JAの活動:2021持続可能な社会を目指して 今こそ我らJAの出番
【特集:今こそ我らJAの出番】10年後の将来像見据え 青山吉和JA静岡中央会会長に聞く2021年1月12日
静岡県は、気候温暖で変化に富んだ自然環境を利用して多種多様な農産物が生産されており、日本農業の縮図とも言える位置にある。中でも温室メロン、イチゴ、花きなど、高い品質を誇り、全国の産地をリードしている作目もある。同県JAグループは、10年後を見据えた静岡県農業の将来像を描き、その第1期として2020(令和2)年度から「JA静岡3カ年計画」を策定し、計画の実現に取り組んでいる。青山吉和・JA静岡中央会会長に聞いた。(聞き手・構成:日野原信雄)

所得アップへ基盤整備に力
生産部会強化を軸に
――静岡県のJAグループは、昨年、新たな「3カ年計画」を策定しました。どこに重点を置いていますか。
「JA静岡3カ年計画」は、2011(平成23年)年からスタートした10年後の将来像「農業を主軸とした地域協同組合」の取り組みが区切りを迎えたことから、新たな長期ビジョンとしてJAの「10年後の現実像」を示したものです。
これは単なる願望ではなく、10年後にJAとして必ず成し遂げなくてはならない「あるべき状態」と定義して取り組んでいます。今回の3カ年計画は、その第1期で、今後、3年ごとに、それぞれの目標到達水準を設定し、そのためには何をすべきかについて検討していく方針です。
10年後の「あるべき状態」とは、農家組合員の所得向上と持続可能な地域農業の確立で、その骨子は農業の生産拡大、経営環境に対応したJAの事業・経営の確立にあります。特に農業生産では農産物の販売高を2割アップの1100億円とする目標を掲げました。
実現に向けて、生産者の組織である生産部会を強化する方針です。このため、各JAには生産部会の将来像をつくるよう働きかけています。現在、県内には販売高1億円以上が14JA79部会あります。これらをモデルに生産部会の強化・拡大のための支援をしていきます。
――10年後の販売額20%アップ達成するためには、どのような課題がありますか。
3カ年計画でも明記していますが、販売力強化と担い手確保、それに生産基盤の整備です。JAグループの全力を挙げて取り組む決意です。
静岡県はお茶、ミカン、イチゴといった主要品目が知られていますが、その他にも多彩な農産物が生産されています。少量多品目が特徴で、メロン、トマト、ワサビなど、それぞれ地域の特性を生かしたブランド力のある農産物があります。こうした品目の生産を伸ばすとともに、加工業用野菜への対応、流通施設の設置、ファーマーズマーケットでの販売拡充に努める方針です。
担い手に関しては、新規、定年リタイア、異業種参入と、いろいろあってもよいと考えています。農業者の減少で、農家の後継者を育てるといっても限界があり、対象を広げて考えないと、確保が難しくなっています。高齢者や定年リタイアの人でも、ファーマーズマーケットという出荷先があり、安心して栽培することができます。
三つ目の生産基盤の整備では、主に中山間地域の農地が対象になりますが、土地改良の自己負担ゼロのほ場整備事業もあり、これらを利用して積極的に進めようと思っています。併せて、農地中間管理機構を活用し、担い手への農地集積を促す考えです。基盤整備ではJAしみずが、土地改良区の事務局を持つという全国でも例のない体制で大規模なミカン産地をつくっています。中山間地に多い傾斜地の茶園の基盤整備は事業費もかかり大変ですが、できるところから始めて乗用の管理・収穫機が使えるようにしたいと考えています。
実践活動重要人材育成から
協同組合の原点に返る
――JAグループは「JA自己改革」に取り組んでいます。これからのJAのあり方について、どのように考えますか。
私は、農協の役員・幹部職員を育成する中央協同組合学園で学びました。きっかけは、進学のとき、高校の先生から、名をとって大学へ行くか、本当の勉強ができるところに行くかと言われ、学園を選びました。当時、全中の会長であった宮脇朝男氏による早朝講話があり、朝7時ごろから聴講したことが記憶に残っています。
いまは、このような全国的な協同組合の教育機関は無くなってしまいましたが、JAに求められているのは協同組合の思想であり、それを実践できる人材ではないでしょうか。これまでのように貯金・共済の稼ぎを営農経済事業などに回すといった経営スタイルは、遠からず成り立たなくなるでしょう。これまでも信用・共済事業の利用者にはJAに協力してもらっていますが、JAの方でお客さま扱いしてきたきらいがあるのではないでしょうか。
