日本の種苗産業活性化へ 育成者保護し海外展開を2018年7月6日
・農林水産・食品産業技術振興会が講演会
(公社)農林水産・食品産業技術振興協会は6月26日、都内で植物品種等海外流出防止対策についての講演会を開いた。主要農作物種子法の廃止や自家増殖の制限、国内種苗の海外流出など、種苗や種子の知的財産権の保護をめぐる問題が表面化している。講演会では、農水省の食料産業局知的財産課の杉中淳課長が、最近の種苗をめぐる情勢を報告し、種苗政策のあり方について、その検討方向を示した。
農水省の杉中淳課長によると、日本の種子・種苗の輸出は近年増加傾向にある。平成29年の輸出額は平成24年の94億円から152億円に伸びている。その7割が野菜で、輸出先は中国、香港、韓国が大半を占める。ただ、世界の種苗貿易額は、2000年から2005年で3倍近く伸びており、このペースには追いついていないと言う。
一方、品種登録の出願数は、日本では10年前に比べて約3割減り、世界第3位から5位になった。この間、他の主要国では増加しており、中国は約2・5倍と大幅に増加。「新品種の開発数は日本の農業のイノベーションとも直結しており、品種登録の減少は日本農業の競争力にも影響している」と同課長は指摘する。
新品種開発の低下には国内市場の縮小が背景にある。世界の種苗市場の規模は、2005年から2012年の間に約6割拡大しているが、日本の国内市場は縮小している。2012年で日本の市場規模は世界7位で、主要国の中では日本の縮小が目立つ。
こうしたなかで農業競争力強化支援法のもと、主要農作物種子法が廃止された。杉中課長は「都道府県による種子開発・供給体制を活かしつつ、民間企業との連携により、種子を開発・供給することが必要」と、種子法廃止の目的を説明した。
新品種開発の低下、種苗市場の縮小が進む一方で、種苗の海外流出が増えている。特に日本で開発された優秀な種苗は海外でも高い評価を得ており、育成者権者の意図しない形で流出するケースが多い。これは種子や種苗が簡単に持ち出し、増殖できるためだが、特にランナーや苗木で簡単に増殖できるイチゴやブドウは、海外で知的財産権を取得しなければ守れなくなっている。例として、日本で開発されたブドウの「シャインマスカット」やイチゴの「スカイベリー」などが、中国で販売、商標登録されていることが確認されている。中国の生果ブドウの市場は6000億円と推計されており、このままでは「有力な海外マーケットを失う恐れがある」と警鐘を鳴らす。
なお自家増殖については、種苗法上は、種苗法施行規則で定める栄養繁殖をする植物に属する種苗(トマト、バラ、シイタケ等356品種)と、契約で別段の定めを行った場合を除き、育成者権は及ばないとなっている。一方、UPOV91(植物の新品種の保護に関する国際条約)では、登録品種の自家増殖には原則育成者権が及ぶとされている。しかし先進国における登録品種の自家増殖の扱いとは乖離があり、農水省は「植物の種類ごとの実態を十分に勘案したうえで、生産現場に影響のないものから順次指摘していくこととする」としている。
杉中課長はこれからの種苗政策のあり方として、(1)育成者の投資が守られるような権利保護制度にする、(2)海外流出を防止するため、種苗の国内流通のあり方も含めた検討が必要、(3)日本の種苗業者が活力を維持するためには海外展開が不可欠であり、国と民間が協力することを検討する必要があると指摘し、種苗産業の積極的な発言を促した。
なお、講演会では、三重県農業研究所生産技術研究室の森利樹室長「種子繁殖型品種の開発戦略と『よつぼし』の海外展開」で、韓国農林畜産部種子・生命産業課課長が「韓国の種子産業とゴールデン・シート・プロジェクト」で、それぞれ報告した。
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