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農政:どうするこの国のかたち

どうみる参院選結果 農村で"地殻変動" 農政への不信高まる(上)2016年7月22日

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“東北の風”を西日本、全国へ政治変革はモノ言う農民から
政治評論家・森田実氏
元農水大臣・山田正彦氏
横浜国立大学・大妻女子大学名誉教授田代洋一氏

 今回の参議院選の結果は、自・公の政権与党が3分の2を占め、憲法改正に必要な議員数を確保した。一方で、「一人区」は、国の農業政策に不満が高まっている東北は与党離れが進み、野党統一候補が軒並み議席を確保し、農民票の″地殻変動”を予想させる動きがあった。こうした選挙結果をどう見るか。政治評論家の森田実氏、元農水大臣の山田正彦氏に対談してもらった。(司会は大妻女子大学・田代洋一名誉教授)

 田代 改憲勢力が3分の2の議席を確保したことで、憲法改正の動きが加速するのか。また、いま農業・農協の最大課題であるTPPの批准、農協改革の動きはどうなるのか。そして農業者や農協はこれからどうすべきか。TPPも含めて示唆していただきたい。まず今回の参院選の結果をどう見るか。新聞では与党大勝といっているが、本当にそう言えるのか。 


◆農業者が与党離れ

政治評論家・森田 実 氏 森田 2012年11月の民主党・野田(佳彦)内閣の衆議院解散のときを思い出す。その選挙で民主一党は自滅したが、解散の前には、自民党は年を越したらもたないだろうとわれるほどのピンチ状態だった。解散総選挙は、結果的には自民党を救うことになった。
 野田首相は、税と社会保障の3党合意を約束しており、それができないと総辞職もありえるという強い姿勢が必要だったと思う。結局は総選挙に追い込まれ失敗した。
 その後も、建て直しの動きはあったが、そのとき僕は、党内が大同団結して、選挙に勝った2009年の状態に戻すべきだと提案した。大敗北という、あれほど大きなミスは、責任をとっていない幹部ではとり戻せない。その後、議員集会などでも、すべてを水に流して大同団結し、新しい世代に任せるべきだと話したが駄目だった。
 民主党は、再建よりは古い幹部のリターンマッチに興味があったようで、ついに選挙で勝つことはなかった。その後は、本当に政権を担う気持ちが感じられない抵抗政党と化した。かっての社会党も議員が2桁になったとき政権をあきらめた。80年代の社会党のような感覚になったと感じた。
 今回、選挙民が自民党を選んだのは結果であって、対抗馬がいない状況で自民党・安倍政権が勝ったに過ぎない。自民党は東北、新潟、長野、三重、大分のようにつばぜり合いしたところでは勝てなかった。
 野党統一候補の当選には農業団体の存在が大きかった。東北の「一人区」の勝利の原因は、野党共闘よりも、むしろ農業者の反乱が大きかったとみるべきだ。自民党勝利は、安倍政権が支持されたのではなく、対抗勢力がなかったからだ。
 憲法問題が持ち上がっており、新聞も9条改定の時期だという。外電もそう伝え、各国政府もそうみている。しかし憲法改定はそう簡単にはいかない。憲法第9条(戦争の放棄)に手をつけると国民投票で否決される可能性がある。結局、自民党はアジアで戦争が起こるまで待つだろう。米中が衝突するようなことがあると危険だ。


◆自民農政は不満だが

 山田 TPPに関しては、野田内閣解散の時の1か月前、民主党は総会でTPP交渉に参加しないことで合意した。それが解散したら賛成となった。賛成署名しないと公認しないという。私はTPP反対の超党派の議員連盟会長だったので、反対を貫いて、結局離党した。 
 そこで選挙だが、前回の参院選では岩手、沖縄しか取れなかったが今回、11選挙区ではほとんど競り勝ち、愛知、北海道でも2人とれた。それなりに健闘したと思う。次の足掛かりができ、これから何らかの展開があるはずだ。
 選挙応援で各地を回ったが、農業者は誰も自民党農政がいいとは思っておらず、安倍政権を信じてはいない。だが野党も農政について意見を集約するだけの力がなかった。従ってTPPには反対だが、それでも自民党に投票せざるを得なかった。 東北、北海道だけでなく、農業地帯である九州の農民の怒りも強い。東北は自主投票で勝てたのだから、農協が腹を決めてかかれば、選挙の結果も違ったのではないか。