協同組合は、組合員自らが活動し、事業を展開すること。これが原点です。それは営農・経済・生活事業であり、政府や規制改革会議に指摘されるまでもなく、改めて、農協をつくったころの原点について、考えなければならないときだと思います。
そのための人づくりが重要です。各JAでは協同組合塾や組合員講座を開設するなどの動きが出ています。そこを基盤にJAとしての人づくりを進めるべきだと考えます。JAの県段階でも、長期研修がなくなって久しいのですが、タイムリーに階層別研修はどんどんやろうと思っています。
全中はアクティブメンバーシップということで、JA活動に積極的に参加する組合員づくりを提案し、進めていますが、それに負けないような職員を養成する必要があります。貯金や共済の推進は、単に金を集めるのではなく、組合員みんなの生活をよくするためにあるものです。常にその気持ちを持って取り組む職員であってほしいですね。
冬でも温暖な気候を生かした施設園芸
まず農業理解食は国の基本
職員は全員広報マン
――協同組合は「人の組織」と言われます。10年後のJA「現実像」と併せ、これから、どのような「職員像」が求められるでしょうか。
農業を知らない職員が増えています。お茶、ミカン、イチゴなどもそうですが、農産物の多くは、1年間、人手をかけて初めて実になるものです。収穫作業を体験しても、全体の作業の流れはほとんどわかりません。それを知らないと、組合員との話はできないでしょう。
また、職員は全員がJAの広報マンであるべきだと考えています。どこでも、いつでも地元の農業や、特産物をしっかりPRできる職員であってほしいですね。3カ年計画のなかでも、地域農業への理解を広げる対外広報活動などにより、県産農産物のファンづくりに取り組むことを掲げています。
一方で組合員は世代交替が進んでいます。この世代に、JAは銀行や保険会社と同じだと思われたらおしまいです。時間はかかりますが、組合員大学のような教育文化活動を粘り強く続けなくてはなりません。教育のない協同組合運動はありません。
一方でJAの経営状況は、年々厳しくなっています。しかし、これまでも苦しい時期がありましたが、先輩たちはこれを乗り越えてきました。全国的に広域・県域の合併が進んでいますが、その前に、くらしと営農の拠点を守りながらの支店統廃合や経済事業の収支改善など、組合員の声を聞きながら、改革のための体力をつけるべきと考え、懸命に取り組んでいるところです。
親子で賑わう観光イチゴ園
准組合員の参加促す
――農水省は今年、准組合員のJA事業の利用についての方針を示すことになっていますが。
いままで、准組合員に対しては、融資できればよい、共済に加入してもらえればよいというスタンスだったのではないでしょうか。准組合員とのつながりを深めようと思ってもアプローチの方法が分からないというのが実態だったと思います。准組合員は我々の仲間です。この位置づけを明確にして農協の活動、事業に積極的に参加するようアピールしなければなりません。
JAの運営に准組合員をいかに巻き込むかが重要で、議決権はなくても総代会で発言する機会をつくることも、これから意識していく必要があると考えています。
――JAグループが5年間、取り組んできた「JAの自己改革」の結果はどうでしたか。
JA改革のなかで、生産資材の引き下げや販売力強化は成果をあげ、経営確立もやってきました。支店統廃合も取り組んでいます。支店がなくなることで組合員離れが危惧されますが、組合員との接点は支店だけではなく、座談会や訪問活動など、いろいろなやり方があります。各JAともそのフォローを考え、理解を得るようにしています。ネットバンクに備え、支店協同活動など、支店の機能のあり方も考える必要があります。
自給率アップが基本
――コロナ禍で、一時、食料危機がとりざたされましたが、国の農業・食料政策はどのようにあるべきと考えますか。
農政の基本は、やはり食料自給率のアップだと思います。現在の食料自給率は38%で、食料・農業・農村基本法では、めざすべき自給率として45%をあげています。政策はいろいろあると思いますが、農地と農家を守ることが第1です。美しい日本の水田をいかに維持し、いかに農業を振興するかは、国の重要な役目だと思います。
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