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2018.07.19 
村の「教育力」が地域を変える 中山間地域フォーラム一覧へ

 農山村での地元住民とのふれあいや農作業体験などが若者に生きる自信を生み、農山村への関心を高めて実際に移住するなど、新たな動きに着目しようと、設立12年目となる中山間地域フォーラムは7月15日、記念シンポジウム「農山村の教育力」を開いた。自治体関係者、研究者ら約200人が集まり各地の実践報告をもとに、「教育」をキーワードに持続的な農山漁村づくりの可能性を探った。

◆にぎやかな過疎へ

記念シンポジウム「農山村の教育力」 中山間地域フォーラム 中山間地域フォーラム副会長の小田切徳美明大教授は「田園回帰」の最近の動きについて解説した。総務省の田園回帰研究会は直近3回の国勢調査を改めて分析し、都会からの移住者が増加していることを示した。過疎地域全1523地区中、人口増加地域は、2000年と05年国勢調査の比較では108区域(7.1%)だったが、10年と15年の比較では397地域(26.1%)へと3.7倍に増えていることが分かった。
 この間の特徴は、人口の少ない小規模市町村の増加区域が多く、さらに振興山村や離島に指定された地域のほうが多い。移住者が増えたという離島は29.7%と3割近い。
 小田切教授によると、こうした移住者増のなかでいくつかの大きな変化が生まれているという。 一つは「田舎には仕事がない」を乗り越えている若者たち。農山村で仕事を起こす若者のほか、豆腐づくりなど古い仕事を新しく継ぐ継業、IT関連やウェブデザインなど仕事を持ち込む移業、さらに農業とそのほかの仕事を組み合わせる多業化も模索されているという。小田切教授はこうした動きを「学びを活かす場」としての農山村への期待だと分析した。
 また、内閣府の世論調査では30歳代の都市に住む女性では、農村に住みたいという願望が05年の16.9%が14年では31.0%と増えているほか、子育てに適している地域は農山漁村だという女性が55.6%となっていることに注目、とくに若い女性で「学びの場」としての農山村への期待が高まっていると指摘した。
 このような農山村への学びへの期待が田園回帰の潮流のなかにあり、その学びから、多彩な人材が生まれて地域に長期間関わるようになる「人材循環」のイメージを持つこともこれからの農山村には必要ではないかという。人口は減少しても、個性あふれる人材がさまざまなかたちで地域に関わっているといった「にぎやかな過疎」を村の「教育力」が作り出す可能性も提起した。

(写真)記念シンポジウムのようす

 

◆観光より「学び」を

 今回のシンポジウムでは各地ですでに10年、20年と教育を軸に地域づくりに取り組んできた実践者たちが報告した。
 都会の子どもたちの山村留学や親子のキャンプ体験など山村に学ぶ事業に、長野県泰阜村で30年以上前から取り組んできたNPO法人グリーンウッド自然体験教育センターの辻英之代表は「村のど真ん中に学びを置く」実践を報告した。
 山村留学は20人程度の小中学生が一年間、泰阜村に住み、村の学校に通いながら協働生活し「子どもたちが手作りで自分たちの暮らしをつくる」もの。そのほかキャンプには年間1200人が訪れるようになるなど、交流人口が増えていくと、村の「よそ者」と思われていた住民との信頼関係も生まれ、「こんな村イヤ」という価値観が変わり、訪れる子ども達のためにおいしい野菜づくりに精を出したり、村の暮らしを伝えることに意欲を出す住民も出てきた。
 遊びだと思われていた事業も規模は1億円に。予算20億円の村では大企業である。村に何回も通ってもらううちに、Uターン者も増えて限界集落3つのうち2つが解消したという。人づくりが地域づくりにつながるとして「1万人の観光客より100人のファンづくりが大事」と強調した。

 

◆人生変える聞き書き

 熊本県小国町の(一財)学びやの里は、町から指定管理を受けて研修宿泊施設やレストランなどを管理運営する父親が設立に関わり「地域づくりに取り組む姿が生き生きとして見えた」という現在の江藤理一郎事務局長は大学卒業後、Uターンし、いくつかの職を経て現職に。事務局長になってから3年で赤字を解消し地域雇用を中心に職員数も増やした。
 九州ツーリズム大学や地域づくりインターン事業、移住定住事業など行政の補助事業を活かした教育研修事業も行っている。こうした取り組みを進めながらさまざまな職種の若手を中心に町の将来ビジョンを作ろうと100人会議も立ち上げている。
 NPO法人共存の森ネットワークの吉野奈保子事務局長は農水省などが17年前に始めた「高校生聞き書き甲子園」の成果を報告した。吉野事務局長はこの事業の事務局として毎年100人の高校生が農山村のさまざまな技能を持つ名人からその人生を聞く体験をコーディネートしてきた。
 聞き書きは祖父母のような存在と「一対一の対話」でその人生、仕事、自然観などを聞き、文章に書き起こしていく。「ディテールを大切に。分かった気になるな」が指導の基本だという。
 体験した高校生からは、森の悲鳴を肌で感じた、身の回りのあらゆるものが「生きもん」に見えてきた、といった体験も語られた。それだけではない。「聞いただけで終わりにしたくない」と体験者たちは棚田を守る活動を始めたり、なかには村人から聞いた集落の"助け合い"を実感したいとIターンし、森林組合で働く若者も生まれているという。
 吉野さんは「人と向き合い人生を初めて聞く」という若者の体験が、新たな価値観や暮らしをつくるムラの教育力に着目し「地域づくりは人づくり」の視点を提起した。
 コメンテーターとして参加した若者の農山村体験を支援してきた元地球緑化センターの金井久美子さんは、若者から「魅力ある大人に出会った」という声が多いことを紹介、「若者育ては村育て」と指摘した。

 

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