再エネ導入促進へ 農地規制見直し検討-農水省2021年1月7日
農林水産省は政府が2050年に二酸化炭素排出ゼロ(カーボンニュートラル)社会の実現を目標としていることを受け、荒廃農地を活用した再生可能エネルギーの導入促進に向けて農地規制を一部見直す。通知などで措置できるものは今年度中に対応する。
2020年12月25日に開かれたタスクフォース会合
再エネ導入に農地活用
昨年末の12月25日に開かれた内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等に総点検タスクフォース」のヒアリングで明らかにした。
農山漁村での再エネ導入促進のため平成26年に農山漁村再生可能エネルギー法が施行された。趣旨は再エネ発電で地域の所得向上に結びつけていくことだが、食料生産や国土保全に支障がないよう市町村が施設整備計画を立て国が認定する制度になっている。認定された場合は特例として第1種農地でも太陽光発電設備などを設置できる。
ただ、太陽光パネルの下でも営農が適切に継続されるよう平均単収と比較して2割以上減少していないかといった要件を満たし、農地に建てた支柱の基礎部分については一時転用許可(10年間)を受ける必要がある。あくまで営農との両立が目的で農地を使った単なる発電事業とならないための措置だ。
一方で荒廃農地や今後の耕作の見込みのない農地については再エネ設備を設置して利用することはできる。
「非農地」判断を見直し
内閣府のタスクフォースでは委員が平成25年から30年までの6年間で農地での再エネ導入は1万haに過ぎないと指摘し、遊休農地を農業利用することや、不適切な転用を防ぐことは「重要な農業政策の課題」としながらも、再生困難な荒廃農地は、自動的に「非農地」とする仕組みや、再生可能な農地でも再エネに利用したいという要望があった場合は市町村長の判断で農業利用か、再エネ利用かを判断できる仕組みの導入などを求めた。
また、農業との両立をめざす営農型太陽光発電についても、温室と同様に転用許可不要とし、単収要件や期間制限も外すべきだとした。風力発電も農業と両立できるとして支柱部分の転用許可を不要とすべきとの意見も出した。
これに対して農水省は2050年カーボンニュートラルに向け、農山漁村での再エネ発電量目標などを新たなに設定する方針を示し、地産地消型エネルギーシステムづくりに向けて必要な規制を見直すとした。
そのほか農山漁村再エネ法に基づき基本計画を策定している市町村数は68(令和2年3月末)にとどまっていることから、今後、全市町村で計画策定をめざすことも表明した。
委員からの意見に対しては、「農業的な利用が見込まれない農地を最大限活用して食料生産とのバランスをとるかたちで再エネの導入を促進していく」との方針を表明。森林化して営農再開が見込まれないような荒廃農地について市町村の判断で非農地とするができる仕組みや、再エネ設備に活用するための方策を検討するとした。
また、荒廃農地を活用した営農型太陽光発電についても単収基準を設けているが、そもそも荒廃した農地で作物生産が再開されたとして単収基準の廃止を年度末までに検討するという。
ただし、優良農地での営農型太陽光発電についての規制は、農業と発電を両立させるための特例措置であり、「営農のために必要な温室と同列に扱うことはできない」と反論した。また、風力と農地は共存できるとしながらも、農地に巨大な支柱を建てる場合は、あくまで現行規制のように県による検証と転用許可が必要と強調した。
委員からは、2050年にカーボンニュートラルをめざすと菅総理が昨年秋の臨時国会で表明し政府全体の方針となったことから「大前提が変わった。再エネを増やす方向で農業政策も変わっていく必要がある」と農地規制のさらなる緩和を求める意見も出た。
「スカートを切ってでも前へ」-河野大臣
出席した河野太郎規制改革・行政改革担当大臣は再エネの導入は「とくに中山間地域では農業にとってもプラスではないか。わずかな面積でも収入が得られるのなら農業の継続性にプラスになるのではないか」と話し、さらに規制緩和を求め「誰かがスカートの裾を踏んでいるのならスカートを切ってでも前に進まなければ(政府目標は)達成できない」と述べた。
2019(令和元)年のわが国の耕地面積439.7万ha。そのうち市町村と農業委員会の現地調査で「再生利用が可能な荒廃農地」は9.1万ha。「再生利用が困難と見込まれる荒廃農地」は19.2万haとなっている。今回の検討は「再生利用が困難な荒廃農地」を再エネ利用するための仕組みが議論となっているが、それだけでなく優良農地での風力発電促進を求める声も出ていることに注視が必要ではないか。あくまで農家と地域の収入にプラスになる地産地消型の再エネ導入を基本とすべきだろう。
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