【JCA週報】書評斎藤幸平著『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』(田嶋康利)2023年5月29日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長 中家徹JA全中代表理事会長、副会長 土屋敏夫日本生協連代表会長)が、協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、本機構の協同組合研究紙「にじ」の最新号である2023年春号に寄稿いただいた「書評斎藤幸平著『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』」です。
書評斎藤幸平著『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』
評者 田嶋康利 日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会専務理事
1.自らのマジョリティ性(マイノリティ性)にどう気づくのか
本書は、著者が尊敬する環境経済学者の宮本憲一氏からの「現場に行け」というアドバイスを受けて、2020年4月から2年間にわたって日本各地の現場を取材、毎日新聞に連載された「斎藤幸平の分岐点ニッポン」の記事を書籍化したものである(「特別回アイヌの今」は書き下ろし)。(略)
本書を読むことで、私たちは自らのマジョリティ性(読者によってはマイノリティ性)に気づかされ、このマジョリティ(またはマイノリティ)としての「痛み」を伴う「学び」をどう受けとめることができるのか、読者は試されることになる。
そしてそれは、私たちの普段の生活や暮らしが、歴史的危機とも言われる気候危機や民主主義の危機をもたらす根源である資本主義的生産様式に「支配」されながら生きているという現実を認識させてくれる。
今日の危機の根源である「帝国型生活様式」(ウルリッヒ・ブラント、マークス・ヴィッセン『地球を壊す暮らし方―帝国型生活様式と新たな搾取』岩波書店、2021年)を強いられながら、閉塞感やあきらめ、お仕着せが覆っている現代社会の中で、私たちが日々働き、暮らしているということに気づかされるのである。(略)
3.「実践」の本-「共事者」の獲得と回復を求めて
著者の言葉によれば本書は、著書『資本主義の終わりか、人間の終焉か?未来への大分岐』(集英社新書、2019年)、『大洪水の前に―マルクスと惑星の物質代謝』(堀乃内出版、2019年)、『100分de名著カール・マルクス資本論』(NHK出版、2020年)、『人新世の「資本論」』(集英社新書、2020年)、『ゼロからの「資本論」』(NHK出版、2023年)などの理論書と「対をなす「実践」の本」と紹介しており、「社会には多数の問題が存在し、複雑に絡み合っているなかで、古典の経済理論研究をしているだけでは、人新世の危機を打破する社会のビジョンを打ち出すことはできない。(中略)全国のさまざまな取り組みを取材し、持続可能で、公正な社会を作るためのヒントを探しました」と述べている。
「実践」とは何か。それはまさに、現実の社会をどう変革していくのかというアクチュアルな思考に基づく取り組みであろう。この実践から導き出される新しい社会のビジョンを打ち出すためには、実践を理論に当てはめるのではなく、それ自体(事態)に内在し、分析し、揚棄するという批判的な精神に基づく実践に向き合う態度が求められるのであろう。著者のこの真摯な取り組みに、実践者の多くは共感し、私もそこに期待する一人である。(略)
また、本書の中で「(略)『自分は当事者でないから発言するのを控えよう』というのは、一見するとマイノリティに配慮しているようで、単なるマジョリティの思考放棄である。それは考えなくとも済むマジョリティの甘えであり、特権なのだ。そのようなダイバーシティでは、差別もなくならない。(中略)共事者になることで、私たち自身の苦しみもまた掬いあげることができるようになる。それは石原さんが自らの体験を通じて語るように、これまでの『敵/味方』『被害者/加害者』というような単純な二元論的語りのなかで、排除・抑圧されてきた声を聞き取ることができるようになるための一歩である」と語っている。
社会的排除と困難をもたらしている新自由主義的資本主義が席巻する現下の厳しい事態の中で、一人ひとりの市民が、マジョリティとしての自覚(またはマイノリティとしての自覚)を持ちながら、「共事者」としての連帯性や協同性をどう回復し、地域から創り上げていくことができるのか。
当事者とは「課題を共有し、共にその課題に向き合おうとする者」と、協同組合関係の研究者から教えていただいたことがあるが、それはまさに本書で言う「共事者」を意味し、その連帯を求めている。
本書は、読者が置かれているそれぞれの立場や所属を超えて、同時代を生きる一人の市民として、自らの生き方や働き方、暮らしのあり方について「再考」を迫っている。
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