【中酪ナチュラルチーズコンテスト】出場過去最多、最優秀に滋賀・山田牧場2025年10月21日
中央酪農会議は17日、2年に一度の「ALL JAPAN ナチュラルチーズコンテスト」を開き、最優秀の農水大臣賞に滋賀県甲賀市・山田牧場の「ラクレット」が輝いた。15回目となる同コンテストは国産チーズ振興の一環で、過去最多の全国123工房が出場した。(農政ジャーナリスト・伊本克宜)
中酪ナチュラルチーズコンテストで表彰を受けた各工房。左から農水大臣賞・山田牧場、
最優秀に次ぐ農畜産業振興機構理事長賞の六甲山牧場チーズ工房(神戸市)ら(17日、都内ホテルで)
■〈百花繚乱〉日本独自の風味を追求
同コンテストは、日本人のし好に合ったチーズ製造や独自のチーズ文化創造を目指す。
自慢のチーズにかける各地のチーズ工房の熱気が会場内を包んだ。各受賞が決まるたびに歓声とため息が交じった。表彰後の一般消費者向けの各地のチーズ試食会も、大勢の人で埋まった。地域の独自色を映した国産ナチュラルチーズの商品は多様で、まさに〈百花繚乱〉の様相でもある。工房はやはり酪農主産地の北海道が目立つものの、南は沖縄県の宮古島のヤギミルクを使った作品まで全国から集まった。
農水大臣賞の「山田牧場 カーサビアンカ」代表の山田保高代表は受賞作品「ラクレット」を「長期熟成し、いくつもの乳酸菌の良さを生かした。ミルクの風味をどう出すかにこだわり抜いたチーズを追求してきた」と、受賞品の手ごたえを話した。
■着実に国産のレベル向上
今回のコンテストで関係者から指摘されたのは、国産の品質が国際水準にまで着実に向上していることだ。
主催者あいさつで隈部洋中酪副会長は「今回は123工房、296アイテムと過去最高の出場となった。さらなる国産ナチュラルチーズ飛躍の契機としたい」と強調。チーズ生産者には「独自性を発揮し、より高いステージへ行くことが大切だ」と述べた。
長井俊彦農水省畜産局長は「チーズ工房は全国で約350工房と増え、国際コンテストでも上位入賞が相次ぐなど国産の品質レベルは着実に向上してきた」と評価。今後の生乳需要拡大を通じ、国内酪農発展への貢献を期待した。
審査委員長を務めた山本博紀北海道乳業製造部長も「一つ一つ個性的なチーズが出品されている。年々レベルは上がり、今後のさらなる進化が楽しみだ」と国産チーズの一層のレベルアップを見通した。
審査後の国産チーズ試食会には大勢の人が詰めかけた
■高付加価値国産で輸入品〈迎撃〉
中酪主催の同コンテスト開催はもともと、輸入自由化圧力にさらされてきた国産生乳の競争力を高めるために、活路を輸入品対抗のナチュラルチーズの高付加価値化を促進するためだ。
肝は日本人が長年なじんだプロセスチーズではなく、比較的日持ちがしないナチュラルチーズに絞り込んだことだ。輸入品に対抗し、国産優位を確保できる可能性がある。それが国内酪農の生き残り戦略とも重なる。今後5年先の2030年を見据えた2025年4月策定の酪農・肉用牛近代化基本方向(酪肉近)の中でも、国産チーズ振興、特に競争力のあるソフト系ナチュラルチーズ振興を明記した。
通商交渉の結果、輸入チーズの関税率が年々削減され、輸入品と国産プロセス原料ナチュラルチーズの関税割当制度も早晩、機能を発揮しなくなる。現在、これまで乳製品で主流だったバター、脱脂粉乳向けも需要低迷から脱粉の過剰在庫処理が大きな問題。消費が底堅い国産ナチュラルチーズ振興が重要となっている。ただ、輸入品との対抗上、チーズ向け乳価は低く、酪農経営にとっては課題だ。
後援組織として農水省が前面に出ているのもそのためだ。同省補助事業である「国産チーズ競争力強化支援事業」などで後押しする。今回、会場を拡大した都内ホテルにしたのも、国産ナチュラルチーズの参加者のすそ野が広がったからに他ならない。
■需要拡大にどうつなげる
いくらレベルが上がっても、消費のすそ野が広がらなければ国産チーズの先行きは展望が見えない。
実需はどう見るのか。審査委員の一人、大手スーパー・イオンリテール食品本部の岸保典氏は「国産ナチュラルチーズをスーパー店頭で消費拡大を目指すことが大切だ」として、日本人に合ったし好性、食べやすさと保存性の重要さを指摘した。スーパーでの扱いやすさ、売りやすさは、今後の需要拡大のヒントの一つとなるだろう。今回、農水大臣賞作をはじめ、し好と保存性を兼ね合わせた出品も目立ってきた。
■地域酪農振興への波及効果課題
同コンテストが着実に国産チーズのレベルアップにつながっているとしても、問題はそれが肝心の地域酪農発展にどう結びついているのかだ。
この点に関しては模索が続く。上位入賞者には観光牧場なども多く、チーズの品質を左右する原料となる生乳も牧場内の特別な飼養管理で生産された。観光牧場の販売戦略として独自の手作りチーズの位置づけだ。販売数量も限定されている。チーズコンテストを通じ、地域酪農振興にどうつなげていくのかはさらなる検討、工夫が必要だ。
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