JAの活動:農協時論
【農協時論】サミット悲し 武器より食思う 国の選択誤るな 村上光雄(一社)農協協会会長2023年5月29日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならないのか」を、生産現場で働く方々や農協のトップの皆様などに胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回は、広島県在住で、農協協会会長の村上光雄氏に寄稿してもらった。
G7広島サミット(以下サミット)の前に植えた苗も活着し、田圃も徐々に緑を濃くしてきている。そして休業、休校、交通規制と戒厳令下を思わせるような物々しい警戒体制の中で開催されたサミットも無事終了し、地元広島県民も安堵するとともに普段の生活を取り戻しつつある。
本気度感じさせない理由は
さて、そのサミットも被爆地広島で開催されたということと、ウクライナのゼレンスキー大統領の演出の場となったこと以外これといった成果も前進もないまま幕引きとなってしまった。それは事前の世論調査でもほとんどの人がサミットにあまり期待していなかったことと符号する。それはなぜか? それは岸田文雄首相が「核のない世界」と言いながらも核兵器禁止、核拡散防止に対して本気でないからである。
本気であるなら核兵器禁止条約にせめてオブザーバー参加すべきである。そしてバイデン米大統領と原爆資料館であの惨状を目の当たりにしたのならその場でそのことの了解を得るべきであった。何故なら岸田首相は爆心地である衆議院選挙広島1区の唯一の国会議員であり最大の発言力と説得力を持ち備えた唯一の存在でもあるからである。そして米国は原爆を投下した国であり、何の遠慮も気兼ねもせず前向きに発言、行動すべきであり絶好のチャンスを逃してしまった。
しかし今からでも遅くない。ドイツのようにせめてオブザーバー参加し核を持つ国と持たざる国の橋渡しをすべきである。本気で「核のない世界を目指す」のであればそうすべきであるし、それができるのは唯一の被爆国日本の、しかも被爆地広島の出身の岸田首相しかいないのであるから。
またウクライナ戦争にしても欧米と一緒になって結束と制裁を強化することの確認だけで、停戦、平和に向けての糸口さえ見いだせないまま終幕となってしまった。こうした状況でF16戦闘機の供与となればプーチン大統領の核の威嚇が現実のものとなるリスクが増々高くなることが危惧される。
ハトからオオワシに豹変した
それにしても岸田首相は豹変した。といってももともとこれといった信念もなく真白の人であるから染まったと言った方がよいかもしれないが。
そのことはさておき岸田首相はかつて「我々宏池会はハト派、安倍さんは清和会でタカ派」と自認していた。しかしあっという間に安倍さんもできなかった原発稼働推進に方向転換し、敵基地攻撃を容認し、防衛費もEUなみのGDP費2%に引き上げ増税もしようとしている。これではハトがタカを飛び越えてオオワシに豹変したと言っても過言ではあるまい。
それにしても防衛費をEU並みの1%から2%に倍増するのであれば、食料自給率38%も農家所得に占める補助金の割合30%も倍増してEU並みの70%以上に引き上げなければ片手落ちである。
そもそも古来より「腹が減っては戦にならぬ」というではないか。武器を取る前に腹ごしらえであり食べ物なのである。もし戦争になればまず海上輸送は出来なくなる。それでは兵隊も国民も飢えてしまい戦争にもならないではないか。これが世界の常識であり良識である。独立国日本として冷静に考え判断し選択を誤らないようにしてもらいたいものである。そこでせめて現在食料・農業・農村基本法の見直し作業が進行中であるが食料安全保障についてしっかりと書き込まれていることを切望する。
粘り強い外交努力こそ
そして私たちの願うところはお互いに助け合い励まし合い生きていける平和な協同社会の実現である。抑止力の強化ということは結果的に軍備拡張競争をエスカレートすることであり、一歩一歩戦争に近づいていることを為政者はよくよく肝に銘じて話し合いによる外交努力を粘り強く最後まで諦めないですすめていくべきである。
あのウクライナの大地で黄緑の麦の穂が風に波打っている光景が一日も早く取り戻されることを祈りつつ...。
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