【インタビュー】農林中央金庫 八木正展代表理事兼常務執行役員・最高執行責任者2021年5月10日
農林中央金庫は4月から役員制度から専務をなくし奥和登理事長のもとで14人の常務執行役員が業務ごとに所管する新体制が発足した。新体制にともなって新代表理事と最高執行責任者に就任した八木正展常務執行役員に新体制の狙いや今後の事業展開の重点事項などを聞いた。
ワンチーム体制で機動的に農業、JAの課題に貢献
八木正展代表理事兼常務執行役員・最高執行責任者
「国消国産」の重要性発信
--最初に農業・農村、JAをめぐる状況についての認識をお聞かせください。
わが国の少子高齢化や人口減少がこれから本格化していくなかで、とくに生産年齢人口は4割ぐらいの減少が見込まれていて、日本全体として労働力確保が大きな課題だと思っています。
農業分野についても基幹的農業従事者の年齢がどんどん高齢化していくなか、担い手をどう確保するか、それがまさに農林水産業が持続可能かどうかのポイントだと思っています。
一方、コロナ禍もあってライフスタイルが大きく変わっていき、とくに食に対する考え方などは大きく変わってきたのではないかと思います。具体的には生鮮食品からより付加価値の高い加工食品にシフトしたり、米よりもパンを嗜好する若い人たちも増えてきているなどです。中長期的に考えると人口減少も含めて、これから第一次産業を担う人たちは、いろいろな社会の変化を見据えて農産物をつくっていかなくてはならなくなると考えています。
同時に、農村も高齢化や過疎化が顕著になっていくなか、とくに中山間地域をどうするかが求められてくると思います。こうしたなかでJAの果たす役割は非常に大きい。
JAグループは食と農を基軸にして農村を含む地域に根差した協同組合として、自己改革を通じて農業者の所得増大、農業生産の拡大、さらには地域活性化の3つの目標を掲げて活動しており、持続可能な農業、農村づくりと食料供給についての役割はますます大きくなっていくと思っています。
また、昨今はSDGsやESGといった観点が求められてきます。とくに気候変動はわが国の農林水産業に影響を与える問題でもあり、その対応は適切に対処する必要もありますし、日本の人口は減っても世界の人口は増えていくわけですから、農産物の輸入もいつまでも安定的なのか、ということになれば国内生産がますます重要になってきます。自国で消費するものは自国で生産する「国消国産」という言葉をぜひ伝えて理解を広げていくことは大事ではないかと思っています。
農林中央金庫もこういう状況をふまえつつ、信用事業を通じて役割や機能を最大限発揮してわが国の農林水産業に貢献して汗をかいていきたいと考えています。
現場の声に応える体制
--新代表理事、最高執行責任者としての抱負を聞かせてください。
今回、役員数をピーク時の22名から15名へと3割削減しました。少ない人数でより役割を発揮していく必要があると思っています。その意味では今回、専務をなくして全員常務執行役員としてフラット化しましたが、奥理事長はよくラグビーチームに譬えて、みんなで一丸となってワンチームになって仕事をしていく必要があると強調しています。
役員はそれぞれ課題やテーマを持って仕事をしていくわけですが、一人ひとりが単独で動くのではなく、みんなでフォローしながら足りないところがあれば周りがサポートし、大事な案件にはみんなが協力していくという体制が大事だと考えています。
そのなかで奥理事長がキャプテンだとすれば私は副キャプテンとして15人が一丸となったワンチームになれるように理事長をサポートしていく役割が求められていると思っています。
こうした体制にしたのは、引き続き4本部制はありますが、その本部を跨ぐような課題がたくさん出てきたからです。そのように複数の本部が関わるような案件、つまりボールを役員がきちんとフォローしてつないでいくことが求められているということなんです。ラグビー日本代表の試合でいえば、トライするのはバックスの役割だと思っていたら、フォローしていたフォワードが最後のボールを受け取り飛び込んだシーンがありましたね。あのようにその時々の状況に応じてボールを落とさないようきちんと役員が連携していくことが大事だということです。
--具体的な事例としてどんな課題が出てきましたか。
