病気を防いで切り花の寿命をのばす【花づくりの現場から 宇田明】第46回2024年10月31日
切り花の老化はエチレンで促進されますが、出荷前にSTS(チオ硫酸銀錯塩)を吸わせることで抑制し、寿命(日持ち)を2~3倍に延ばすことができます。
しかし、キク類や球根切り花など老化にエチレンが関与しない種類も多くあります。
これらの寿命をのばすには、寿命を短くしている要因を取りのぞく必要があります。
その最大の要因は「病気」です。
切り花の寿命に関わるおもな病気は、灰色かび病とバクテリアによる道管閉塞で
灰色かび病
灰色かび病は、ボトリチス・シレネアというかびが原因で、たんに「かび」、「ボト」あるいは症状から「花しみ」とよばれています。
ボトリチス・シレネアは腐敗菌で、食べ物を放置すると生える灰色のかびです。
胞子を空中に飛散し増殖するため、生産者のほ場、ハウスでだけでなく、作業場、冷蔵庫内、さらには市場、花屋、家庭などあらゆる場所で感染する可能性があります。
とくに、バラ、トルコギキョウ、ラナンキュラス、スイートピーなど柔らかく大きな花びらをもつ切り花に発生しやすく、発生すると観賞価値が失われ、日持ちが終了します(写真1)。
かびの発生は高温多湿で多くなるため、日本の気候はかびに最適です。
春先の菜種梅雨、6月の梅雨、秋の長雨シーズンにはかびが大発生し、花屋からのクレームが激増します。
生産者は収穫時や選花・選別時に、かびが発生したり、兆候が見られた切り花を廃棄していますが、市場や花屋、消費者の段階でかびが見つかることがあります。
対策としては、薬剤散布が必須ですが、それだけでは防ぎきれません。
ハウスや作業場の環境改善、とくに除湿が有効です。
ハウスでは換気扇に加えて、ヒートポンプによる暖房、冷房、さらに除湿機の稼働が効果的ですが、膨大なコストがかかります。
また、流通段階でも防かび対策が必要で、生産者から市場、花屋まで「コールドチェーン」とともに「防かびチェーン」の構築が重要です。
道管閉塞
切り花の寿命を縮めるもうひとつの病気が道管閉塞です。
道管閉塞は、切り花の脳梗塞や心筋梗塞といえます。
人間では血管が血栓で詰まり血の流れが止まります。
切り花では切り口付近の道管にバクテリアが増殖して水の流れが止まり、ベントネック(花首の垂れ)が発生し、観賞価値を失います(写真2)。
原因となるバクテリアは、水中で増殖するシュードモナス(Pseudomonas)属が一般的です。
対策としては、収穫した切り花を水あげするバケツの洗浄と消毒が重要です。
コロナ感染拡大時に、飲食店がテーブルなどを消毒したように、ハサミや作業台などの消毒も必要です。
また、オランダでは道管閉塞を防ぐために、出荷前に抗菌剤による水あげを推奨しています。
花屋でも生産者とおなじように、バケツやハサミ、作業台などの洗浄と消毒が必要です。
清潔な環境で花を取りあつかうことが生産者、花屋の基本です。
灰色かび病や道管閉塞を防ぐことで、切り花本来の寿命を全うすることができますが、STS処理のように寿命を2倍、3倍にのばすことはできません。
しかし、消費者の大きな不満である、すぐに観賞価値を失う切り花を減らすことには有効です。
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