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2017.09.28 
米国農業に打撃 不法移民取締り一覧へ

強制送還なら販売額15%減

 米国のトランプ大統領は9月5日、移民救済制度「DACA」(ダカ)の廃止を打ち出した。米国農業はメキシコなどからの多数の不法移民をを活用しているのが実態で、農業にとって不法移民の強制送還は死活問題、米国農業経営者は大きな不安を抱えている。この問題をJA全中が発行している「国際農業・食料レター」8月号(以下、全中レター)がレポートしている。

◆農業労働者の半数が不法

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 子どものときに親に連れられて米国に来た不法移民の若者たちには一定の条件下で強制送還しないとする措置で、オバマ前政権が導入した制度だ。しかし、不法移民に職を奪われたという米国白人層の強い不満が後押して誕生したトランプ大統領の「米国第一」主義はこの制度の廃止を打ち出し、80万人に及ぶ強制退去の恐れを生んでいる。
 2012年の米国農業センサスによると米国の農業経営総数は約208万。日本と同様に農業者数は減少し、基幹的な農業者の年齢は58.3歳と高齢化し労働力不足が課題となっている。

メキシコにおける出稼者のモニュメント。不法就労でも、アメリカへの出稼ぎは〝成功者〟とみられる。

(写真)メキシコにおける出稼者のモニュメント。不法就労でも、アメリカへの出稼ぎは〝成功者〟とみられる。


 そのため米国全体で100万人を超える雇用労働者が農業に従事しており、全農業者318万人の3割を占めている。
 全中レターによると、販売高5500万円超の経営で全体の70%以上が雇用労働者となっており、大規模経営ほど雇用労働を活用しているという。雇用労働の活用割合を経営形態別にみると野菜、果樹経営で54%、畜産経営で33%と労働集約的な経営で約9割を占める。果樹の収穫などは機械化が難しく人手に頼らざるを得ないからと考えられる。
 ただし、米国の雇用農業労働者(耕種経営)のうち、米国籍を持つのは約30%に過ぎず、残りの70%の多くはメキシコ出身者を中心とした外国人で米国農務省(USDA)の調べではこの70%のうちの約50%はビザ(査証)を持たない不法移民だという。
 畜産経営についてはUSDAの調査は行われていないが、全中レターはアメリカ・ファーム・ビューローの「雇用労働者の少なくとも50~70%は非合法な身分」との認識を紹介し、仮に米国全体の雇用労働者の50%が不法移民だとすると、農業雇用労働者100万人のうち50万人が不法移民だと指摘する。

◆移民排斥で販売額減少

賃金水準の比較(2017年4月)

 アメリカ・ファーム・ビューローは「非合法な外国人労働者の活用ができなくなれば米国の農産物販売額は300億ドルから600億ドル減少する」としているといい、米国農産物総販売額約3900億ドルの15%減にもなると試算している。
 また、不法移民が活用できないと国内農業生産の減少によって食料価格が5~6%上昇するとの試算も示し、米国の消費者にも影響する問題だとアピールしている。
 また、不法移民対策の強化による労働者の減少は雇用労働市場の需給ひっ迫と賃金上昇を招き低賃金による農業経営維持が難しくなることも意味する。 全中レターによると農業の雇用労働者の時間給は12.32ドルで全職種平均の26.18ドルを大きく下回っている。外国人労働者が多い宿泊・飲食業の15.36ドルよりも低い。
 米国の農業経営者にすればこの低い賃金が生産コストを抑えるメリットとなってきたが、トランプ政権の不法移民取り締まり強化によって、労働力の争奪戦が起きれば賃金上昇につながり、米国の農業経営に大きな打撃を与えかねない。また、全中レターは外国人労働力確保は農業大国の豪州でも問題になっていることもレポートしている。 そのうえで、外国人労働者の活用自体が否定されるものではないが、不法移民の立場の弱さから低賃金を強いられているのではないかとの批判もあるとして、「米国農業の国際競争力を本来許されない方法で高め、貿易を歪めていることにもなりかねない」と指摘している。
 一方で米国は通商交渉で相手国に対し、労働、環境、為替でのダンピングがその国の競争力を不当に高めていると強く糾弾する姿勢を示してきた。その意味では、米国こそ不法移民で農業の競争力を高めているといえ、人に厳しく自分には甘い米国の体質をトランプ大統領の移民取り締まり強化策が図らずも浮き彫りにしたかっこうだ。
 ただし、世界全体に求められているのは安定的な農業生産と食料供給である。全中レターは公平な貿易を行う観点からも米国での不法移民問題が着実に解消されることが望まれるが、わが国も含めて各国で農業生産の安定に向けた外国人労働者の受け入れ問題が課題となっていることを指摘している。

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