【農中総研緊急フォーラム】ウクライナ危機途上国の食料危機懸念2022年4月15日
農林中金総合研究所が4月13日にオンラインで開いた緊急フォーラム「世界と日本の食料安全保障~ウクライナ情勢を受けて~」の前半は同研究所理事の阮蔚(ルアンウエイ)研究員が「ウクライナ危機で改めて注目される食料安保~米中貿易摩擦への波及~」と題して講演した。
阮蔚(ルアンウエイ)研究員
小麦生産 ロシアとウクライナ躍進
阮研究員はロシアとウクライナの食料生産の状況と世界での位置を改めて報告した。
小麦は世界最大の主食穀物で2020年度は世界全体で7億7600万tが生産された。世界の小麦生産国は21世紀に入って大きく変化し、ロシアとウクライナが躍進、中国、インド、パキスタンなど新興国が増産している。
2000年にロシアは世界5位だったが2020年に3位、ウクライナは2000年には10位に入っていなかったが、2020年に8位に登場した。トウモロコシも両国は21世紀になってトップ10に入った。
一方、米国やフランス、豪州で小麦は減産。豪州は2020年にトップ10から退場した。
生産増大にともなって小麦の輸出量は両国合わせて世界で約3割(27.9%)を占めるまでになった(2020年)。
ウクライナ戦争で現在、黒海の穀物輸出港からの輸出がほとんど停止している。一部がルーマニア経由で陸路でヨーロッパに輸送されているという。
両国の小麦は米国、豪州産より安い。米国、豪州、カナダ産は1t250ドルを超える水準だが、ロシア、ウクライナ産は200ドルを下回る。輸出先は中東やアジア、アフリカの途上国。両国への小麦の依存度はエジプト7割、レバノン6割、チュニジアは大麦やトウモロコシを含めると8割を依存している。小麦輸入の30%以上を両国に依存しているのは約50ヵ国だという。インドネシア、フィリピンなどアジアでもパン、麺類の消費拡大で小麦の需要が増加している。
大国の思惑は?
価格の暴騰で一部の途上国では混乱も起きており、FAOは栄養不良人口が新たに800~1300万人増加するリスクがあるとしている。また、ウクライナの農相は今年の春まきの作付けは700万haと半減するおそれがあると4月はじめに話した。
ウクライナ危機で途上国での食料危機が懸念されているが、阮研究員は途上国によるロシア産小麦の輸入をバイデン政権は黙認する可能性があると話す。実際、インドによるロシア産原油の輸入を黙認しており、海外では3月にロシアからエジプトに向け48万tの小麦が輸出された報じられている。
こうしたなか阮研究員はインド農業が存在感を増していることを指摘した。インドの小麦生産量は2017~2021年の5年間連続して豊作だったが、輸出する価格競争力がなかった。ところが、新型コロナウイルスのパンデミックで世界価格が上昇し、昨年下期からインドは輸出に転じた。20/21年度は前年度の4倍近い256万tを輸出、21/22年度は約850万tと米国農務省は予測しているが、1000万tまで増えるとの見方も出ているという。
また、インドは2011年以降、米の最大の輸出国で貿易量5000万tのうち約2000万tを占める。トウモロコシの輸出も前年度比160%。モディ政権の農業優遇策の成果が出てきており、インドは輸出で大きな位置を占める可能性も指摘した。
一方、食料価格と連動して肥料、エネルギーの価格も高騰している。化学肥料の輸出はロシアが世界1位、ベラルーシが4位。これらの国を供給から排除することになれば化学肥料の価格は高止まりが続くことも予想されると指摘した。化学肥料輸入の1位はブラジルで調達先はロシアだが、その供給停止で米国がブラジルなど南米向け化学肥料の輸出を拡大しているという。
中国 自給率向上に転換
ウクライナ危機は米中貿易摩擦にも影響を及ぼす。中国は「一帯一路」戦略でウクライナとの関係も強化し、黒海に穀物輸出設備を建設し輸入多元化を図ったが、今回の戦争で不透明になった。
中国は「食料輸入活用」から「食料自給率向上」へ転換した。この政策転換が中国の米国産農産物輸入義務にどう影響するか、米中関係も注視されるという。
また、中国は低たんぱく質飼料も推進している。飼料の大豆粕比率は2020年全国平均で17.7%だったが、21年には15.3%へ引き下げた。これによって1400万tの大豆が削減されたといい、大豆の輸入減にもつながるという。
ただ、国内での食料増産は農地に限界があることから、中国ではGMO栽培を視野に入れており、昨年3月に法整備が行われ安全が証明されたトウモロコシと大豆で栽培が可能となった。
持続可能は農業 どう実現?
このようにウクライナ危機によって世界各国で食料安保の機運が高まり、EUと米国は休耕地の生産再開と補助金の拡大の動きもあり新興国、途上国も自給率引き上げ策を強化している。
しかし、これらの動きには保護貿易、環境破壊、財政悪化などのリスクがあることなども指摘した。穀物増産のために化学肥料を大量に投入し、環境負荷を高め、地球温暖化を加速、各国で国民はコスト高の農産品を買わざるを得ないという懸念も指摘した。
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