JAの活動:実現しよう!「協同」と「共生」の新しい世界へ
【新春座談会】健診で築く安心社会 JA山梨厚生連の挑戦(2)2022年1月11日
第29回JA全国大会では「持続可能な農業の実現」、「豊かでくらしやすい地域共生社会の実現」を決議した。コロナ禍でのこの決議に、生命を支える食料生産はもちろん、協同の力で地域を持続させる人々の「いのち」をどう守っていくか、その大切さも改めて認識したい。今回はJA山梨厚生連の飯沼全司代表理事専務とJA全厚連の中村純誠代表理事理事長に健康管理・増進活動を事業の柱とするJA山梨厚生連の取り組みを機軸にJAグループがめざすべきことを話し合ってもらった。司会は文芸アナリストの大金義昭氏。
中村純誠 JA全厚連 代表理事理事長
「予防と発見」成果積み重ね
大金 健康管理・増進という事業・活動を大きな柱に取り組んできたJA山梨厚生連は、2022(令和4)年に発足45周年を迎えます。歴史をふまえ、どんな活動を積み重ねてきたのか聞かせてください。
飯沼 活動の転機は、30周年を迎えた2007(平成19)年だと思います。JA山梨厚生連の理念は「誠実、和、熱意」です。これについて職員のなかで、もう少し具体的な活動スローガンを作ろうということになり、そこで生まれたのが「つなげる、やさしさ。」でした。その言葉に込められているのは、人々の健康だけではなくて地球環境などあらゆるものにやさしくありたいという、現在のSDGsにもつながる考え方です。
こうしたスローガンを作ったことで、大きなことではなくても小さなことから1つずつ一所懸命にやろうということが再確認され、それを役職員一丸となって積み重ねてこられたのだと思います。
ちょうどその頃、健康管理センターの別館をオープンしました。事業を拡大するには、私たちにとっては受診率をどれだけ上げられるかがポイントになります。そこで考えたのが、スローガンに掲げた「やさしさ」を少しでも受診会場で感じてもらうことができれば、来年の受診にもつながるのではないかということでした。会場で感じたやさしさは家庭に持ち帰って家族に話をしてくれると思いますし、さらに地域にも広がっていくだろうと思います。こうしたことが私たちの事業の拡大にもつながるし、それがJAの活動そのものといえるのかも知れません。
それまでの事業についてお話しすると、健診事業は1983(昭和58)年に老人保健法が始まって以降少しずつ軌道に乗り始め、その後1997(平成9)年には介護保険法が公布され、JA山梨厚生連も福祉分野でも何か事業展開をしなければいけないのではないか、さらに医療分野にも、という議論になりました。
しかし当時の組織決定で、「選択と集中」という考え方のもと健康増進という分野に「集中」すべきであり、まずはこの分野で成果を上げるべきだという方針になりました。当時の私たちの目標は病院を持つことでしたから、医療職からはその方針に反対の声もありました。しかし、今になって考えると賢明な決断だったと考えています。
大金 「予防と早期発見」に力を入れるということですね。
中村 病院経営は医師の確保等に象徴されるように、経営的にはハードルの高い事業です。健康増進活動に特化していくという当時の決断は、その事業を徹底することで組合員の健康増進ができるわけですから、適切な判断であり、組合員の期待にも十分応えることができると思います。
大金 なるほど。具体的にはどのように事業・活動を展開してこられたのですか。
飯沼 最初に取り組んだのは、行政と連携した健康診断事業でした。JAと行政と、私たちJA山梨厚生連の3者で常に協力しながら事業を展開してきたというのが歴史です。
また、健康診断を受けるのは年に1度ですが、それだけではなく1年を通して組合員や地域住民の皆さんとどう関われるかをもっと大事にしないと受診率は高くならない。そうした考えから社会貢献活動にも取り組んできました。「市民公開講座」をはじめとする市民が集まるイベントの開催です。
私たちは地域に寄り添う医療機関として、日ごろの感謝をかたちにしていこうと活動に取り組んできました。