 田代 やはり野党は善戦したとみるべきだろう。農業色の強い東北や甲信越ででは、農協組合長から意気込みが感じられた。一方でこれらの県は米地帯でもあり、米価下落による農政への不満が強い。この東日本の勢いをどういう形で西に広げるか。これからの大きな課題だと思う。

 山田 今回の選挙で民進党はTPP反対とは言っていない。なぜ言わないのか疑問だ。山形のように正面から取り上げれば争点となり、圧勝している。全国を回ってみても、農業者のTPP反対は共通していたのだから。


◆政治の根幹は農業に

 森田 政治は農業にあると言ってもよい。印象に残っているのは、1974年の田中内閣の参院選のときだ。徳島選挙区で自民党公認で断然有利と見られた後藤田正晴が落選したが、あの時、徳島県の農協は三木武夫の元秘書の現職無所属候補を支持し、4万票の差で後藤田を倒した。その後、田中内閣が短命に終わり、三木内閣ができたが、その流れをつくったのは徳島の農協だった。
 こうした動きがしばらく続いたが、小泉政権が新自由主義にはっきり舵を切ってから日本全体がおかしくなった。もし郵政民営化のとき、地方が団結して抵抗していたら、政治の流れは変わっていただろう。
 地域は農業者を基本に成り立っている。農家がものを言うようになったら政治は確実に変わる。このことは今回の選挙で証明された。東北や北海道の農業者は、何度も政府に裏切られているので、今度は強いと思う。東北から新しい風を吹かせてほしいものだ。
 年内にも衆議院解散・総選挙という声もあるが、そうなると秋は選挙活動に入る。そのとき野党はTPP反対を明確にすべきだ。民間の大企業が政府より上になるようなことはとんでもない。TPPに入れば国がふっとびかねない。このことをはっきり主張したら、政治の大転換になるだろう。

 山田 農政連(全国農業者農政運動組織連盟)は、自民党公認で出るより、農民党を立ち上げるべきだ。2、3人の当選議員が野党と組んだらTPPはつぶせる。

 田代 TPPの動きだが、とくにアメリカの動き、どうなっていくのか。次の選挙の争点にしないために自民党は国会を開いたらすぐ批准したい考えだが。

 山田 アメリカでは共和党のトランプ氏もTPP反対を表明している。彼はウォール街から金もらっていないのでグローバル企業の影響が少ない。新自由主義の行き過ぎを批判し、貧富の格差も取り上げ、支持を増やしている。
 格差の問題は民主党のクリントン氏も取り上げている。TPP再交渉の話も出ているが、実際には難しいのではないか。すでにオーストラリアの新政権は再交渉反対だといっている。アメリカの下院選挙について、労働組合は批准に賛成する議員は落とすと言っている。
 最近、オバマ大統頷はカナダからメキシコへのパイプライン建設について、環境保護の観点から拒否し、膨大な賠償金を求められていることもあり、ISD条項への反対も強い。2018年2月3日までに批准されないと流れることになっている。こうした情勢から考えると、おそらくアメリカでTPPは批准されないだろう。
 カナダも批准できるかどうか半々だ。マレーシアはアメリカと距離を置き、中国に接近している。元首相のマハティール氏が、TPP反対でナジブ現政権打倒の先頭に立っており、批准はしたものの関連法案で難航している。チリは国会議員全員が反対だ。TPPの先行きはまったくわからなくなった。

(写真)政治評論家・森田 実 氏

どうみる参院選結果 農村で"地殻変動" 農政への不信高まる(上)(下)

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