多国間経済連携は死んだのか?【近藤康男・TPPから見える風景】2024年5月23日
ロシアによるウクライナ侵略、昨年10月のハマスの奇襲攻撃に続くイスラエルによるガザ侵略以降、経済連携協定やIPEF・インド太平洋経済枠組みの話は何処かに消えてしまった感がある。そして、IPEFを主導した筈の米国からも、24年3月15日に商務省がクリーン経済協定と公正な経済協定文案を公表して以降は動きが見られない。日本は、外務省のIPEF関連の最新サイト(3月15日付)に掲載されている、協定に直接関わる資料は、発効した供給網に関する協定書と24年3月付の簡単なクリーンな経済協定(概要)と公正な経済(概要)のみだ。合意署名後にしか公表も翻訳もしないのだろうが、米国に比べ熱意だけでなく、国民との開かれた関係の欠如が伺える。
米国のFTA交渉は何処を漂流しているのだろうか?
2013年、私たちがTPP反対を訴えていた頃、米国とEUとの間でもFTA交渉が開始されようとしていた。その当時の米国政府の交渉分野の章の構成は、ほとんどTPPに重なっていたと記憶している。しかし、その後次第に、米EUのFTAに関しては、交渉が進展していない様子が伝えられるようになった。
それから約10年、昨年23年3月9日のロイタ-の記事は、3月8日に「バイデン米大統領とフォンデアライエンEU委員長が、米国が、EUにFTAのような地位を付与する交渉開始で合意する見通し、と報じた」。米財務省の広報官は、"新たに交渉される協定が重要鉱物要件を満たすかどうかを規則制定プロセスで評価する"と説明している。また、"志を同じくするパートナーと共に重要鉱物のサプライチェーン(供給網)を強化することは、クリーンエネルギー経済の成長にとって不可欠だ"とも言及している。
1年以上前の3月8日に米・EU両首脳が"合意する見通し"としたものも1年後の今はかなりの変容への道を辿るか、あるいは実質的に消滅も懸念されるとするのは言い過ぎだろうか?
IPEFは漂流、発効済みの経済連携協定は"経済安保・経済制裁"によりほぼ乗っ取られた
IPEFは、2023年11月に「サプライチェーンの強靭性に関する繁栄のためのインド太平洋経済枠組み協定(供給網協定)」が合意・署名にこぎ着け、24年2月1日に発効したが、内容は経済安保に関わる部分を除けば協力・連携の文字だけが目立っている。そして、その後の参加14ヶ国の動向については、3月15日に米商務省がIPEFクリーン経済分野と公正な経済分野の協定文案を公開し、4月15日に日米比3カ国首脳会談で半導体・重要鉱物サプライチェ-ン強靭化で合意し、共同声明が出されたとなっている。
24年11月に供給網に加え、クリーン経済、公正な経済の分野も実質合意と報道されているが、その後の詰め・進展で伝えられたのは2分野の英文のままの協定案が公表されたことと、3ヶ国の首脳会談だけのように思われる。これでは、バイデン大統領が22年5月22日の訪日の際に掲げた「インド太平洋経済枠組み」を、文字通りの"枠組み"として位置付けるには本気度が感じられないと言わざるを得ない。
そして冒頭に触れたように、日本政府の動きには更に勢いが感じられず、閉鎖性が目立っている。
"多国間経済連携協定は死んだのか"と副題に記したが、少なくとも米国では、トランプ氏のTPP離脱以前のオバマ時代に、既に合意署名したTPPを議会承認に掛けることさえできない状況になっていた。
多国間経済連携協定は既にその推進力を失いつつあったと見ざるを得ない。米国は、少し古いが、22年2月現在でFTAを締結しているのは、20ヶ国と14の協定でしかない。そして、遅れてTPP交渉に参加した日本だが、02年~23年12月時点で合意・署名21件、交渉中4件となっている。
米国におけるFTAの位置づけについて、「インフレ抑制法」(半導体国内製造促進のための国内新規投資への補助金支出)に盛り込まれた電気自動車(EV)優遇策を巡り、欧州産の重要鉱物の電池用鉱物について、"米国内、または米国とFTAを結んでいる国からの調達比率を高めることを義務付ける"、といった少々不思議な文言で記されている。貿易・投資を限りなく相互的に自由なものにするという多国間経済連携協定の基本は何処にも見られない。
日本のFTA・EPAも喧伝したようには効果を示していない
安倍首相が熱心に進め、労働生産性を高め、経済成長を後押しするとして、TPP合意後も熱心にFTAを推進した日本だが、以下の統計数字を見る限り、その成果はそれほど大きなものとは言えない。
そして、多くのFTA交渉参加に際して公表した経済効果試算についても未達のままの(法治主義ならぬ)放置主義がまかり通っている。経済的な効果という点では、以下に、3月7日付「TPPから見える風景93」に掲載した表を再度掲載する。
(CPTPP発効年の2018年以降の数字を載せた)

※労働生産性については時間当たり実質労働生産性上昇率と一人当たり実質労働生産性上昇率とを掲載 作成:日本生産性本部「日本の労働生産性の動向2023」による。
※輸出入金額は財務省貿易統計による
いくら内外の投資を自由にし、貿易障壁を低くてもそれだけで労働生産性や経済成長につながるものではない。人材・人材への投資と育成、革新的な技術や先を見据えた投資、更には、将来を見据えた社会経済的枠組みやまともな政治こそが欠かせない。
残念ながら、今の政治、いくつかの主要企業にはそれが見られないのではないだろうか?
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