商談会で今年初めて業務用米コンテストが実施され、10点のコメが選ばれ「プロ向け用KIWAMI米」として表彰された。この審査の基準で重きを置かれたのが“価格”である。
業務用米と一口に言ってもその用途は幅広く、カレーライスに向いたコメもあれば鮨に向いたコメもあり、価格も安いものだけとは限らず、魚沼コシヒカリを使っている外食店も多く存在する。ただし、外食店と納入交渉する際に最も大きな条件になるのはやはり価格である。
東米商が千代田区神保町で開催した「東京米(マイ)スターセレクションKIWAMI米2022商談会」では、全国各地から農協や生産法人など28社がブースを構え、来場した米穀小売店に自社のこだわったコメのサンプルを提供、栽培方法などその特徴をアピールした。商談会の終わりにKIWAMI米コンテストの審査結果発表が行われ、金賞として20点が選ばれ、その中から最高金賞3点(福島県ミルキークイーン、新潟県新之助、新潟県コシヒカリ)が表彰された。これとは別に業務用米としてプロ向け用KIWAMI米10点が選ばれた。このプロ向けKIWAMI米の審査は、エントリーされたものを東京マイスター匠の資格を持つ審査委員が先入観を持たないように目隠しテストで実食して選んだもので、受賞した品種では「あきだわら」や「にじのきらめき」と言った多収品種もあった。
東米商がこうした業務用米のコンテストを開催した理由は「コメの仕入れ先を広げたい」という狙いからだが、裏を返せばそれだけ米穀小売店の仕入れが難しくなっていることの証でもある。米穀小売店を対象に営業している卸もおり、この展示会にも出展していたが、担当部署は3人で切り盛りしているというのが実態。産地業者の中には玄米袋30㎏1袋から配達することをウリにしている業者もいるが、その分価格は高くなる。このコンテストで重視された価格は60㎏玄米で1万3000円が目途になっている。
業務用主体の米穀小売店は、その規模により営業スタイルも様々だが、共通点をあげるとすれば実に細かい作業を行っているということである。例を挙げると全国各地から40産地品種もの銘柄米を仕入れて、相手先外食店のニーズを聞いてそれに合わせたブレンド米を70~80アイテムも作っているところもあれば、同じ県のコシヒカリであっても自社でその地区の品位・食味を見極めて、平均的な食味と品位になるように白米を仕上げているところもある。そうかと思うと中には最上級の顧客向けに精米を手選別しているところさえある。まさにきめ細かい対応が欠かせないのだが、そうした上得意は別にして大半の外食店や弁当店など中食業者向けは価格が優先事項になる。
その価格が今、急激に上昇、出回り初期に比べ60㎏当たり1000円、とくに業務用に多く使われるいわゆるBランクのコメの値上がりは著しく、昨年同期に比べると2000円以上高いものもある。会場に出展していた産地の集荷業者が自産地の銘柄米の価格入りのメニュー表を持っていたので、そのメニューをもらい受けようとしたところ断られてしまった。なぜならそのメニュー表は展示会出展が決まった時に作成したもので、今はその価格では出せない状況だとのこと。
全米販の調査によると、4年産米の精米1㎏当たりの平均値は前年産に比べ18円50銭値上がりしている。これに加え輸送費や電気代等諸経費を加えると20円から31円60銭のコスト増になっているという。価格の値上がりは中食業界も同じで、炊飯協会の調査ではごはん1㎏の製造コストは15円値上がりしているという。炊飯協会の会員社は炊飯米の製造業者であるため、原料米代がコストの大きなウエイトを占めることからコメの価格の値上がりに神経を尖らせている。
一方で全中の試算では、コメの生産者は生産コストの上昇で4年産米の60㎏当たりの所得はマイナス525円、このままでは5年産米は1481円もの赤字になるというデータを出している。15?以上の生産者でも生産費が60㎏1万1092円かかるのに対して販売価格は1万0851円なのだからその分が赤字という計算。
つまりコメを作る方も赤字、売る方も赤字という状態になっているのが、今日の状況でありこうした状態が続くようであれば、両方とも存続が困難になる。こうした数値を見るとコメ業界は死に体になってしまうので、抜本的な解決策は生産者に直接補償して生産が持続できるようにして価格はマーケットに任せるのが一番だと思う。そうした政策を早く示してもらいたいものである。
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