JAの活動:2025国際協同組合年 持続可能な社会を目指して 協同組合が地球を救う「どうする?この国の進路」
【JAトップ提言2025】「協治戦略」で共生に道 JAはだの組合長 宮永均氏2025年1月21日
第30回JA全国大会は「組合員・地域とともに食と農を支える協同の力~協同活動と総合事業の好循環」を決議した。2025年度はその実践の初年度となる。いうまでもなく地域によって課題は異なる。そのなかでどう戦略を打ち出すべきか、JAはだの組合長の宮永均氏に提言してもらった。

JAはだの組合長 宮永均氏
我が国の農業は、農地面積の減少、農業従事者の減少および高齢化が進行しています。基幹的農業従事者は、2015年には1757万人でしたが、2020年には1363万人に減少し、5年間で394万人が減少しました。JAはだの管内でも、この5年間で300人以上の農業従事者が減少しています。この状況は国民への食料供給を脅かすことになり、食料安全保障としての自給率向上が第一級の課題となっています。
食料自給率を向上させるためには、生産者と消費者の理解を促進し、地域での地産地消を推進することが不可欠です。JAはだのは、都市の利点を活用し、地域ならではの取り組みを追求しています。消費者が自分の手で野菜を育てたり、土に触れたりする機会を提供することで、農業への関心を高めています。
具体的には、農家やJAが栽培指導を行う農園を開設し、ライフスタイルや興味に合わせた仕組みを構築しています。これにより、農業への関心と理解を促進し、「耕す市民」を育成し、地域の農業に関わる人々の裾野を広げることを目指しています。関心度に応じた多彩な機会を設けることで、より多くの人々が農業に関与できるようにしています。
JAはだのと秦野市、市農業委員会が連携して運営する「はだの都市農業支援センター」では、毎年「はだの市民農業塾」を開催しています。この塾では、市民農園利用希望者を対象とした「基礎セミナーコース」や、定年帰農や新規就農希望者を対象とした「新規就農コース」を提供しています。2006年度の開講以来、基礎コースには288人が受講し、新規就農コースは105人が修了しました。そのうち90人が実際に就農しています。
また、特定農地貸付法に基づく市民農園も運営しています。JAはだのが荒廃農地を10a当たり年間1万5000円で借り受け、1区画100平方mあたり年間6000円で市民に貸し出しています。現在、41園326区画の利用者がいます。
さらに、より手軽に農業体験を希望する人のために、収穫体験や田植えなどの季節のイベント情報を提供する会員組織「はだの農業満喫CLUB」を設けており、現在921人が登録しています。これらの様々な取り組みを通じて、農業に関わる人々の視野を広げ、その中からより主体的に農業を行いたいと考える人々が育ってくることを期待しています。また、自然資源の保全も重要な課題となっています。地域における農地や森林などの自然資源保全のための戦略として、「抵抗戦略」「順応戦略」「協治戦略」の三つを考えたいと思います。協治戦略は、グローバリゼーションの進展を前提としつつ、地域自治の理念を重視し、抵抗戦略と順応戦略を止揚し統合することを目指します。
「協治」とは、「地元住民を中心とする多様な利害関係者の連帯・協働による環境や資源の管理の仕組み」と定義されます。この協治においては、地域の環境や資源に対する関与の深さに応じて決定権が付与される「応関原則」が意思形成や合意形成の場に導入されることが重要です。このように、従来のコモンズ論を拡張する形で、参加主体や意思決定過程のあり方を問い直し、地域資源管理における新たなガバナンスの形を構築する必要があります。
これは、都市の利点を活用した取り組みとして、観光農業を通じて「農」「食」「交流」が一体化した、秦野でしか味わえない体験を提供するガストロノミーツーリズムに注目し、はだの農業満喫CLUBをはじめとする農に関わる人々の裾野を広げることを目的としています。そのために、都市農業の利点を生かした「農」「食」「交流」が一体化した「はだのガストロノミ―宣言」を行いたいと考えています。
「協治」によるコモンズの再生は、グローバリゼーションの進展を前提としつつも地域理念を重視し、地産地消の再構築と環境保全という目的達成のための手段としてコモンズ再生のための制度を構築することが求められます。すなわち、「閉じる」と「開く」、あるいは「固有な価値」と「普遍的な価値」との調整が必要です。そのためには、地域の人々がコモンズを外部へ開く意思、つまり「開かれた地元主義」が求められます。これにより、一地域のコモンズに興味を示す外部者との協力が可能となりますが、外部者の影響力が強すぎると地域自治を損なう恐れがあります。そこで、当該地域のコモンズとの関わりの深さに応じた発言権を認めるという理念「かかわり主義」に基づく合意形成の場を設計することが不可欠です。
このような「開かれた地元主義」と「かかわり主義」を両輪として、地域住民を中心とした多様な利害関係者の連帯・協働による資源管理の仕組みにより、コモンズ再生の可能性が格段に向上すると考えています。つまり、地域住民による農業や林業などへの積極的な参加は、地方自治を超える「協治」となるのです。
秦野市では、環境省の「里地里山保全再生モデル事業」に基づき、多様な関係者の取り組み目標や役割分担を定めた「地域戦略」が策定されています。地域住民や活動団体、森林組合などが参加する「はだの里山保全再生活動団体等連絡協議会」が組織され、相互に連絡を取りながら活動を進めています。また、市民による里地里山の管理・支援を目的とした「里山ふれあいの森づくり事業」が実施されており、森林整備を行うボランティア団体に対して活動費の支援が行われ、事業が継続的に実施されています。
秦野市の農地においても、農地の多面的機能を発揮しつつ、営農環境と都市環境が調和した良好な市街地形成が課題となっています。これを実現するためには、特に多面的機能の評価が高い市街化区域農地などについて、高齢化や農業後継者不在の影響で農地所有者が耕作できなくなった後も、多面的機能を確保し、公共財的活用を図る仕組みが重要です。
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