具体的な例で言えば、食農法人営業本部とリテール事業本部の双方に関わる仕事です。「地域活性化」「農林水産業の基盤維持・拡大」といった課題は本部横断的な大きなテーマです。食農本部とリテール本部というかたちで分けているのはあくまで農林中金の問題ですが、課題はまさに現場にあるわけです。たとえば、ある農業法人、さらには地域に対してどういう価値をどういうやり方で提供するのがいいのかは、そこは縦割りの部署として対応すべきではないだろうということから、1人の役員が両本部の機能をつなぐかたちで現場が求めている課題に応えようということです。
仕事をしていると、たとえば融資残高を増やすことが課題だとなりますが、その取り組みが極端になっていくと、そのこと自体が目的となってしまう。そうではなく何のために、誰のためにやっているのかが大事で、その答えは現場にあるわけです。単にやらされ感の仕事になるのではなく、どうやったらいちばんいいソリューションができるかを考えていく必要があるということです。
存在意義を再認識する
--「農林水産業と食と地域のくらしを支えるリーディングバンク」をめざす中期経営計画はコロナ禍を受けてどう対応されますか。
現行中期経営計画は2019年度からの5年間の計画で2020年は2年目でした。もともと本計画では今後「非連続な変化が起きる」と言っていましたが、まさにコロナ禍はそれを体現し、変化を加速したのだと思います。ですから中期経営計画自体を作り直しはしていませんが、中身を改めて見直したというのが昨年でした。
新型コロナ感染症の影響に対してはJAバンクの相談窓口での対応の充実や緊急資金活用による円滑な資金供給に取り組みました。結果として昨年12月末でJAバンク全体で累計で4960件、457億円の資金対応をしています。また、農業法人が販売先に困っているなどの問題にはJAグループ全体で販路の確保、ビジネスマッチングに取り組んできました。
リテール事業本部も新型コロナウイルス感染症特別対策として各県域でいろいろな事業を実施するなか、半額助成する枠組みを創設したりしてきました。
また、気候変動問題は重要な課題になったと思います。菅政権になって2050年にCO2のゼロエミッションが打ち出されましたし、これは組織として社会で活動する以上、しっかりと取り組んでいくことがますます重要になってきていていると考えています。
コロナ禍でリモートワークが増えるなど、働き方が変わるなか、皆が目指す方向を揃えることの重要性がいっそう増してきたと思います。農林中金には農林中央金庫法第一条があるのですが、改めて農林中金の存在意義をアップデートしたというのも昨年でした。外部から有識者を招き役員でワークショップを数回開くなど、農林中金の存在意義は何か、中長期的に目指す方向はどこか、ということを改めて議論しました。それを役職員で共有化し、課題を設定して取り組んでいくということを改めて行っています。これを経営システムの再構築と言っていますが、その取り組みを通じ100周年に向かっていきたいと考えています。
総合JAの強み発揮を
--各地のJAトップ層に向けてのメッセージをお願いします。
金融機関を取り巻く環境は非常に厳しいです。とくに低金利の長期化で地銀などはまさに生き残りをかけているという状況ですが、JAグループの信用事業の苦しさも同じような状況です。
ただ、JAは総合事業を展開していて、地域のなかで組合員、利用者のニーズをつかみながらいろいろな活動をされていると思います。それは地銀が真似したくてもできないことです。われわれも信用事業としてサポートできること、またそれを超えてサポートできることも含めて可能な限りサポートしていきたいと考えています。
それとともにJAは地域ごとに違うと思います。一律にこれをしなければならないというものではなく、地域ごとに期待や役割があって、それをきちんとつかんだうえでJAは「自分の見える化」をすることが大事だと思います。どこが得意でどこが不得意か、不得意な部分はどうするのかといったことを個別JAごとに考えていく必要があるし、それがまさにJAの持続可能な経営基盤の確立、強化だと思っています。そこに一緒になって取り組んでいきたいというのが私の思いです。
そのうえで今まで以上に組合員とJA、JAとわれわれ全国連とのコミュニケーションがより重要な時代になってきたと思っています。
(やぎ・まさのぶ)1964年9月生まれ。東京都出身。早大法学部卒。88年農林中央金庫入庫、06年人事部人事企画課長、08年総合企画部総括課長12年債券投資部長、16年総合企画部長、17年執行役員総合企画部長、18年常務執行役員。大学生のご子息2人。
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