JAの活動:JA全農新部長訪問
【JA全農 新部長訪問】日比健耕種資材部長 資材事業 総合力で産地を支援2021年12月7日
肥料、農薬、園芸・包装資材、農業機械など幅広く生産資材事業を担うJA全農耕種資材部。8月に就任した日比健新部長に次期中期計画の基本方針も含め、事業の状況と今後の取り組み方針などを聞いた。
日比健 耕種資材部長
--最初に生産資材をめぐる情勢と課題について聞かせてください。
8月以降、原油が上昇し、とくに肥料を中心に営農に関係する資材が値上がり傾向にあります。一方で米をはじめ農産物価格は下落し、農家所得に影響が出るという厳しい状況にあります。そのなかで、資材についてはより効率的に、また労務費を含めてトータル生産コスト抑制ということが必要で、これには現場の工夫も参考にしながら農家の経営の安定、持続可能な農業の継続という課題に取り組んでいきたいと考えています。
次期中期計画の基本方針
--生産資材事業の次期中期計画の基本方針のポイントをお願いします。
「生産振興」の面では、基本的に低コスト資材と、省力技術の普及拡大によりトータル生産コスト低減を図る取り組みです。生産資材価格が値上がりするなか、非常に重要な課題と考えています。
2点目が全農として担い手により近くアプローチすることで、総合的な事業提案と推進を図る取り組みをより強化します。
3点目はスマート農業です。これを実現するための機器への取り組み強化と、スマート農業に対応する資材の提案や普及を行っていきます。
4点目は園芸施設の大規模化・高度化への対応と、園芸分野における農薬などの推進機能の強化です。
「食農バリューチェーンの構築」の面では、販売起点から考えるという意味で販売部門と連携した資材提案によって産地開発、拡大に寄与していきたいと考えています。もう1つは、物流問題への対応です。農産物パレットに適合する段ボールの規格基準化や、米でいえば全農統一フレコンの普及で物流合理化を図っていくということです。
「環境問題など社会課題への対応」では、土壌診断による適正施肥や、たい肥など地域資源の利活用、農薬ではIPM(総合的病害虫管理)の普及によって環境保全型農業の拡充に取り組んでいきます。また、環境負荷軽減のために、生分解性マルチのほか、容器包装等の脱石油由来プラスティック素材への切り替えやリユースを促進します。
それから「JAグループ・全農の最適な事業体制の構築」も課題ですが、生産者が法人化して経営規模が大きくなったり、あるいは世代交代で若手の新規就農者も増えるなかで、JAグループ、全農と新たなつながりの構築が必要だと考えております。
その一環としてまずはJAグループ内の業務効率化をめざし受発注センターシステムの導入・普及と、生産者まで一貫した
最適な物流体系と店舗の整備に取り組みます。それからJAグループ内の事業体制です。とくに農業機械が先行していますが、JAとの共同運営、一体運営といったより最適な事業運営のなかで、事業基盤の維持とサービス向上を図っていきたいと考えています。
生産資材も販売起点で
--重点とする取り組みはありますか。
重点的に考えているのは販売部門と連携した資材の提案です。これまでは資材だけを推進していましたが、業務用野菜や多収穫米、小麦・大豆への転作といった新たな販売と結びついた産地開発に寄与できる生産資材の提案をしていこうということです。
環境問題への対応も重点施策と考えています。持続可能な農業の実現のために農薬でいえばIPMですし、生分解性マルチの普及です。肥料ではたい肥の利活用の促進ということになります。農業の持続可能性は重要な課題で力を入れていきたいと考えています。
それから担い手への対応ではやはりスマート農業の導入支援が大事になると考えています。それも圃場管理や栽培管理の部分をよりシステム化する支援を重視しようということです。多くの圃場を一括して管理し、生育状況もAIで確認できれば、必要な資材の発注まで一貫してできることになると思います。労働力不足に対しては、こうしたシステム化、機械化が必要で、具体的には圃場管理はZ-GIS、栽培管理にはザルビオということになります。これをもっと多くの生産者に使っていただきたいと考えています。
伸びる担い手大型規格
--今年度の主な分野の事業状況をお聞かせください。
農薬の担い手直送大型規格は10月末現在で前年比131%となっています。全国で23万haまで拡大することができました。水稲5ha以上の経営体の栽培面積に対しては、45%の普及率になってきました。
IPMの取り組みでは農薬メーカー5社と連携して「イチゴハダニゼロプロジェクト」を始動しました。これは育苗期から本圃初期(5~10月)に化学農薬の使用を集中させ、ハダニの密度をほぼゼロにして、秋からの天敵防除の効果を上げるというものです。こうした具体的な栽培メニューを提案できるようになっています。
ジェネリック農薬に取り組みについては現行のジェイエースの普及拡大に引き続き努めるとともに、新たな剤も登録をめざしての研究開発を続けています。
生分解マルチで事例集
大規模で多収をめざす高度大型園芸施設の普及拡大には、栽培技術支援とともに、建設コストの引き下げが必要になっています。一方では従来どおり低コストを指向する農家もいますから、フィルムやパイプの加工を請け負う基幹加工場の広域化、県域を超えた安定供給体制の維持拡大が課題となっています。
こうした課題に応えるため、われわれ連合会として高度大型園芸施設については施主代行という機能を備えよう考えています。また、施設園芸農業者に対して耕種資材部として、ビニールなどの施設資材だけでなく、肥料も農薬なども含め全品目、総合力でアプローチすることが必要だと考えています。
農業用フィルムの全体として需要が減少していますが、需要を結集してその地域に合った規格と量を計画的に発注していくことが必要と考えています。
「うぃずOne」は2013年に供給を開始し2021年には全国で238か所、14ha超に導入され着実に浸透しています。
具体的な活用法は水稲育苗ハウスの有効利用が6割を占めていますが、新規の園芸品目の栽培や、土壌病害対策という活用法も2割を占めています。そのほか生産振興・モデル実証、新規就農の取り組みなど、地域の農業活性化に向けていろいろな目的で活用されています。
生分解性マルチの普及状況は2019年に9.6%の普及率で前年比2割増程度で推移してきており、2025年には15.8%と倍増する見通しを立てています。将来は50%以上を目標にしています。
現在全国341か所で試験展張しており、試験内容を取りまとめて今年度末に事例集を作成し、事例をもとにマニュアル化を図っていきたいと考えています。
来年1月 東海・近畿部品センター
農機事業では事業の広域化による事業基盤の維持とサービス向上を重点実施策の1つにして、全国21県JAで一体運営を実施しています。また令和4年1月には東海・近畿部品センターを三重県に設置し、愛知、三重、滋賀、京都の4府県に部品を供給していく予定です。
農機の共同購入の取り組みは、大型トラクターは累計2214台の出荷が終了しました。第2弾として今年始めた中型トラクターは3年間で2000台を目標にしていましたが、10月末で1900台を超えましたのでほぼ今年度中に前倒しで目標を達成する見込みです。
(ひび・たけし)1964年12月生まれ。愛知県出身。
早大政経学部卒。1987年入会。本所肥料農薬部肥料海外原料課課長、肥料課課長、耕種資材部次長を経て2021年8月から現職。
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