農学系学部と女子学生【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第225回2023年2月2日
これまで述べたように、いろいろ問題は残されてはいたが、第二次世界大戦後、わが国の都市、農村ともに女性によい社会に変わってきた。それを、私の専門である農学系の大学における女子学生を例として見てみよう。
1960年代、戦後民主主義が定着し始めたころ、男女ともにほとんどの子どもが高校に入学するようになった。
しかし大学への入学となると男女の差は非常に大きく、女性の入学はきわめて少なかった。子どもすべてを進学させるだけの経済的な力がないとなると、仕事をもって妻子を養っていく任務をもつ男しか大学に入れられなかったからである。
たとえ経済的余力があっても、女の子は男に食わせてもらうのだから大学にまで入れる必要はない、そもそも女子に学問は必要ないなどという考え方が普通で、入れても女子短大、そこで花嫁修業をさせて嫁に行くときの手土産にするためというのが普通だった。
四大=四年制大学に入れるとしても、文系、教育系の学部への進学が普通で、理系に入る女子はきわめて少なかった。もちろんまったく理系がないわけではなく、栄養関係の分野には入学してきた。いわゆる家政学系の分野が女性の適性だと見られていたし、女性自身も多くはそういうものだと考えていたのである。
農学部も理系であり女性の入学は少なかった。私のいた東北大でもそうだった。たとえ入ってもそのほとんどは栄養科学系、つまりかつての家政学の分野に入るためだった。だから作物・園芸等の6研究室からなる農学科(私のいた農業経営研究室もここに入っていた)の女子学生は定員25名中1~2名だった。
東北大学は戦前に旧帝大で最も早く女性を入学させたまさに開かれた大学だったのだが、そこでもこの程度だったのである。
入学した女子学生の成績はきわめてよかった。学期末の試験をすると出題者の意図に応えたまさに模範答案が返ってきてほぼ満点、いわゆる優等生だった。これは当然かもしれない。高校時代に優等生だったから、親や教師も四大に、理系に入れたのかもしれないからだ。
これに対して男子学生は、0点をとるものもいれば、自分なりの理解で勝手なことを書くもの、骨子しか書かないもの、優等生的なもの等々、まさに多様だった。
それを見て私はよく言ったものだった、女子は研究者になれないと。いわゆる優等生は教科書=常識をもとに的確に幅広く教える教育者にはなれるかもしれないが、他人と違ったことを考えたり、教科書にないこと、先生が教えないことをやったりしなければならない研究者にはなり得ないからである。学問は常識を覆すものだから、どこか常識はずれで変わっている人間、若干欠陥をもったものが研究者になれるものなのである。もちろんこれは科学的な根拠はなく、私見でしかない。ただ私などはまさに欠陥者(家内などは私を欠陥者と言うが)だから研究者になり得たのかもしれないと思っているが。といっても研究者として大したことがなかったのは私が優等生に近かったせいか、あるいは自分が思っているよりも欠陥がなかったせいなのだろうか(単に能力と努力が足りなかっただけなのだが)。
80年代後半ころからではなかったろうか、女子の四大への進学が多くなり、理科系への進学も増えてきた。1975年から10年間婦人の地位の向上をめざして展開された「国際婦人(女性)年」の運動の成果だったのかしれないが。
農学部への女子学生の入学も急増した。90年代の初期ではなかったろうか、このまま行けば学生の男女の比率が逆転するかもしれない、これでは研究者が育たない、日本の農学はどうなるのかと嘆く教授もいるほどだった。
これまでの女子学生を見るとたしかにそう言えるかもしれない。しかしそうではなくなっていた。
女子学生の数が増えるにしたがって、彼女らの書く答案は多種多様になり、かつてのような優等生的模範答案は少なくなっており、変わったことを書くものもおり、男子と同じになっていたからである。このなかから優れた研究者が生まれ、一緒に学問を継承発展させていくことができるだろう、だから憂える必要はない、こう考えるようになったのである。
こうした傾向は東北大ばかりではなかった。私が後に勤めた東京農業大学でも同じだった。農大はかつては「男の大学」というイメージがあった。正月の箱根駅伝でよく見られた大根踊りの応援を見てもわかろう(最近出場していないので見られないのが残念である)。だから、ましてやかつては、女子学生は非常に少なかった。
それが何と、80年前後から変わってきた。
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