農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
(108)少数担い手重視を危惧2016年9月5日
◆9割が5ha以下
今年の農業白書の"表2-3経営耕地面積規模別経営体の推移"は、農業経営体を5ha未満、5ha以上20ha未満、20ha以上50ha未満、50ha以上100ha未満、100ha以上の5階層に区分して2005年~2015年の各階層の増減率を示していた。
2015年の数字で言うと都府県農業経営体の94.4%は5ha未満である。それを一括して扱い、残り僅か5.6%の経営体を4階層に分け農業経営体の階層別増減を議論しているのである。
この表について、私はある研究会で"都府県で五ヘクタール未満というのは、圧倒的に経営体の数はこっちのほうが多いわけです。......我々は一番関心のあるのはこの五ヘクタール未満のところが一体どういう増減になっているのかというのがずっと気になりますよね。......同じ12.5%の減となっても、それがどの辺のところかと。0.5ヘクタール未満なのか、一ヘクタール前後のところか、そのほうが物すごく気になるわけです。それをこういうかたちの表の出し方では、いかにも農政は五ヘクタール以上だけを念頭に置いていますよととられかねないですよね..."と指摘した(全農林刊「農村と都市をむすぶ」2016年9月号)。
"五ヘクタール以上だけを念頭に置い"た農政になっていくのではないか、という危惧を「平成29年度農林水産関係予算概算要求の重点事項(案)」を見て改めて感じた。問題点をあげておこう。
◆構造改革 偏重予算
"概算要求の重点事項(案)"をまず項目だけ示すと次のようになっている。
1 担い手への農地集積・集約化による構造改革の推進、2 水田フル活用と経営所得安定対策の着実な実施、3 強い農林水産業のための基盤づくり、4 農林水産業の輸出力強化と農林水産業・食品の高付加価値化、5 食の安全・消費者の信頼確保、6 人口減少社会における農山漁村の活性化、7 林業の成長産業化・森林吸収源対策の推進、8 水産物の加工・流通・輸出対策。
この重点事項8項目のうち、4農林水産業の輸出力強化と農林水産物・食品の高付加価値化を除いて、すべて昨年の概算要求の中にあった項目である。昨年の重点事項はこの7項目のほかに4畜産・酪農の競争力の強化、5農林水産物・食品の高付加価値化等の推進、6日本食・食文化の魅力発信と輸出促進、7品目別生産振興対策の4項目があり、全部で11項目になっていた。この中の6日本食・食文化の魅力発信と輸出促進を中心に5農林水産物・食品の高付加価値化等の推進を取り込んで今年の重点事項の4がつくられているのだし、昨年の重点事項の4畜産・酪農の競争力の強化が今年の重点事項3の中に取り込まれているように、重点事項の内容としては昨年と変わらないといっていい。
が、問題はその順序である。昨年は重点事項のトップに"水田フル活用の促進と経営所得安定対策"が置かれ、"担い手への農地集積・集約化等による構造改革の推進"は3番目だった。それが今年は"担い手への農地集積・集約化等による構造改革の推進"がトップに来て、"水田フル活用と経営所得安定対策"は2位となった。この変化の持つ意味は大きい。トップに据えられた"構造改革の推進"予算は前年当初予算対比60~40%増要求(~にしたのは"内数"となっていて数字が明示されていない事業予算を含まない場合と内数も入れた場合)なのに対し、"水田フル活用"予算は6~8%の予算増要求にとどまっている。
"東北・甲信越の乱"の持つ意味を農政当局は意に介していないらしい。
◆収入保険の対象は?
"水田フル活用"予算要求の最後に"収入保険制度の導入・農業災害補償制度の見直しに向けた準備"があげられており、"平成29年度予算編成過程において検討を進める"とされている。"検討が進"んで農水省が今考えているような青色申告実施者を対象とする内容で予算化され、実施されることになったら、"水田フル活用"予算も"構造改革の推進"予算に変化することになろう。
"TPP対策 収入保険9割補填へ"と日本農業新聞が報道したのは8月20日だが、同報道によれば"農水省は基準収入の9割を限度に補填する案を軸に、対象は青色申告者に限る方針"だという。
農業経営者で所得税納税のため青色申告を申請している者は2015年で42万人でしかない(国税庁事務年報)。5ha以上の農業経営者は全員青色申告しているとみていいだろう。青色申告が出来るためには簿記記帳が不可欠だが、それをしないでは5ha以上の農業経営も出来ないからである。5ha以上経営は2015年に10万5000経営だが、それが全部収入保険対象者になるとしたら、残りの保険対象可能経営者は31万5000人しかない。5ha以下農業経営者は全国で127万2000人だが、保険対象者はその24.8%になる。農業経営体の94%を占める経営体の4分の3は、収入保険の対象外になるわけであり、このままでは鳴り物入りで経営安定対策の柱に仕立てられようとしている収入保険も、少数"担い手"の経営安定策になってしまうだろう。
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