JAの活動:シリーズ
【インタビューで綴る全農50年】組織改革に手腕 民主的運営、情報公開厳守を 岡阿弥靖正 元JA全農専務(1)2022年11月14日
JA全農発足後、事業を拡大していく中で事業改革、経済連との組織統合など、環境の変化に合わせて、大きな変革を迫られてきた。今回は、若いころは労働組合のリーダーとして、そして管理職・役員としてこれに当たり、特に組織・事業・機構改革で手腕を発揮した元JA全農専務の岡阿弥靖正氏に聞いた。(聞き手は農協協会理事・坂田正通氏)
岡阿弥靖正 元JA全農専務
――東京育ちの岡阿弥さんが、どのようなきっかけで当時の全購連に入ったのですか。
農業や農協に特別の思いがあったわけではありません。横浜国立大学で経済学を学びましたが、学生時代は家業の電気製品の修理や部品の組み立てなどの手伝いをしていました。しかし機器のブラックボックス化が進んで仕事が減り、卒業するときは、そろそろ家から出てもいいかなと思い、当時、花形産業だった自動車会社への就職も考えていました。たまたま叔父が全中(全国農協中央会)に勤めていたこともあり、親のすすめで職員募集していた全購連を受験しました。
当時の初任給は2万7000円ほどで、自動車会社などに比べ1万円は安かったのですが、全購連の本所のあった東京の大手町までは、自転車でも通える距離だったこともあり、結局、全購連に入ることに決めました。
入ってすぐの単協研修は、長野県の美篶(みすず)農協(現在JA上伊那)という小さな農協でした。トマトの植え付けなどをしましたが、農家の人と一緒に、べっとりした豚の糞を素手で扱うなど、農業とは全く縁のなかった都会育ちの私にはよい経験でした。
自転車で通えるという期待が外れ、最初の勤務先は大阪支所でした。農業機械部に配属され、1968(昭和43)年~73年まで勤めました。その間、農協系統の農機メーカーだった佐藤造機の倒産という大きな出来事があり、その対策に追われた時もありました。
当時は農業の機械化が急速に進んだころです。ただ、過剰投資を防ぐため共同購入・共同利用が多かったのです。東京支所に転勤した時に、東北の水田のほとんどは田植機でカバーしたと言われましたが、それでも田植機はどんどん売れました。田植えを一日でも早く切り上げて、出稼ぎで有利な仕事に就こうと、個人で農機を購入する農家が増えたことによります。この結果、さらに普及が進み、過剰投資、機械化貧乏が助長されました。農機普及の背景には、このような農村の生活や労働に関わる問題があったと思います。
佐藤造機の倒産で奔走
――そうしたなかで、系統のメーカーである佐藤造機が倒産しました。後が大変だったと聞いています。どのような状況だったのですか。
当時の全購連は在庫買い取りもしていましたので、在庫品を倉庫会社から借りた倉庫に移したりして債権確保に走りました。農機は耐久財ですから、最終ユーザーである農家に迷惑が掛からないよう、部品の供給は続けなくてはなりません。部品供給だけでは成り立たないので製造メーカーとしての佐藤造機の再建に全農が責任を負うことになりました。大手メーカーとの激しい競争のもと、全農の交渉力にも影響しましたし、系統組織の力の限界も知りました。
労組でエサの原価を公開
――岡阿弥さんには労働組合の活動家としての顔がありましたね。
安い月給を何とかしなければならないという思いもあって、大阪支所に行って3年ぐらいで、労働組合の役員になり、全購・全販連の統合問題、えさ工場の直営化などの問題に取り組みました。1973(昭和48)年、全農労本部の専従役員になり、76年農協労連(全国農協労働組合連合会)の書記長を務めました。
当時は第1次オイルショックの時代(1973~74年)で、肥料や飼料、燃油の価格が急騰し、農家の経営や生活を圧迫しました。特に飼料価格の値上がりで困窮した畜産農家は、原価の公表を求めて全農の役員室前で座り込みまでしました。そのとき、値上げの説明を求められた全農は、十分な対応ができませんでした。全農協労連に行った時に、全農労の組合員の協力を得て価格形成の過程を説明した「エサ価格の秘密」というパンフレットを作りました。
だれが内部情報を漏らしたのかと、犯人探しが始まったくらいですが、パンフレットは好評でした。このとき思ったことですが、組織は、組合員からでも外部からでも、インパクトを加えないとなかなか変わらないものです。内部だけでは、どうしても組織の保身を考えてしまいます。農協は農家の組織であって、組合員には知る権利があります。それを怠ると、農協は組合員に信頼されなくなります。
企業秘密と「知る権利」、これは農協の持つ矛盾だと思います。価格について納得してもらうには情報公開しなくてはなりません。しかし公開は商社など競争相手(商社など競合他社)に情報が漏れることでもあります。農協と組合員の間には、こうした事業運営上の矛盾があることを認識し、どこまで公開できるか、自分なりに線を引き、納得してもらう方法を見つけ出さなければなりません。
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