(312)在庫「率」の怪【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年12月16日
食料安全保障の議論が各所でなされています。さて在庫、あるいは備蓄というのはどのくらいあれば十分なのでしょうか。
前回の「喉元過ぎれば...」とは少し視点を変えて似たような問題を考えてみたい。
ひとつの物事を意識的に異なる視点から見る訓練はビジネスや国際関係においては特に重要である。良かれと思って実施した発言や行動が全く異なる意味と理解をされて伝わることがあるからだ。
よく出される例は、日本と中国における電車の中や公共スペースでの会話である。あくまでもどちらかと言えば...という程度の話として読んで頂ければと思う。日本では通常、電車の中や公共スペースでは余り大きな声では話さない。できるだけ声を低くして「周りに迷惑がかからないように」話すことが一般的である。
これに対し、これも一般論だが、中国の方は同じ場所で話すにしても比較的声が大きいようだ。もちろん個人差や内容により違いはあるが、いろいろと聞いてみると、おかしな内容や政治的にセンシティブな内容を話していないことを明確にするため、意識的に大きな声で話すことが多いという。これは国民性の問題なのか、あるいはその背景にある国の体制の問題なのか、さてどうであろうか。
話を穀物の世界に転じてみよう。種類がいろいろあるので、とりあえずトウモロコシを対象とする。下の表は、世界、中国、日本の2021/22年度のトウモロコシの需給を簡単にまとめたものである(出典は米国農務省12月公表資料)。
世界のトウモロコシの在庫数量は約3億トンであり、これは簡単に言えば需要量12億トンの4分の1、在庫率で見れば25%ということになる。何となく感覚的にも納得できる水準であろう。
次に中国のトウモロコシだが、在庫数量は2億トン、需要は2.9億トンである。在庫率で見た場合、これは72%に相当する。世界最大のトウモロコシ生産国は米国だが、中国は第2位である。筆者が現役のトレーダーとしてトウモロコシを購入していた頃は何度か5,000トン単位で中国産トウモロコシを購入したことがあった。日本海側の港には輸送コストの面でメリットが存在したからだ。しかし、現在では中国はトウモロコシの輸入国となっている。それにしても在庫率が高い。コストもかかるはずだ。
日本はどうか。年間1,500~1,600万トンの需要のほぼ全てが輸入である。在庫数量は138万トン、率で言えば1割も無い。こちらは格好良く言えば、長期的な信頼関係と契約関係に基づき、サプライチェーンを徹底的に合理化した結果でもある。そこには「不測の事態はほぼ発生しない...」という暗黙の前提が存在している。
一方、中国のトウモロコシ需要量は日本の約20倍であるから在庫も大量...というのではない。ここは「率」の違いを見ておく必要がある。中国国内のサプライチェーンが日本ほど合理化されていないこと、あるいはそれとは別に一定の「意図」あるいは「配慮」のもとに在庫率を高水準としている可能性が考えられる。
話はさらに変わるが、現行の食料・農業・農村基本計画の内容をまとめた冊子「食料・農業・農村基本計画の概要」の中に、「家庭備蓄の例」が示され、そこでは必需品・主食・主菜・副菜その他の例が示されている。興味深いのは欄外に*印で「1週間分、大人2名の場合」とある注記である。
そういえば東日本大震災の際、仙台の筆者の家の周囲では1週間ほどは何も動かなかったが、その後は急速に回復していった記憶がある。その点では何となく納得しそうだが、数字で見るとやや恐ろしい。1年は52週のため1週間は1.9%に相当する。つまり家庭備蓄の水準は約2%が示されているとも理解できる。
在庫と備蓄は必ずしも同じではないが、7割の中国と1割の日本、さらに家庭備蓄は2%と考えると本当に大丈夫だろうかと思ってしまう。
**
現代日本の各家庭ではどのくらいの食料を備蓄しているのでしょうか。一度、確認してみると良いかもしれませんね。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日