農薬:サステナ防除のすすめ2025
【サステナ防除のすすめ】水稲除草剤 草種、生態を見極め防除を(2)2025年10月21日
令和の米騒動後も米価格の高騰が続き、それに伴って米の作付面積の拡大が見込まれている。その作付面積の拡大には、これまで休んでいた水田を復活させたり、部分休耕していた水田の全面利用などが必要になるだろう。ところが、部分休耕では作付けされていない部分での雑草管理が緩い水田も多いため、毎年作付けしている水田に比べて雑草の発生量が多くなるケースが予想される。また、休耕田の復活では雑草の発生様相が変化しており、雑草防除が困難なケースも予想される。そうすると、水田の状態に合わせた除草剤の選定が不可欠になる。
以下、雑草防除の基本に立ち返りながらサステナ的除草剤選びのヒントを紹介する。
発芽前処理が基本
雑草の生態に合わせた除草の使用方法
除草剤は、いつ散布しても効果を示すかというとそうではない。除草剤にも一番効率的に防除できる"適期"というものがある。その適期を知るためには、雑草のライフサイクルを知ることが重要で、どんな植物でも発芽したての幼植物はか弱く、除草剤の影響も受けやすいので、発芽(出芽)時期に合わせて除草剤を作用させることができれば、高い効果が期待できるのである。
(1)発芽・生育
発芽とは、雑草の種子が休眠を終えて細胞が旺盛な生育を始め、芽が出て植物体が地上に登場することである。種子が発芽するためには、必要な環境条件があり、水、酸素、温度、光が発芽を左右する。
まず、水と酸素である。種子は水を吸収して種子内の膨圧を高めて被膜を破る。このとき、酸素が胚芽細胞に取り込まれる。発芽には大量の酸素が必要で、酸素が欠乏する状態では正常に発芽・生育ができないことが多い。このため、種子繁殖の一年生雑草などは、土壌の浅い所では発芽するが、土壌深く埋まって酸素が足りない時には不適な環境と判断して休眠してしまう。
このため、浅いところで発芽しようとしている雑草種子に除草剤成分が確実に作用できるように土壌表面を平にして均一な処理層(除草剤の成分が含まれる層)を作っておくことが重要である。丁寧な代かきを行って土壌表面の均平度を高めておくと除草剤の効果も高まるのはこのためである。
そして、雑草の種子それぞれには、発芽するのに必要な最低温度、旺盛に発芽する適温がある。タイヌビエなどの夏生雑草(4~5月に発生し、8~10月に結実するもの)の発芽適温は30~35度であるが、実際には最低10~15度の温度があれば発芽する。水稲でいえば、代かき・田植えの時期に最低温度を超えていると田植え前に雑草の発生が旺盛になってしまい、除草剤の葉令適期を超えてしまう恐れがある。
近年の温暖化の影響か、雑草の生育スピードが速く、従来と同じタイミング(田植え後日数)で除草剤を処理していては除草適期を逃して、雑草を取りこぼしてしまうことが多くなる。このような場合には、登録の範囲内で出来るだけ早い時期に処理するか、田植え同時に処理できる除草剤を選択する、初期剤を使用するなどの工夫が必要である。
(2)発生深度
雑草には発生に適した土壌の深さがあり、深さが好適であると雑草の発生が多くなる。逆に、深すぎるなど発生に不適な深さであると雑草の発生は少なくなる。ただし、塊茎から発生する多年生雑草の場合は、かなり深い位置からも発生してくるので、それがダラダラ発生の原因ともなる。これを防ぐためには、残効の長い除草剤を使用するか、前年の刈り取り後に、根まで枯らすことのできる非選択性茎葉処理除草剤を使用するなどして塊茎の発生量を少なくすると発生量を減らすことができる。
(3)多産性・早熟性
雑草が防除しても防除しても無くならない一つの要因に多産性と発芽から登熟結実までの期間の短さにある。つまり、雑草は、おびただしい数の発芽が可能な種子を稲よりも早く実らせて次世代を残す能力が強いのだ。生産される種子数は、少ない雑草でも1株あたり1000粒を超え、多いものになると80万粒を超えるものもある。これだけ多量に種子が作られると、除草には大変な苦労が伴う。
このため、出来るだけ早めに除草してほ場内で結実(充実)させないようにするか、もし取りこぼしてしまった場合は、後期の除草剤散布するか手で抜くなど結実する前の取り除き作業が必要である。
時期逃さず早めに
使用量と剤型による除草剤選び
