子どもたちのための逆襲【小松泰信・地方の眼力】2025年5月7日
毎年、こどもの日はやってくる。しかし、子どもの数は減る一方。
社会全体で子どもを守る
総務省の発表によれば、4月1日現在の子どもの数、すなわち15歳未満の人口は1,366万人で、前年より35万人減。比較可能な統計がある1950年以降の過去最少を更新。44年連続の減少で、初めて1,400万人を下回った。
「全ての子どもが健やかに育つ環境を整えることは、大人の責任である」で始まる中国新聞(5月5日付)社説は、「周囲から見えにくい相対的貧困が日本の社会問題になって久しい」ことを取り上げる。
厚生労働省のデータでは、2021年時点で貧困の状態にある子どもは11.5%、ひとり親世帯に限ると44.5%。
支援団体が対象者におこなったアンケートによれば、「学校が楽しくない」とする中学生は29.4%。小中高生の17.8%は「消えてしまいたい」と思うことがあると答えている。このことから、「子どもから生きる希望を失わせたり、学ぶ機会や意欲が奪われたりしてはならない」と訴える。
春闘では大幅な賃上げ回答が相次いだが、その中心は大企業の正社員で、「困窮世帯が多い非正規雇用のシングルマザーたちの上昇幅は小さい」として、「毎日一定に働いても食べていけないような社会は、健全とはいえないだろう」と迫る。
求められるのは低所得者の生活を直接支える施策として、〝ひとり親世帯向けの児童扶養手当の増額や所得制限の緩和〟や〝電気、ガス、水道代の減免〟などを提言し、「制度を充実させ、社会全体で子どもを守っていく」ことを求めている。
求められるヤングケアラーへのケア
「子どもには子どもらしく育つ権利がある」とする高知新聞(5月5日付)の社説は、ヤングケアラーについて取り上げる。
国が2021、22年に公表した調査から、中学生約17人に1人、高校生約24人に1人が「世話する家族がいる」と回答し、介護や介助を担い、アルバイトで家計を支え、日本語が苦手な家族を通訳などで支えていることを紹介している。1日のケア時間は、中高生では平均4時間、7時間以上と答えた生徒もいたそうだ。
調査に応じた中高生の過半数が「相談した経験がない」と回答していることから、「悩みを抱えながら孤立しているケースも多い」とし、子どもたちが長く時間を過ごす「学校の役割」を強調する。具体策として、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーとの情報共有、専門機関との連携強化を提言。
学校の役割
大切な役割を期待されている学校も、少子化により減少している。
新潟日報(5月5日付)の社説によれば、新潟県の子どもの数は4月1日時点で21万5,818人。2005年からの20年間で11万人以上、約35%の減。同期間の県人口全体の減少率が約14%であることから、「いかに子どもが減っているかが分かる」と記している。減少割合は中山間地を多く抱える地域ほど深刻。小中学校の再編が進み、05年から24年までに、分校を含め、小学校が576校から433校に、中学校が248校から228校に減ったそうだ。
子どもの減少が、地域の衰退を招かぬために、学校がなくなっても、地域と子どもたちとのつながりが持続するための対策の必要性を強調する。参考にすべき取り組みとして紹介されているのが、柏崎市の民俗芸能「綾子舞」の伝承学習。
同市の公式HPによれば、綾子舞は、柏崎市大字女谷(おなだに)に約500年前から伝わる民俗芸能。格式を重んじ、芸風を堅く守るために、決められた家の長男だけに継承されてきた。しかし、集落の過疎化と指導者の高齢化により、伝承の担い手の確保が困難となり、1970年から旧鵜川小学校で、83年から旧鵜川中学校で伝承学習が始まることに。両校は閉校となったが、伝承学習は統合校に引き継がれ、毎年60人前後の子どもたちが参加しているそうだ。
「ジャパニーズドリーム」はドリーム
日本経済新聞(5月4日付)は1面で、「スポーツ格差」の拡大、すなわち子どもがスポーツを楽しむ機会が家庭の経済状況に左右されることが拡大していることを報じている。
まずは観戦チケット代の高騰。三菱UFJリサーチ&コンサルティングによると、競技を問わず、2024年にスポーツを生観戦した人の1回のチケット代は4,527円で10年前から44%上昇。
つぎが、実践コストの高騰。公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(東京・墨田)が小学生の保護者約2,100人に聞いた22年の調査では、世帯年収300万円未満の子どもの63.5%が週に1度も習い事やクラブ活動などのスポーツ体験がなく、同600万円以上の家庭より20ポイント以上多いとのこと。
まさに、スポーツ観戦・体験、習い事が高値となることで、貧しき家庭の子どもには「高嶺の花」となっている。
記事の最後には、「スポーツの才ある若者が努力を重ね、逆境を超えていく『ジャパニーズドリーム』の現実味も薄らいでいる」と記されている。
英国の常識から学ぶ
西日本新聞(5月5日付)で、ブレイディみかこ氏(英国在住のコラムニスト)は、刺激的なメッセージを送っている。
氏によれば、近年の英国ドラマにおいて、「ユーモアと地べたの知性と、『コノヤロー』のスピリットに満ちた労働者階級の物語が絶滅の危機に瀕している」そうだ。背景にあるのは、「ドラマの作り手に労働者階級の出身者がいなくなった」こと。
紹介するのは、〝ビートルズに象徴される1960年代の英国文化が世界を席巻できたのは、「ゆりかごから墓場まで」で知られる労働党の福祉政策で、貧しい階級の子どもたちが高等教育を受けられるようになり、裕福な家庭の子どもたちに占領されていた分野に進出し、新しいセンスや考え方を持ち込んだから〟、という英国(いや世界)の常識。
この常識から、「文化が面白くなるのは、多様性のある場所(階級の流動性とは、違う社会的背景で育った人々が一緒に学んだり、働いたりし始めることでもある)」、その場所を取り戻すためには「貧乏人のほうから逆襲していくしかない」とする。
生まれ育った家庭の経済力によって、子どもたちの可能性が開花されることなく埋もれていく社会を許してはならない。
富める者が持ち得ない、〝ユーモアと地べたの知性と「コノヤロー」のスピリット〟を武器に、ぼちぼち逆襲とまいろうぞ。
「地方の眼力」なめんなよ
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