主食用米の需給見通しとはいったい何なのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年8月5日
農水省は7月30日に開催した食糧部会で主食用米の需給見通しを示さなかった。その代わり「現時点でわかっている値」なるものを公表した。その値とは24年7月から25年6月末までの需要量で、711万tと言う数字を示した。今年5月に示した基本指針では674万tと言う需要量であったが、一気に37万tも増えたことになる。わずか2カ月しか経ていないのに需要量が37万tも増えることがあり得るのだろうか?米穀業界団体の中には、農水省は主食用米の需給見通しを「公表するより公表しない方がマシ」と皮肉を込めて感想を漏らすところもあるが、これほどまでに根幹と言うべき需要データが狂うのであればそうした皮肉も言いたくなる。

食糧部会が開催された同じ週に金融機関やコメの集荷団体、大規模稲作生産者、流通業者等が集まった非公開のコメセミナーが開催された。せっかくの機会なので講師を引き受けた著者が「農水省が主食用米の需給を公表していますが、主食用米とはどのようなコメを指すのか具体例を上げますので、挙手をお願いします」と言ってクイズを出した。第一問「冷凍米飯は主食用米ですか?そう思う方は手をあげてください」、第二問「それではパックご飯は主食用だと思いますか?」、第三問「包装もちは主食用だと思いますか?鏡餅はどうでしょう」、第四問「酒造用好適米は主食用米でしょうか?」など。参加された方は大変協力的でそれぞれの質問に挙手していただいたが、残念ながら正解者は一人もいなかった。おそらく読者の中かにも正解者は一人もいないだろう。なぜなら主食用米とは、農水省がそう認定すれば主食用米になるし、そうでないと言えば主食用米の需要には入らないのである。これが正解で、それを判定できるのは農水省の担当官しかいないのである。ついでに極めて難度の高い質問をしてみる。赤飯は小豆ともち米で作られるが、同じ袋に小豆ともち米が小分けして別々に入っているものと、小豆ももち米が混ぜて入って一緒に入っている袋がある。一方は主食用米で一方は主食用米として認定されなかったのである。もう一つ、コメやコメ加工食品の中で輸出されるものがあるがこれは主食用の需要と見做されるのか、そうでないのか?なぜ、そうなるのか答えるには複雑怪奇なコメの制度を理解するだけでは不十分で、なぜそういう判断が下されるのか政治的要因まで踏み込まないと真実には踏み込めない。
こうした奇怪とも思える判断の上で「主食用米需給」という代物が世に出されているのである。はたしてこうした需給見通しがコメの需給を語るうえでどのような意味をもつのか?百歩譲って、農水省の判定する主食用米という認定が正しいとして、なぜ、短時間でこれほどまでに需要見通しが狂うのか?
主食用の需要見通しが大幅に狂ったのは今回が初めてではない。令和5年3月5日に開催された食糧部会で農水省はR5/6年度の需給見通しとして供給量は令和5年6月末在庫が197万tで、これに5年産米の生産量661万tを加えた858万tが期初供給量で、これに対して期間中の需要量は681万tと見込み、差し引き177万tが令和6年6月末の在庫になると発表した。ところがわずか4か月後の7月30日に開催された食糧部会では供給量はそのままであったのに対して需要量がいきなり21万tも増加して702万tになるという数字を当てはめ、令和6年6月末の在庫は156万tまで減少するという見通しを公表した。つまり、農水省は年度末(6月末)の民間在庫が減ったのは、期間中の需要量が見通しを大幅に上回ったからだという見方をして、こうした数字を示しているのだが、需給見通しの策定方式は、前年度の期末在庫プラス当該年の生産量マイナス年度内需要量イコール年度末在庫という式で出しているのだから、需要量が増えたのではなく供給量が少なかったので年度末の民間在庫が少なくなったという式も成立する。これが「令和のコメ騒動」の原因なのだが、これは農水省の生産統計が間違っているということを意味するだけに農水省がこれを認めることはない。
水稲生産量も全体の生産量として「子実用」と「主食用」の生産量を分けて公表しており、需給見通しではもっぱら主食用の生産統計を採用している。需要を主食用であるのかないのか農水省が判断している以上、供給面でも農水省が主食用と判断すればその量がカウントされることになる。これではコメ全体の需給状況がどうなっているのかは判断できないので、コメの需給見通しなど出せるはずがない。需給を策定する根本的なことが間違っているので、生産統計にしろ需要統計にしろ、いろいろ理屈をつけて整合性を見い出そうとしても意味がないのである。
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