誰もが「つながり」持てる地域へ 新潟市でひきこもり理解広める全国キャラバン実施2025年10月21日
パルシステム連合会が企画委員を務める、厚生労働省による「ひきこもり広報事業」の一環である「ひきこもりVOICE STATION全国キャラバン」が10月11日、NOCプラザ新潟卸センター(新潟市東区)で開催。会場とオンラインで133人が参加し、ひきこもり経験者や家族、支援者のパネルトークを通じて当事者のさまざまな思いに触れ、理解を深めた。
登壇した永井さん(左)と安田さん
厚生労働省が主催し文部科学省が後援するひきこもりVOICE STATION全国キャラバンは、8月23日から11月8日にかけて神奈川、高知、秋田、新潟、奈良、大分の6県の会場で開催。社会の多様性への不寛容に違和感を持ち、心にブレーキをかけ、ひきこもり状態にある人たちへの理解を広めるイベントで、4会場目となった新潟市では、ひきこもり経験があるNPO法人新潟ねっと(新潟市西区)代表理事の村山賢さんがアンバサダーを務めた。
「ひきこもりVOICE STATION事務局」のメンバーでNPO法人グリーンズの東善仁さんが司会を務め、2人のゲストとパネルトークを展開。ゲストが当事者から支援者になって見えてきたものを「渦中にいた頃」「家族」「つながるタイミング」「今見えているもの」の4つのキーワードから引き出した。
渦中の思いと家族の存在
登壇したのは、新潟市西区「親の会」世話人の永井磨澄さんとひきこもり経験をもつ福祉専門職の安田翔馬さん。永井さんは息子の高校と専門学校時代の不登校をきっかけに、親の会に参加した。義務教育の間は相談に乗ってくれた学校の支援がなくなり、NPO法人新潟ねっととつながったことで、現在は青年を対象とした親の会を立ち上げ運営している。
安田さんは大学での就職活動に失敗したことをきっかけに「自分は他人より劣っていて、社会に出て働く能力がない」と思い込むようになり、無気力な自分を責めながら10年を過ごした。渦中にいた頃は、何もやっていないのに「何をやってもうまくいかない」との思いで、「自分の責任で陥っているひきこもりの状況に対し、他人に助けを求めるのはおこがましい」と考えていたという。
家族は、ゲームばかりしている安田さんを叱って働けと言うこともなく、食事は一緒に取るなど普通に接し、良い意味で放置してくれていたと話す。
永井さんも、息子の不登校を「他の子が普通にできることができないのは、本人の甘えで育て方が悪かった」と自分を責め、当初は学校に行かせようと説得していたが、親にできることは、メンタルの回復に欠かせない「安心して過ごせる場所づくり」くらいしか無いと考えるようになった。食事と睡眠の確保をフォローしながら、家事の役割を持ってもらうなど、大人としての本人の尊厳を大切にして接していたという。
「つながり」から見えてきたこと
永井さんは、息子のメンタル回復のためにさまざまな相談機関を探すなか、当初は「もっと大変な状況にある人もいるのに、自分が相談しても良いのか」とためらいがあった。しかし、ステージⅠのがん患者が「もっと重症の人がいる」と受診をためらわないのと同じで、早期の対応が必要と考え支援につながった。自身が介護の仕事をしていたことから「家族だけで抱え込む必要はなく、地域の第三者だからできることやアドバイスもあります」と話す。現在は社会福祉士の資格を取り、助けてくれる人がいる世の中に対し、微力ながらでもできることを返していきたいと伝えた。
安田さんは、ひきこもっていた時期にオンラインゲームのコミュニティに参加し、運営の役割を担うようになった。メンバーが楽しくゲームをできるよう、交流や意見交換を重ねるなか、つながり続けていきたいとの気持ちが生まれた。そのためには社会に出て、賃金を得て経験や知識を積む必要があると自分の内側から気力が湧いてきて、心療内科や就労支援機関につながった。福祉の仕事を始めてからは「何もできないと思っていた自分にも意外とできることはあるし、不安でもやってみれば何とかなる」と思えるようになったと話す。
二人は、ひきこもりにある状態は「苦しい」としか言葉では表現できず、「助けて」と言えない気持ちも理解できるが、人を頼ってと話す。「相談機関でも友人でも、手を差し伸べて受け入れてくれる人は必ずいます。諦めず一歩を踏み出してください」と伝え、トークを締めくくった。
ワークショップで「つながり」作るアイデアを
アイデアをまとめた「新潟みらい新聞」を紹介する参加者
イベント第2部は、会場の参加者約60人でワークショップを実施。参加者それぞれが当事者の声や望みに思いを馳せ、新潟にある人や物、事などの地域資源を掛け合わせ支援につなげるアイデアを出し合い「新潟みらい新聞」にまとめた。
安田さんのオンラインゲームから生まれたつながりにアイデアを見いだしたグループは、バーチャル空間で自分の得意なことを必要とする人に提供し、対価も得られる場所づくりを提案。農業が盛んな新潟の地域資源にアイデアを得たグループは、人手不足の農家とのマッチングシステムで農作業に参加し、収穫した農産物を調理し交流するつながりづくりなどを提案した。
ひきこもりの状況にある人だけでなく、多様な世代が地域の中でつながりをつくり、それぞれができることで役割を果たしていくことで、誰もが生きやすい地域づくりを目指そうという、多様なアイデアが出されたワークショップとなった。
国際協同組合年に生協として理解広める
ひきこもりVOICE STATION全国キャラバンは、当事者や家族、支援団体など知見を有する委員が参加し、企画を検討している。パルシステムは生活協同組合の立場から、より多くの消費者に「ひきこもり」への理解を広めるため参加。「つながり」による協同組合の力を社会に広く周知する国際協同組合年に、生協の力を発揮する。
新潟会場で参加したパルシステム新潟ときめきの管理・運営室の五十嵐大輔室長は「実際に当事者の話を聞いたのは初めてですが、生協として何ができるのか身につまされる思いがした」と話した。また、金沢ゆかり理事は「パルシステムが連携する地域団体による電話相談などで『つながり』を作る一助になれば」と課題を受け止めた。
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