現在はコロナ禍でイベントが開けていませんが、たとえば例年3月には「カラダいきいきフェスタ」を開催しています。乳がん検診を呼びかける「ピンクリボンフェスタ」と合同で、健康管理センターの施設や検診車などをオープンにして参加者に一日楽しんでもらうイベントです。子どもたちには白衣を着て撮影体験をしてもらうなどし、今や1300人を超える方が来場するようになっています。
がん検診の大切さ 老若男女に"発信"
飯沼 さきほどお話しした「市民公開講座」は学びの観点から開き、著名な医師や研究者を講師に招いています。県内JAの組合員の皆さんが参加していますが、とくにJA女性組織の皆さんが熱心に参加されています。
「歩こう元気に100歳まで」を合言葉に「しあわせウォーク」も開催しています。県が整備した「武田の杜」にあるウォーキングコースを利用したイベントです。参加人数に制限がありますが、私たちとしてはモデル的な取り組みと考えており、それぞれのJAで同じような活動をしていただければと願っていました。今では各JAでもウォーキング大会を開催するようになっています。そこには本会から健康運動指導師などトレーナーを派遣してお手伝いをしています。
また、「健診・人間ドック体験記コンクール」というイベントも行っています。ここ数年は全国から応募があり、第7回となった2021(令和3)年には、265の作品が集まっています。入賞者には県内JAの特産品などを贈呈し、作品は動画やノベルティーなどに掲載して健診の啓蒙(けいもう)・啓発に活用しています。
大金 がん教育にも取り組まれていると聞きました。
飯沼 2016(平成28)年の改正がん対策基本法の中にがん教育が明記されたことで2020(令和2)年度からは小学校、翌3年度からは中学校でがん教育が導入されることになりました。しかし教育現場はどんな形で行えばいいか困惑していました。そこで県の教育委員会に「がん教育外部講師」として申請して2018(平成30)年から出前授業の活動を始めました。
出前授業には管理栄養士と保健師が出向き、グループワークを中心とした参加型の授業を行っています。授業後には大切な人や将来の自分に向けたメッセージカードを書く時間があって、親にがん検診を受けてほしいとか、たばこはやめてほしいといった内容を書いてくれます。それを持ち帰ってもらいますから、家庭でも話題になり地域にも広がって、がん検診の普及にもつながっていると思っています。
授業にはもう2人、マスコットキャラクターの「けんくん」と「しんくん」の着ぐるみも派遣していて、子どもたちに人気です。もともとは、厚労省が「がん検診受診率50%達成キャンペーン」の一環で戦国武将の上杉謙信をモデルにしたキャラクターを作ったんです。「検診」に「謙信」をかけたというわけですね。しかしこれを使ってがん検診の推進をするのを、山梨県民として黙ってはいられませんでした。山梨県のヒーローといえば武田信玄ですし、上杉謙信とは歴史上有名なライバル関係です。すぐにオリジナルの武田信玄のキャラクターを制作して、厚労省にも許可をとったうえで2体揃って活動しています。これは山梨県民としての意地ですね。(笑)
また、武田信玄には上洛寸前に病に倒れたという話がありますが、当時もし胃がん検診があって、胃がんを早期発見していれば、信玄こそが天下統一を成し遂げたのではないかといった物語を着ぐるみで寸劇にして、様々な場所で披露しています。どんなイベントでも、まずは注目していただくということを大事にしています。
大金 「健康寿命」で山梨県は都道府県のトップクラスに入っていますね。
飯沼 ここ数年では、男女ともに必ずトップ3に入っています。
中村 素晴らしいですね。やはり行政ではなく、私たちのような事業体が先頭を切って取り組んでいるというところに大きな価値があります。JAの事業という枠を超え、地域住民の健康増進活動に寄与しているということです。事業そのものは公的な事業として位置づけられていますが、それを地で行っていると言えますね。
【新春座談会】健診で築く安心社会 JA山梨厚生連の挑戦(1)
【新春座談会】健診で築く安心社会 JA山梨厚生連の挑戦(3)
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