JAの活動:JAグループしまねの挑戦
座談会:県1JAを基盤に中山間地域の営農・生活を支援(2)2020年1月28日
―JA事業の基本は営農経済事業にあると思います。営農指導の面でJAしまねのTAC(地域農業の担い手に出向くJA担当者)は全国表彰を受けるなど、その活動はトップレベルにあると思いますが、どのようなことを期待しますか。
石川 JAが大型化して細かい対応ができなくなるのではないかという不安がありましたが、営農指導体制の強化はこれからです。TACは訪問先をはっきりさせることが必要だと思っています。例えば、大型法人を訪問するのか、個人経営を訪問するのか、地区割りとの調整はどうするかなどが検討課題です。
果樹園芸や畜産農家は農業のプロです。TACは専門指導でなく、御用聞きに徹するべきではないかと思っています。また中期経営計画では、平成30年から県域TACを中心に行ってきた事業継承支援を、地区本部の担当者を育成して、担い手により近い地区本部でできる体制にする方針です。
営農指導はまだまだ力不足だと感じています。それは販売高が思うように伸びないことに表れています。規制改革会議が営農・経済事業に力を入れるべきだと指摘したのは、ある意味でJAの痛いところを突かれたと感じています。JAは生産農家の期待に応えるため、もっとマネジメント力を高める必要があると思います。
先般、熊本県のJAやつしろの農業を見る機会がありました。トマトを中心にリースハウス事業を展開し、230億円の販売高があります。日本一だったイ草が中国産の輸入で壊滅し、その巻き返しで成功した例ですが、このように営農・経済事業で自立しているJAはたくさんあります。その方向を目指すべきだと思っています。
―旧JAごとに約500人いた総代が、JAしまねになって1000人ほどになりました。組合員の声をどのようにしてくみ上げていますか。また地区本部の青年部、女性部、さらには若手の農業者のJA事業への参加・参画はどのようにしていますか。
石川 今年度、理事数を65人から40人に削減しましたが、女性組織代表枠を1人増やし、3人にしました。全体で5人の女性理事がいますので、今後の活躍に期待しているところです。
萬代 新しく青年部ができたのは隠岐地区本部で、「うちだけないのはおかしい」ということでした。
◆農家負担を低水準に
―JAが一つの組織になって、他の組織が見えるようになったということですね.ほかにも統合の効果にはどのようなことがありますか。
石川 営農ローンの金利は、最も低かった出雲地区本部の水準に下げました。そのため収益が落ちる地区本部もありますが、それは本店の利益配分のときに配慮しています。賦課金も一番低いところに統一しましたし、組合員資格は最も条件の緩やかなところに合わせました。つまり1県1JAになってハードルを下げたということです。組合員に喜ばれることであり、統合の効果と言えます。
萬代 地区本部は自立といっても、統一するところは統一して、それで収益が減る地区本部は、全体でフォローするということです。
石川 正組合員の資格条件は、耕作面積は2アール以上、農業に従事する日数は30日以上です。しかし、資格を緩和しても、正組合員は増えませんでした。このため、女性部にも協力を得て、一戸複数組合員化を勧めています。それでも減少が続いていますが、加入運動をしなかった場合、さらに減ったでしょう。女性部の頑張りが認められ、女性理事が増えたのもこの成果だと思います。
―若い女性の活動はどうですか、女性のいないJAは将来がないと言われますが。
石川 フレッシュミズの育成に力を入れており、活動も活発です。フレッシュミズとJA女子大生・OBとの交流も行っています。組合長として、女性の意見に耳を傾け、支援してきました。女性の理解、協力がなければJAの発展はないと思っています。また、福祉事業にも力を入れています。ただ、地区本部ごとで取り組みに差があることが課題です。
萬代 その辺は、「しまねは一つ」という統合当時の理念をはっきりさせないと、統率がとれなくなる。
―当面する課題は何でしょうか。
石川 なんといっても一番は信用・共済事業の収益が減少するのを、どう経営的にカバーするかです。まずは、地区本部の本部機能を効率化すること。そして、支店、店舗の要員整理や再編成、ATMの再配置、並行して経済事業の合理化です。これをやらず、いままでのように信用・共済事業に頼っているわけにはいきません。
そのため、全農、農林中金等のコンサルを入れて、10億円くらいの収支改善を図りたい。このままでは3か年で10億ほどの赤字が出る可能性がありますが、それが出ないような仕組みをつくらなければなりません。これは全国のJAが直面している共通の問題です。農水省や農林中金が言うから、営農・経済事業改革を行うのではなく、自分のこととして取り組まなければならないことであり、特に全中のリーダーシップに期待するところです。
―経済事業はどのように進めますか。
◆子ども食堂の運営も
石川 例えば、米の倉庫やカントリーエレベーターは県内各地にありますが、これを地区本部に関係なく、拠点に集約して整備する必要があります。コンサルは取り組むべき課題を55項目に整理してくれました。その中でまず、優先度の高い項目から実行し、数字的に目に見える形で示したいと考えています。
仕事の進め方にしてももっと合理化・効率化できるところがあります。未だに、人手に頼るだけの仕事をしているところがあります。もっとスマートなやり方があるはずです。こうした合理化は、地区本部の枠を超えてやらなければならない。そこで経費が削減でき、利益が出れば、組合員への還元を増やすことができるので、組合員のための合理化になります。
JAの経営が、いま何とか成り立っているのは、職員の自然減であり、事業管理費の大半を占める人件費を圧縮できるからです。しかし、それも限界があります。
萬代 要は厳しいなかでメリハリつけるということ。「厳しい、厳しい」と言っていては、職員のモチベーションが下がってしまいます。片方で夢を語り、望みは高くということだと思います。
石川 「厳しい」は言わないようにしています。その代わり何をするべきか議論するべきです。SDGsに関連して、生協と一緒に協同組合間提携として、〝オールしまね〟で子ども食堂やフードバンクに取り組んでいきたいと考えています。
―地域貢献活動ですね。
石川 それもボランティアではなく、JAがやるべき仕事であり、事業として取り組む考えです。
◆園芸5品目重点推進
―萬代元組合長ご指摘のように、島根県は決して農業条件に適した環境にはないと思われますが、これからの島根県の農業に、どのようなビジョンを描いていますか。
石川 米はなかなか伸びないでしょうが、無視はできません。伸ばすべきは園芸と畜産だと考えています。現在、農業戦略実践3か年営農計画で取り組んでいるのがキャベツ、タマネギ、白ネギ、ミニトマト、アスパラガスの重点推進5品目、それに加えてブロッコリーです。これをリース事業で、やる気のある担い手へ勧めています。
また、畜産においても、リースの畜舎を建設しました。国も危機感もっているので、補助事業を活用し、和牛子牛の上場を500頭増やし令和3年度には6000頭に増頭する計画です。こうした取り組みで、令和3年の販売額を、平成30年度比で約39億円増やし、416億円を目指します。
―長時間、ありがとうございました。
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