(337)あてなる「氷菓」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年6月23日
梅雨の合間に暑い日が続くと冷たいモノが欲しくなります。米国滞在中、食事の後にデザートとしてアイス・クリームを食べる習慣がつき、体重が急増した時期がありました。アイス・クリームも好きですが、日本の夏はカキ氷、今年も食べに行きたいものです。
さて、日本人が夏の暑い時期に氷を食べるようになったのはいつ頃からなのか、少し文献を遡り調べてみた。
日本書記には、仁徳天皇65年(西暦377年)に最初の記述がある。4世紀後半と言えば、北ヨーロッパではゲルマン民族大移動(歴史の教科書では375年からと習った)、中国では東晋の政治家であり、書聖王義之(321~379)の晩年である。
この頃、応神天皇の皇子である額田大中彦皇子(ぬかたのおほなかつひこのみこ)が大和国で狩りに出た際、野の中に「窟(むろ)」を見つけた。そこで使いの者をやり尋ねると「氷室」だという。この言葉が1,600年以上前から存在したこと自体驚きだが、使い方は以下のように記されている。
「堀土丈餘。以草蓋其上。敦敷茅萩、取氷以置其上。既経夏月而不消。其用之、即當熱月、漬水酒以用也。」
「土を掘ること丈(ひとつえ)餘り。草を以て其の上に蓋く。敦く茅萩(ちゃすき)を敷きて、氷を取りて其の上に置く。既に夏月(なつ)を経るに消えず。其の用(つか)ふこと、即ち熱き月に当りて、水酒に漬して用ふ。」
納得した皇子はその氷を入手し、天皇(すめらみこと)に献上したところかなり喜ばれた。それ以後、毎年、氷が献上され、春分になるとその氷を砕いて使い始めたようだ。もちろん、こうした形で文献に登場する前から当の氷室は存在した訳であるから、地元の人々はそれ以前から冬の間にできた氷をうまく保存して活用していたに違いない。
時代を数百年下がり、平安時代になると清少納言が「枕草子」で有名な一節を記している。第42段「あてなるもの」を覚えている方も多いであろう。
「あてなるもの、薄色に白襲の汗衫。かりのこ。削り氷にあまづら入れて新しき金椀に入れたる。水晶の数珠。藤の花。梅の花に雪のふりかかりたる。いみじううつくしき児の、いちごなど食ひたる。」
「あてなる」とは「貴なる」であり、上品なもの、優美なものという意味である。我々の世代では白襲(しらがさね)や汗衫(かざみ)は、古語としてしか認識しなかったが、若い世代はアニメや漫画などでこういう言葉を意外と良く知っているから面白い。また、「衫」もこの一文字だけで「はだぎ」とか「ひとえ」あるいは「さん」と読むが、現代語の表記では「肌着」の方が定着している。若い世代には「アンダーウェア」という方が普通ではないか。「かりのこ」は鳥の卵である。
「氷」の話に戻ろう。「削り氷」は字のとおりだが、「あまづら」とは何か。これは「甘葛」と書き、wikipediaなどによればブドウ科のツル性植物という。当時の甘味料、シロップだと思えば良い。
そうなると「削り氷にあまづら入れて」は「かき氷」に他ならない。金椀(かなまり)は文字通り「黄金の器」ではそれこそ「あてなる」ものではないので、恐らくは新しい金属製の器というように理解したい。
つまり、清少納言は甘い「カキ氷」が好きだったといえば身も蓋も無いが、まあ、そういうことだ。
なお、西洋ではアレクサンダー大王も冷たいモノが好きだったという記述を見たことがある。牛乳を凍らし砕いたものにハチミツをかけて食べていたようだ。現代流に言えば「氷ハチミツミルク」あるいは「ハニーミルク・フラッペ」である。その彼は先の仁徳天皇65年からちょうど700年前に亡くなっている。
* *
アレクサンダー大王、額田大中彦皇子、清少納言は、ちょうど600~700年くらいの間隔でつながるなどと思いつつ、今年も「宇治金時抹茶ミルク」の予定を立てる時期になったようです。
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