水稲の高温耐性品種の作付け面積、16%超に拡大 高温登熟性「やや強」から「強」へ 農研機構2025年6月26日
農研機構は6月25日、東京都内で水稲と果樹の高温障害および高温耐性品種に関するセミナーを開催した。水稲では全国的に高温障害が増加し、一等米比率の低下につながっている。セミナーでは白未熟粒発生のメカニズムや、「にじのきらめき」など農研機構が開発した高温耐性品種を詳しく紹介した。
白未熟粒の発生は過去最高に
農林水産省の「令和5年地球温暖化影響調査レポート」によれば、水稲の白未熟粒の発生が過去最多となった。原因は出穂以降の高温で、北日本と東日本では5割程度、西日本でも4割程度に達した。
白未熟粒とは、胚乳の一部が白濁した玄米であり、精米時の割れや歩留まり低下、炊飯時の割れの原因となる。農産物検査では等級が下がり、農家の収入に悪影響を及ぼす。出穂後20日間の平均気温が26℃を超えると、乳白粒、背白粒、基部未熟粒が増加する傾向にある。
水稲は品種によって登熟期の高温による白未熟粒の発生の程度(高温登熟性)が異なる。農研機構では高温耐性品種ごとの高温登熟性を「弱」「やや弱」「中」「やや強」「強」の5段階で評価している。高温耐性品種の作付けは年々増加しており、農水省調査では令和2年に主食用作付面積の11.2%だった高温耐性品種が、令和6年には16.2%まで拡大した。
注目品種「にじのきらめき」
高温耐性品種の中で最も注目されているのが「にじのきらめき」だ。農研機構の中日本農業研究センターが育成し、種子親(母)「なつほのか」(鹿児島、高温耐性)と花粉親(父)「北陸223号」(多収、良食味、縞葉枯病抵抗性)を交配し、2018年に品種登録を出願、2022年に登録された。
令和6年産の検査数量(農水省速報値)は前年の倍以上の6万4592tに達した。検査数量上位5県(茨城、群馬、千葉、新潟、滋賀)での一等米比率を「コシヒカリ」と比較すると、令和5年産は千葉では「コシヒカリ」がやや上回ったが、他県では「にじのきらめき」が大きく上回った。特に新潟では両品種とも一等米比率が低かったが、「コシヒカリ」は三等米が多く、「にじのきらめき」は二等米で踏みとどまる例が多かったという。令和6年産は千葉と新潟は「コシヒカリ」が若干上回ったのもの僅差で、他県は「にじのきらめき」が大きく上回った。
穂温が上がりにくい構造と多収性
「にじのきらめき」の高温耐性の特徴は、穂の温度が上昇しにくい点にある。気温27℃までは「コシヒカリ」と同程度だが、それを超えると穂温の上昇が抑えられる。葉(止葉)がよく立ち、穂が隠れて直射日光を和らげる。また、葉の蒸散による気化熱効果も穂温上昇を抑制する。
稈長は「コシヒカリ」より15cm短く、耐倒伏性にも優れる。さらに、「コシヒカリ」より1割以上多収で、玄米千粒重が重く、実需者にも好まれる。農研機構の同一条件試験では、標肥で重量が「コシヒカリ」より15%、多肥では29%高い。食味官能試験でも「コシヒカリ」と同等の良食味で、いもち病や縞葉枯病への抵抗性もある。
適応地域は東北南部以南とされ、新潟、関東、東海を中心に普及が進んでいる。令和6年産の栽培面積は約1万haと推定される。
西日本は「きぬむすめ」「にこまる」が主力
西日本の平野部では「きぬむすめ」と「にこまる」が広く普及している。両品種とも2005年に品種登録出願され、高温登熟性は「中」。令和6年産の検査数量は「きぬむすめ」が5万3575t(産地品種銘柄設定:15県)、「にこまる」は2万1831t(同:27県)。ただ、「にこまる」の一等米比率は年によって30%台〜70%台と不安定で、「きぬむすめ」も令和3年産以降低下傾向にあり、令和6年産では50%台とやや苦戦している。
高温登熟性「やや強」の新たな選択肢
これに対して、「恋の予感」(2011年登録出願)は高温登熟性「やや強」で、一等米比率は令和2年産を除いて安定的に70%台を維持し、80%台の年もある。標肥栽培で「ヒノヒカリ」より15%程度多収で、食味も同等。炊飯米は表面がやや硬めで中が柔らかいのが特徴で、縞葉枯病抵抗性もある。
西日本向きの品種ではほか、「つやきらり」(2018年登録出願)の高温登熟性も「やや強」で、標肥で「きぬむすめ」より7%程度多収、食味は「ヒノヒカリ」と同等で、表層はやや硬め。島根県と福岡県で銘柄指定されている。同様に高温登熟性「やや強」の「秋はるか」(2017年登録出願)は、いもち病や縞葉枯病、トビイロウンカにも強く、玄米品質が良好で、「ヒノヒカリ」より15%多収。食味はあっさりしている。
東北・北陸にも適した高温耐性品種
東北向けには「しふくのみのり」(2016年登録出願)を推す。高温登熟性「やや強」で、「ひとめぼれ」などより品質が落ちにくい。多肥栽培で「ひとめぼれ」より17〜34%多収。縞葉枯病耐性があり、耐倒伏性も「かなり強」。秋田、三重、滋賀で銘柄指定され、検査数量は前年の161tから970tへと急増している。
北陸以西向けには「あきあかね」(2017年登録出願)が高温登熟性「やや強」、食味は「コシヒカリ」並み。晩生で収穫期を分散でき、「日本晴」より16%多収。倒伏に強く、縞葉枯病耐性もある。
東北南部・北陸向きの「笑みの絆」(2011年登録出願)は高温登熟性は「強」だ。寿司米として評価が高く、福島、茨城、新潟、石川、滋賀で銘柄指定され「親品種としても期待」されている。
富山のオリジナル品種「富富富」にも注目
農研機構以外では、富山県育成の「富富富」(2017年出願)がある。2018年にデビューし、令和5年の猛暑でも90%台の一等米比率を維持した。検査数量も増加し、令和6年産は7231tから1万436tへと急増した。
「富富富」は、農研機構などが開発した高温耐性に関わる3つの遺伝子を保有している。白未熟粒や穂発芽性を抑え、高温下でのデンプン分解酵素(α-アミラーゼ)を低減して乳白粒の発生を抑制するなどの特性を持つ。
農研機構では、「やや強」の品種が一定程度出そろったとし、今後は高温登熟性「強」以上を目指す方針。白未熟粒を低減する遺伝子などの活用を進めていく考えだ。
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