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(469)なぜタイのエビは主役ではなくなったのか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2026年1月16日

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 日本のエビ輸入数量は、年間約20万トンで推移しています。ただし、エビの輸入元を見ると、競争優位を持続している国と喪失しつつある国が明確に分かれています。

(469)なぜタイのエビは主役ではなくなったのか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】

 2010年代の初め、食卓に並ぶエビの最大産地はタイであった。今では、それがインド、ヴェトナム、インドネシアが中心となり、これにアルゼンチンやエクアドルなどが加わっている。最盛期には年間約4万トンを日本向けに輸出していたタイ産のエビは、2024年には7千トン水準にまで減少している。他国が輸出を伸ばしている中で、なぜタイだけが対日輸出を減少させたか、これは今後の日本の農産物を考える際に、貴重な示唆を与えてくれる。なお、冒頭で年間輸入数量を約20万トンと述べたが、2024年(暦年)の数字を見ると、冷凍エビが約14.6万トン、調製エビが約6.1万トンに分かれる。以下では冷凍エビに焦点を当てて話を進める。

 時系列で見れば、2010年代当初のタイは日本向けエビ輸出の最大手であった。その後、ヴェトナムが競争相手として台頭する。これにインドネシアやインドも数を伸ばして4強状態が継続した。この均衡を崩すきっかけとなったのがEMS(Early Mortality Syndrome:早期死亡症候群)である。この病気は2009年頃に中国で報告され、その後、ヴェトナムやタイに拡大していった。水産養殖業に多大な被害を及ぼしたEMSの拡大を競争力喪失の理由にすることはわかりやすいが、誤解も生む。同様に被害を受けた国であるヴェトナムの対日輸出は減少したとはいえ、タイほどではなかったからである。

 恐らく問題の本質は、タイが余りにも優秀な高密度の管理システムを構築していたからである。言い換えれば、養殖のように自然環境の変化を直接受けるシステムを、余りにも高度かつ高密度で管理し過ぎたため、EMSの直撃が想定以上の被害を生じさせたのである。技術や管理を重視すること自体は基本かつ重要である。ただし、それが行き過ぎるとシステムは意外に脆くなる。これは技術や管理の過信と言ってよいかもしれない。

 当時のタイのエビ養殖が高密度かつ高度に集約されていたのに比較すると、ヴェトナムは低密度で分散型かつ、小規模農家が多いためにいわば裾野が広く、リスク分散が出来ていたと考えられる。逆説的だが、個々の小規模農家が比較的自由に養殖していたヴェトナムでは、統制されていない分だけリスクが分散し、早期回復と持続的競争優位につながったのである。

 日本向けのエビ輸出という面に焦点を当てれば、人口減少局面に入りつつあった2010年代以降の日本では、高品質のエビの需要は頭打ちであり、単価も上げにくい状況が継続していた。言い換えれば、タイの高品質なエビは日本市場にとっては過剰品質になりつつあったのかもしれない。そのすき間が新規参入者でもあるアルゼンチンやエクアドルなどから奪われる結果となったのである。

 さて、この教訓を今でも技術や最適化が最善の戦略と考える人間が多い日本はどう生かせるだろうか。エビに限らず、農林水産物は工業製品とは異なる特性を備えている。また、常にオペレーションの最適化だけを追求していると、ある方向には抜群に強さを発揮しても想定外の自然環境の変化により壊滅的な打撃を受ける。

 19世紀半ば、アイルランドで発生したポテト飢饉も、単一作物への過度の依存と自然災害により大打撃を受けた例である。品目に限らず、その生育や管理方法も含め、過度な最適化は自然環境の変化に対して脆くなることを歴史は何度も示している。

 変化を生き残るフードシステムの構築には、最適化が万能ではないことをタイのエビはあらためて我々に教えてくれているように思えてならない。

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