【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】農業の崩壊危機を横目に、有事の「増産指令」?2023年5月26日
生産資材の暴騰で倒産も相次ぐ日本の農業危機を改善するための抜本的な対策が出されず、生産基盤の弱体化が加速しかねない中、有事には、作目転換も含めて、農家に増産命令を発する法整備をすると発表された。現状の農業の苦境を放置して有事の強制だけするような話がどうして出てくるのか。
危機以前の危機
表1は2018年における東北地域の優良な集落営農組織の事例である。優良と言っても、すでに平均年齢が70歳に近く、後継者がいるのは、21軒中2軒だけだった。機械作業などを受け持つ基幹的作業従事者の年収がせいぜい200万円程度でなかなか確保が難しいとのことだった。後継者が10年経ったら、ここは存続できなくなるのではないかと思われた。
それもそのはず、表2のように、農家の所得を時給(1時間当たり所得)に換算すると、2017年で、平均961円、やっと最低賃金を超える程度だった。
それから5~6年が経ち、今回の肥料、飼料、燃料などの生産資材の暴騰が農家を直撃し、直近のデータはまだないが、事態が急速に悪化していることは誰の目にも明らかだ。「10年後の崩壊リスク」が、もっともっと加速して、早まりつつある可能性がある。このような農村集落が全国的に激増している。
農業崩壊を容認しながら、有事の増産命令?
海外からの食料や生産資材の調達が滞りつつある中、このような深刻な農業危機の高まりは、日本の農業と地域社会を崩壊させ、不測の事態に国民の命を守る安全保障の観点からも、容認できない事態である。
今こそ、農業経営が継続可能になるように、抜本的な支援策が打ち出されるべき、ぎりぎりのタイミングに来ていると思われる、ところが、その対策が見えてこない中で、何と、有事になったら、作目転換も含め、強制的に増産を農家に命令できるようにする法整備を進めることが表明された。
今、苦しんでいる農業の持続性をまず確保することなくして、有事の増産強制だけできるわけがない。このような増産命令が、しかも、先に議論され始めたことは、通常の感覚では理解できない。十分な説明が必要である。
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