生産量増加でも市中価格が値下がりしない不思議【熊野孝文・米マーケット情報】2025年9月2日
8月29日に農水省が令和7年産主食用生産見込みを公表した。タイトルとして「対前年比56万玄米t増に向け、概ね順調に推移」と記されていた。統計部の発表情報にこうしたタイトルが付けられているのをはじめてみたが、それだけ7年産米の供給量が増えて欲しいという願望が込められているのだろう。なにせ前日の28日に開催されたクリスタルライスの取引会では、北海道から東北、北陸、関東まで軒並み3万円を超える7年産米の売り物が出て、その売り唱え価格のまま半分以上が成約したというのだから、にわかには信じられなかった。市場関係者によるとこの高値の背景の要因の一つに農協系統の概算金アップに伴う庭先価格の高騰をあげる向きもある。
JA全農あきたは8月29日に主力銘柄のあきたこまちの概算金を1700円値上げして3万円(玄米60kg)にしたと報じられている。収穫直前になって生産者概算金をさらに引き上げなくてはならなくなった理由については後ほど触れることにして、そもそも農協系統は7年産概算金に対してどのような考え方だったのか?
全農系統は6年産米の集荷数量が大幅に落ち込んだことから、集荷の太宗を担う組織という表現を使えなくなると危機感から、7年産米については227万tという具体的な集荷目標数量を掲げ、これを"必達目標"としている。この目標を定めた時の概算金の考え方は「営農継続的な生産者手取り等を勘案しながら、従来水準を見直した産地銘柄別の居所(相対価格~精米小売価格)を想定し、生産者・消費者双方からの理解確保に努める」というもので、産地別の相対販売価格のイメージを示していた。JAから卸に販売する相対価格(税別)は、3万円超水準は(魚沼コシヒカリその他)、2万8000円水準(新潟コシヒカリ他)、2万6000円水準(北陸コシヒカリ他)、2万4000円~2万5000円水準(東北主要銘柄、各県コシヒカリ他)、2万2000円~2万4000円水準(主要B銘柄)というものであった。こうした価格を提示するにあたっては、全中サイドから適正な価格として「産地側は営農継続の観点から資材費、設備投資費、人件費等を賄える農家所得の確保など視点が重要」としながら「消費側は、消費者の再生産可能な価格水準への理解と同時に、過度な価格上昇はコメ離れや民間輸入が拡大している外国産米へのシフトにつながること等も十分考慮する必要」としている。実際、以前このコラムで触れたように敏腕商社担当者は、外食や冷凍米飯メーカーに対して「今後、国産米をkg500円以下で入手することは出来ない」というセールストークで万t単位で関税払いの外国産米を売り込んだ。7年産国産米の高値が続くとkg341円払った外国産米の輸入が続くことになる。さらにはこれまで国産米使用にこだわってきた清酒や焼酎メーカーの中にも外国産米を使用するところが出てくるかもしれない。実際、国産米にこだわってきた大手米菓メーカーも現在の価格は「限界」としており、仕入れ政策を抜本的に変える可能性もある。
JA全農あきたも7月時点では、全農本所の考え方に沿ったものであった。共計運営プロジェクトの結論として①令和7年産米JA概算金予定水準を生産者が安定した営農の継続と次年以降も投資可能な価格水準を試算し、生産費+投資等が出来る収入を20万円/10aと確認した②店頭での適正な精米販売価格は、消費者に継続的に購入してもらえる価格帯を目指すこととし、あきたこまち精米で3200円~3400円(5kg/税別)程度と確認した③集荷業者の動向を見据え、出来秋時に生産者がJAグループに出荷する価格水準を目指し、あきたこまちで2万4000円以上が必要であることを確認した④概算金追加払いの手続きについて、時期、価格水準を機動的かつ迅速に対応するため、組織代表が判断できるように見直すこととし、この手順は職務権限において以下の通り確認した。―としている。この決定に従い追加払いを行ったのだが、この時点で想定されたあきたこまちの概算金最高額は2万9000円で、この価格で集荷して3万1000円で卸に販売するというものであった。この3万1000円というのは5kg4000円以下で販売できるぎりぎりのライン。ところが本家より早めに出回った茨城のあきたこまちは日を追うごとに庭先価格が上昇し、3万3000円を超えるまでになった。さらにはクリスタルタイス取引会での秋田あきたこまちの売り唱え価格は安いもので3万5210円(1等東京持ち込み税別)、高値は3万8160円まであった。これほどまでに市中の取引価格が値上がりすればJA系統としても事前契約した数量を確保するためにも概算金を引き上げざるを得なかったということなのだろう。
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