JAの活動:今村奈良臣のいまJAに望むこと
【今村奈良臣のいまJAに望むこと】第91回 中山間地域、とりわけ棚田地帯を生かす和牛の放牧をいかに推進し実践すべきか(第6回)2019年7月13日
1. 農産物貿易、自由化で惨状を呈す
世界文化遺産として知らない人は居ないほどに著名となった群馬県富岡市にある富岡製糸場。この暑い夏でも小・中学校の修学旅行生をはじめとして見学者は毎週数万人にのぼっているという。
水田のわずかなこの地域は、昔から養蚕とコンニャクの主産地であった。
ところが、1962年の生糸の輸入自由化、さらにガット・ウルグアイラウンドの95年のコンニャクの輸入割当制度の廃止で、この地域の農業ならびにJA甘楽富岡は壊滅的な打撃を受けることになった。JA甘楽富岡の輸入自由化前の農産物の売り上げは約83億円であったが、この主産物2品目の自由化により一挙に激減し、実に10億円に縮小するという惨状を呈してしまった。
2. 関東有数の野菜産地へ転換
このような惨状を前に、当時のJA甘楽富岡の営農事業本部長の黒澤賢治氏は「ベジタブルランドかぶらの里」という農業改造・振興計画を策定・指導・実践され、生糸・養蚕・コンニャクからの大転換を推進中であった。そのすばらしい計画のあり方と実践を推進する姿に私の心は打たれ、新しい農協の活動を目指す全国研究組織としての「JA-IT研究会」の創立に参加し、その代表委員を勤めさせられることとなり、黒澤賢二氏は副代表委員となった。その活動の中で、JA甘楽富岡は、生糸とコンニャクから見事に脱出し、関東有数の野菜売地へと転換し、下仁田ネギに象徴される銘柄品をはじめとして、多彩な野菜・きのこ類なども次々と生産・供給する野菜ときのこ大産地へと転換した。
3. "Challenge 500"の策定と実践
この黒澤さんに、私は、研究会の終わったあとのある日一献傾けながら、「甘楽富岡は黒澤さんの指導のもとに見事な野菜産地として生まれ変わったが、まだ傾斜地には桑畑の廃園があちこち見受けられるし、里山はかずらの巻きついたクヌギや杉の木が多いが、牛の放牧でこれを餌にしてきれいにしたらどうか。この地域にはかつて名牛とうたわれた『紋次郎』の血を引く牛もいるのではないか」と提案したことがあった。
黒澤さんは、この私の問いを強烈に受け止めてくれて『Challenge 500』という計画を作り、すぐに実践に着手してくれた。
その計画表が別表である。
この計画はほぼ予定通り超過達成しながら達成し、とうとう昨年(2018年)には母牛の放牧頭数は2000頭に達し、「先生、もう放牧すべき里山はもちろん、奥山の放牧可能な山林は無くなりました。これからは私はいま群馬県森林組合連合会の会長をしているので、県庁にも話し、また各市町長や市町村の森林組合長にも話して里山はもちろん放棄され荒廃している棚田は県下各地に山ほどあるので、そこに放牧するように話しています。県庁の関係部局も熱心になり、今のところ県下の全市町に拡がりつつあります。いずれ近いうちに群馬県は全国有数の仔牛(肥育素牛)の供給地域になるのではないかと思っています」と胸を張って話してくれた。
こういう実践事例を通して痛感することは、どの分野においてもすぐれた熱意にあふれた地域リーダーがいるかいないかで、地域農業の盛衰は決まるということである。全国各地の皆さんの奮起をお願いしたい。
本シリーズの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
今村奈良臣・東京大学名誉教授の【今村奈良臣のいまJAに望むこと】
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日