JAの活動:米価高騰 今こそ果たす農協の役割を考える
【米価高騰 今こそ果たす農協の役割】私たちはなぜ小泉農相に抗議したのか JA阿蘇組合長・原山寅雄氏2025年9月17日
備蓄米放出で米価引き下げを図った「小泉劇場」は大きな注目を集めた。その影で、小泉進次郎農相がまだ答えていない米産地・JA阿蘇からの「手紙」がある。10月4日投開票の自民党総裁選で小泉農相が最有力候補に浮上する中、彼に伝えたかった思いをJA阿蘇・原山寅雄組合長に聞いた。
JA阿蘇組合長・原山寅雄氏
「じゃぶじゃぶ」発言の真意問う
JA阿蘇は6月20日、小泉進次郎農相に抗議文を送りました(全文は後掲)。
小泉農相が「消費者の米離れを防ぐため」に政府備蓄米を放出したのは理解できます。ただ、小泉氏は6月6日の記者会見で「MA米に限らず、緊急輸入、こういったことも含めて、あらゆる選択肢を、私は持ってむかいたい」と述べ、6月10日の会見では「私たちとしては、これは(米の需給を)じゃぶじゃぶにしていかなきゃいけないんだと、そうじゃなかったら価格は下がらないと、その思いでやるんだ」と言いました。
米の価格を引き下げるために手段を選ばない。政府備蓄を空にし緊急輸入を口にするというのは、食料自給率向上、国内生産を軽視するもので、到底認められません。そこで発言の真意を問い、実効性ある食料安保対策を求めましたが、未だに返事はありません。自由経済社会なのに、小泉農相が精米の小売価格を提示したのもおかしいと思います。
夢のある米価にしたい
米はこれまで安過ぎました。田舎から都会に働きに出た農家の子どもが、「米価がこれだけ上がったなら家に戻って米作りを継ごう」と思えるような「夢のある値段」にしたい。壊れた機械の更新費用も出るようにしたい。そう考え、JA阿蘇では生産者概算金の目標基準価格として「3万円をめざす」とシーズン前に発信し、実際の概算金は3万3000円まで引き上げました。
米卸にはもう少しのせて売りますが、流通業者の経費と利益が平均的なら、スーパーでは精米5kg4000円前後で売れるはずです。管内にある直売所では9月13日の土曜日から新米を売り出しましたが、順調に売れています。
「増産」なら農家所得の支えを
石破首相と小泉農相は「増産に舵を切る」と言いましたが、米作りをやめて何年もたっていたら機械も動くとは限らないし、そう簡単に増産はできません。米農家が長く減反、生産調整に協力した結果、ようやく報われたのです。増産で米価が大きく下がったらどうするのでしょう。
農政議員のみなさんにも頑張ってほしい。農水省の概算要求が説明された自民党の会合も「増産」で紛糾したと聞きました。小泉農相は収入保険がいいと言いますが、十分な支えにはなりません。増産し米価を下げるのなら、所得をしっかり支えないと米農家はいなくなります。
いかんことはいかん
このままでは、うちの孫が大人になる頃、食べる物がなくなります。ミサイルがあっても食べ物がなければ、国は守れません。幸い、「農家も大変だ」「農家を守らなければ」という理解が広がってきました。こんな状況なのに、全中はいささかおとなしいのではないでしょうか。「令和の百姓一揆」も、全中が呼びかけても良かったくらいです。JAグループとして、いかんことはいかんと言わなければなりません。
【JA阿蘇から小泉進次郎農相にあてた文書】
農林水産大臣 小泉進次郎殿
輸入米の関するご発言について
時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
平素より、米穀生産者の皆様へのご理解とご支援に対し、深く感謝申し上げます。
この度、小泉農林水産大臣にご就任されて以来、多岐にわたる農業政策において、その卓越したリーダーシップと深い洞察力に基づき、数々の顕著なご功績を挙げられましたことに、心より敬意を表する次第でございます。特に生産者の皆様の声を真摯に受け止め、現場の実情に即した施策を打ち出されるその姿勢は、私たち阿蘇地域の米生産者、そしてJA阿蘇の組合員にとって大きな希望となっております。国内農業の持続的な発展と、食料自給率の向上に向けた大臣の熱意には、深く感銘を受けております。
さて、これまで我が国が歩んできた米政策の歴史を振り返るに、政府は常に食料安全保障の要として米の位置づけを重視し、生産者の経営安定と消費者への安定供給を目標に掲げてまいりました。減反政策から始まり、直接支払交付金制度の導入に至るまで、その時々の社会情勢や国際情勢に対応すべく、様々な政策が実施されてきたことは承知しております。しかしながら、その過程において、短期的な需給調整に終始し、真に持続可能な米生産体制の確立という視点が不足していたのではないかという懸念も拭えません。
私たち阿蘇地域の米生産者は、世界農業遺産に認定されたこの豊かな大地において、阿蘇外輪山から湧き出る清らかな伏流水と昼夜の大きな寒暖差を活かし、特別栽培米をはじめとする高品質で安全・安心な米作りに日々尽力しております。JA阿蘇としても、「水よし・土よし・育ちよし」を掲げ、化学合成農薬や化学肥料の使用を低減した栽培指導を行い、消費者の皆様へ胸を張って「うまかもん」をお届けできるよう、生産者一丸となって取り組んでおります。昨年11月には、約4900トンもの米を保管できる大型自動ラック式農業倉庫「米夢」を竣工し、阿蘇産米のブランド力向上と安定供給に向けた体制強化を図ったばかりです。これは、将来にわたる米生産への確固たる決意の表れに他なりません。
このことを踏まえ、食料自給率が低い日本において、有事の際に国民の食を支えるための生命線である備蓄米の役割は極めて重要です。その備蓄が万が一にも尽きてしまうという状況を想定すること自体が、これまで国が掲げてきた食料安全保障政策の不備を露呈するものであり、その後の対応策として即座に輸入米を挙げることは、国内生産の重要性を軽視する姿勢に他なりません。これは日本の農業政策の根幹を揺るがすものと言わざるを得ません。
我々JA阿蘇は、阿蘇地域の豊かな自然と文化を守りながら、安全で高品質な米の生産に情熱を注いでまいりました。地域農業の持続的な発展と、消費者の皆様への安定的な米の供給は、我々の使命であると強く認識しております。貴殿のご発言は、このような我々の努力と、国がこれまで掲げてきた食料自給率向上の目標に逆行するものです。
つきましては、小泉農林水産大臣におかれましては、今回の備蓄米枯渇後の輸入米対応に関するご発言について、断固として反対するとともに、その真意を明確にし、国内生産の維持・拡大を最優先とした、真に実効性のある食料安全保障対策を速やかに打ち出すことを強く求めます。安易な輸入米への依存ではなく、国内生産基盤の強化こそが、国民の食を守る唯一の道であることをご理解ください。
我々JA阿蘇は、今後も日本の米生産を守り、次世代に繋ぐために、米生産者と力を合わせ、不断の努力を続けていく所存であります。貴殿におかれましても、この度の抗議を真摯に受け止め、早急に適切な対応を取られるよう、重ねて強く要請いたします。私たちJA阿蘇は、今後も組合員と共に、日本の食料自給率向上と、安全・安心な米の安定供給に貢献してまいる所存です。
今後とも、日本の農業の未来のため、より一層のご尽力をお願いする次第でございます。
敬具
令和7年6月20日
阿蘇農業協同組合
代表理事組合長 原山寅雄
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