問われる「身近さ」の強み 協同組合金融の新モデルを 欧州の研究者が指摘2020年6月1日
協同組合金融は、組合員にとってその「身近さ」が大きな強みだが、組合員ニーズの変化や競合する他の金融機関の社会的責任への認識の高まり、デジタル化などによって大きな影響を受けている。農林中金総研の「農林金融」5月号はこの問題を取り上げている、欧州の協同組合銀行研究の第一人者であるエリック・ラマルク博士(ソルボンヌ・ビジネススクール学長)の講演「欧州協同組合銀行のトレンドと課題―日本の協同組合金融機関への示唆―」を紹介している。この中で同博士は「このままでは、協同組合銀行の地域での社会的責任の発揮や『身近さ』といった存在意義が失われるのではないか」と指摘。要点を紹介する。

日本の協同組合金融と同様、欧州の協同組合銀行も金融規制、デジタル化、顧客行動の変化で大きな影響を受けている。他方、一般の商業銀行は顧客ニーズの変化や金融機関の社会的責任への認識の高まりなどから、「デジタル化による新たな近接性(顧客との接点)のあり方の検討に取り組んでいる」という。
従来通り、対面によるサービスを求める人がいる一方、若い人の利用が増えるオンラインバンキングのように、これまでと違う接近の仕方が増えている。この転換期をどう乗り切るのかが、金融機関全体の課題となっている。
欧州の協同組合銀行も組合員にとっての「身近さ」が強みであると自認してきた。だが、その強みが競争にさらされ、脅かされている。ラマルク博士は、この「身近さ」について、
「協同組合銀行が身近であると受け止められていることは果たして真実なのか。まずしっかり状況分析を行い、顧客は『身近さ』に何を求めているのか、『身近さ』は実店舗網によって生まれるものなのかどうかを検証することが必要」と問題提起する。
同博士は実証研究に基づき「顧客は『身近さ』を実店舗網ではなく、むしろ、人と人との 関係、口座を管理してくれる営業担当者や支店長とのつながりや直接の対話を通じて感じているとみる。金融機関の曖昧な特徴・ブランドイメージだけでは、顧客と営業担当者の『身近さ』を超えることはできないというわけだ。その上で「身近さ」は、店舗が近くにあることのみを意味しないという。デジタル技術を役立てれば、窓口の職員が協同組合の価値に基づいて行動しつつ、顧客のニーズにより集中することができ、協同組合銀行としての『身近さ』を生み出せるのではないか」という。
つまり、職員が協同組合の「身近さ」、顧客志向、地域への貢献という価値観に基づいて行動し、それにより顧客との個別の関係をつくることが重要だというわけだ。同博士はこれをデジタル化時代の「カスタマイズド・エクスペリエンス(顧客の個別の経験)」として重視する。「職員が協同組合の『身近さ』、顧客志向、地域への貢献という価値観に基づいて行動し、それによって顧客との個別の関係をつくることは、協同組合銀行としてのカスタマイズド・エクスペリエンスを提供していることにほかならない。協同組合銀行にとっては、協同組合の価値と商品の提供によって顧客の期待と価値観をいかに満たすかということが重要」と、職員が協同組合の価値観をしっかり持つことと、組合員個々とのつながりをつくることの重要性を強調する。
「デジタル化が進むなかで、その対応にとどまっていては商業銀行が進めていることと同じことをしているのにすぎない。協同組合銀行の組織およびその理念の改革まで踏み込まないと協同組合モデルの改革にはならない。協同組合の価値、『身近さ』、デジタルの3要素をいかに整理するかは、協同組合銀行が抱える共通の課題認識」と指摘。
その上で、「もう待ったなしのタイミングであり、これ以上のんびりと構えれば、協同組合モデルは危機に瀕(ひん)することになる。協同組合銀行は何の役に立つのか、協同組合銀行ならではの取り組みは何か、協同組合モデルを再考し、新しいサービスを生み出す必要がある」と述べている。
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