JAの活動:JAグループしまねの挑戦
座談会:県1JAを基盤に中山間地域の営農・生活を支援(3)2020年1月28日
座談会を終えて:JAしまね県1JAをどう見るか
姉歯暁駒澤大学教授
◆制度構築から 次の段階へ
「20年後に県下の農家を、そして農村地域を襲うであろう厳しい現実を見据えて、足下の明るいうちに統合を決断した」と語る萬代元組合長も、統合から4年を経て、現在、本店、地区本部それぞれの機能強化に取り組んでいる石川組合長も同じく強調されたのは地区本部の自立(自律)的取り組みの強化であり、その自立的取り組みを支え、各地区本部から上がってきた課題や提案に対処することができる本店機能を維持・強化することである。実際、統一後、JAしまねでは旧JAごとに設定されていた金利の統一、低減や地区を越えた人事交流、施設の共有や生産資材の価格低減など、農業経営の改善に資する対策が進行している。一方、組織の巨大化によって最も心配されるのは組合員一人一人の声をどこまで汲みあげることができるのかという問題である。この問題は全国のJAに共通して言えることではあるが、組織が巨大化すればするほど、組合員は自分が出資者であり組合員であることの意味を見失いやすい。
旧JAが地区本部となったのち、地域の農業者とこれまで通り意思疎通がはかれるのか、そうした不安は、統合の際に組合員の3%が統合に反対した理由の中に含まれていたに違いない。萬代元組合長はこうした3%の声に答えなければならないと統合直後から繰り返し述べているが、それは大きな組織になればなるほど必要となってくる。
◆JAの存在感示すTACの活動
組織が大きくなることで、JA しまねはこれまで以上に組合員との意思疎通に心を砕かねばならず、TACはその意味で非常に重要な取り組みである。TACはこれまでJAが金融機関化していく中で希薄化していった本来の協同組合の資源を今JAが自己改革を迫られる中で再び取り戻す試みでもある。
現在、JAしまねではTACのチームのスタッフは一人当たり約50~60軒の農家を担当しており、その3分の1の農家で記帳代行を引き受けている。農家が「何をどこに尋ねたらいいのかわからない」ことを一手に引き受けて相談に乗り、それを専門チームにつなげる、いわばコーディネーターのような役割を果たす機関とその活動は、組合員にとってはもちろんのことだが、JAの職員がJAの存在意義を実感できる機会を提供するという意味でも非常に重要である。
若い世代の職員に対して、かつて農家一軒一軒を訪ね対話を繰り返しながら関係を築いてきた世代が、その経験を伝えることの難しさを訴える声をこれまでも耳にすることがあったが、このTACを通して世代間の経験の壁を乗り越えることが可能になるのではないかとの期待を感じた。
それは単に営農やJAの経営基盤を強化するという意味にとどまらない。今日の農村が直面している後継者不足を押しとどめ、集落機能を維持することで、JA存立の基盤ともいうべき農民と農村共同体を守るためにも大切な取り組みだ。
◆統合は自立分散型の活動と一体
1県1JAとなったJAしまねでは、同時に、萬代元組合長や石川組合長の言葉にあるようにそれぞれの地区本部に対して、これまで以上に自立的取り組みを展開することが期待されている。それは自立分散型の組織活動である。それぞれの地区の職員はこれまで以上に自らの地域を把握し細かく現場の課題を汲み上げて対応していくことを迫られることになる。各地区本部における成果と課題は本店に集中され、本店はそれらの報告や成果をもとに個別農家の実情と詳細に分析し、必要な情報や提案を各地区本部を通じて農家に提供していくのだが、JAしまねが統合の有効性を発揮するためには地区本部の自立性が必要不可欠であり、JAしまねが現在取り組んでいることはまさにその試みである。
一方、島嶼(しょ)部を抱える地域や消費地が隣接する地域など、多様な特性を持つ地域の実情を考えれば、短期的には解決できない課題も多く、組合員(正・准)としての積極的な関わりが必要不可欠である。
組織が大きくなっていったJAのこれまでとこれからの姿を考えれば、組合員一人一人が組合員であり出資者であり、したがって権利と義務を負うものであると言う自覚は薄れてきているのが実情である。それはJAに限らず、地域生協など協同組合全体に関して指摘されることでもある。組合員をはじめ、地域住民がJAを必要不可欠なものであり、守らなければならないものとして認識できる「JAの見える化」と組合員の活動への取り込みを進めるためにも、地区本部だけではなく本店の関わりがさらに必要となることが予想される。
◆女性の意見反映 参加拡大が課題
意見の集約に関しては女性部や青年部の意見が反映される組織づくりを進めているとのことであるが、女性の参加についてはまだこれからの取り組みの強化が必要である。統合前より増えたとはいえ、理事40名中、女性は5名にとどまっており、うち3名は本店の女性枠によるものである。また、2名はいずれも出雲地区本部の理事であり、そのほかの地区本部では女性の理事はゼロとなっている。島根県の基幹的農業従事者数に占める女性の比率は2015年で42%となっていることを考えれば、今後、JAの全国目標の数値にとどまることなく女性の声が届きやすい仕組みを模索し続けていくことが望まれる(農水省「農林業センサス」より島根県政策企画局統計調査課作成)。
性別役割分業の壁を打破していかない限り、新規就農者における男女の圧倒的不均衡(女性の新規就農者は男性の約3割、新規学卒就農者では男性の約1割:全国、2018年農水省調べ)を是正していくことは難しい。女性が家事や育児、介護に専念せずに済む制度的枠組みを作ることが必要である。制度から意識を変える、それはJAしまねが現在経験していることにも通じる。「婚活」が「家」の子育てや介護者の確保や高齢化した地域の介護者探しになってはいけない。共に働き、共に育児や家事を行うパートナーとしての女性が暮らしやすい地域にしていくために、JAしまねが先駆的な役割を果たしていくことを期待している。
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