除草剤の使用量は10a(1反)あたりに散布する量が決まっている。1キロ粒剤であれば10a1kg、フロアブル剤であれば10a500ml、ジャンボ剤であれば10a10パック(250g~400g程度)といった量を水田内に均一に散布する。豆つぶ剤やFG剤、楽粒などの拡散性粒剤は、粒の製剤量で10a250g~400gを畦畔(けいはん)回りや畦畔一辺から軽く振りまくだけで自己拡散により水田内を拡散し、省力的な散布が可能だ。
使用量による除草剤選びは、経営面積と所有する散布機械の種類による。
例えば、経営面積が大きくて田植え数日後に除草剤を散布する時間や労力が無い場合は、田植え同時処理ができる除草剤(1キロ粒剤かフロアブル)を田植え同時散布装置付の田植え機で散布すれば田植えと同時に除草剤処理が終了するため、大幅な省力化が可能となる。ただし、除草剤は水を介して効果を示す特性があるため、田植え後のたん水管理を確実に行わないと効果不足をまねく原因となるので注意が必要である。また、1キロ粒剤であれば大規模に使用できる安価な大型規格が充実しているので、除草コストを抑える面でもメリットがある方法だ。
また、中山間地など面積が小さく、散布機械が入りにくい水田では、面積に合わせて投下パック数を調整できるジャンボ剤が効率的であるし、1ha程度の大面積で除草剤の効果を発揮させやすいたん水後に省力的に散布したいのであれば、FG剤の風上一辺散布など拡散性製剤の省力散布がお勧めである。また、ドローンを活用したいのであれば、フロアブル剤か豆つぶやFG剤などが適している。
このように、散布方法によって選ぶ製剤が異なるので、発生する雑草によって使用する除草剤を決めたら、散布方法に応じて製剤を選択するようにすると良い。
ただし、水稲除草剤は水を介して処理層をつくって効果を発揮するので、除草剤処理後にたん水状態を保つことが非常に重要である。特に、ジャンボ剤や拡散性粒剤は水が無いと十分な拡散ができないため、処理時にたん水状態になっていないと効果が不安定になる。このため、水持ちが悪い水田では1キロ粒剤でないと除草できない場合もあるので、除草剤の剤型を選択する際には、水田の水の状態にあっているかどうかを考慮するよう必要がある。
一方、水に希釈して散布する除草剤の場合は、使用方法が乗用管理機か背負式噴霧機に限られ、労力的にはブームスプレーヤーが装着された乗用管理機の使用がお勧めである。なぜなら、背負式噴霧機で水希釈除草剤を散布する場合、重い機械を背負って足元が悪い水田内を歩き回らなくてはならず、多大な労力がかかるからである。できれば、散布が楽で効果も高い製剤と散布方法を選ぶようにして欲しい。
使用時期による除草剤選び
使用時期は、その除草剤が一番効果を発揮する時期でもあるので、製品ラベルをよく読んで時期を逃さず使用するように心がけたい。
散布時期は、代かき前や移植直後~ノビエ2・5葉期までなどのように、ノビエの葉齢で使用時期が決まっている。
除草剤はその有効成分によって、雑草の葉齢によって効く効かないがあり、どの葉齢までを枯らせるかを葉齢限界といっている。定められた葉齢限界を超えて処理を行っても、雑草を枯らせない(取りこぼす)ことが多くなる。近年は高葉齢のノビエに効果を示す除草剤成分が開発され、使用できる散布適期幅が広がっている。しかし、温暖化によってヒエの葉齢が早く進むことが多くなっているので、高葉齢のヒエに効果を発揮する除草剤であっても出来るだけ早くに散布すると効果も安定する。
なぜなら、観察した場所が葉齢限界内であっても、観察していない場所で葉齢限界を超えた雑草の存在を確認できず、雑草を取りこぼすこともあるからである。残効の長い除草剤も増えてきたので、散布適期が遅れて取りこぼすよりも、使用時期内での早めの散布で確実に除草した方が効率が良い。
高葉齢のヒエにまで効く除草剤が登場するようになって、適期幅の拡大を期待して高葉齢に対応できる除草剤を選ぶ事例も多い。しかし、こういった除草剤は、高葉齢の雑草に効くので散布適期が後ろにずらせると考えがちであるが、雑草の葉齢進展が早い環境下での取りこぼしを少なくするためには、高葉齢対応剤を散布適期の中で早めに処理する方が効果が安定するだろう。
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