農政:原発処理水海洋放出
処理水放出で説明会-政府は具体策示さず【緊急特集:原発処理水海洋放出】2021年4月20日
政府は4月13日に、東京電力福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水を海洋に放出する方針を決めた。それを受けて18日、福島県いわき市のホテルで「廃炉・汚染水・処理水対策福島協議会」が開かれた。
福島県いわき市のホテルで開かれた「廃炉・汚染水・処理水対策福島協議会」
この協議会のメンバーは県、浜通りの15市町村長、県内の漁業、農業、商工業団体の代表者らで、旅館組合、森林組合、水産市場関係者らがオブザーバーとして参加している。議長は江島潔経済産業副大臣。この日の会議には小早川智明東京電力社長や復興庁、環境省の担当者らも出席した。方針の決定後、政府が地元で説明会を開き、県内の首長や団体代表から意見を直接聞いたのは初めて。
会議は最初に、政府側から今回決定された処理水の処分に関する基本方針、東電の小早川社長から政府の基本方針を踏まえた東電の対応についての説明があり、出席者からそれぞれの意見を聞く方式で行われた。
「放出には反対。政府の方針は関係者の理解を得ておらず、信頼性に疑問がある」。福島県漁業協同組合連合会の野崎哲会長は改めて反対の意思を強調した。県農業協同組合中央会の菅野孝志会長は、県産品の輸入規制が海外で継続されていることに触れ、「国が責任を持って規制解除に向けた国際的な説明をして欲しい」と政府の情報発信力が弱いことを指摘、福島県民を分断しないで、と要望した。
自治体首長からは、福島第一原発事故から10年の国と東電の動きは住民から信頼されていないので、信頼性の回復のためにそれぞれ努力すべき、正確な情報を出して欲しいなどの声が強く出されていた。主な意見、主張は次の通り。
「国、東電は地元の意見を聞くだけ。それに答えていない。正確な、透明性のある情報を出して欲しい。国も東電も、風評被害の原因は何かを突き止めていない。海洋放出は漁民だけでなく県民全体の生活にも影響を及ぼす。今回の決定は降って湧いたようなこと。方針を決めたあとで説明するということは、結論ありきではないか。合意形成がない。風評被害が出た場合の賠償の基準を示せ。海洋放出による損害は、風評ではなく実害だ」。
これに対し、東電の小早川社長は「処理水の対応で理解と信頼を得られるよう、抜本的な改革を進めていきたい」と答えた。また江島副大臣は「今回の意見は追加対策を検討する際に反映させたい。風評抑制の観点から、基本方針に盛り込んだ対策を早急に進めていく。県内自治体や産業関係者から意見を聞き、風評対策に反映させていく」と述べたが、具体策については触れられなかった。
【取材を終えて】
取材していて3つのことを考えた。
東京電力福島第一原発の事故による汚染水は事故直後から発生し、敷地内のタンクに保管してきた。しかし2年後には満杯になる。それをどうするかの検討はされてきても、結論を出せずにここまできてしまった。19日の「朝日新聞」によると、「処理水を放出しても、雨や地下水の流入で増える汚染水が、処分量を上回るので、タンクの増設は避けられない」。
そうなるとすれば、廃炉作業のためにタンク内の処理水を海洋に放出して、その場所を充てるという政府の方針と食い違う。国、東電はどうするのだろうか。
東京電力は2015年に県漁連に「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と文書で約束している。今回の政府の決定ではこのことに触れていない。地元との約束を守らず、丁寧な説明をすると言われても、だれが信用するのだろうか。国が決めたのだから、その方針に従って放出する。東電が主役、当事者なのに、一連の動きを見ていると、国が主役で東電は脇役。まるで他人事に考えている。そう感じている。漁業関係者などが反対しても、国と東電はそれを無視して海洋放出をするのだろうか。そうすれば、沖縄辺野古の新基地建設と同じ構図になる。
もう一つの問題点は、風評被害(実害)に対する賠償問題だ。東電は16日に公表した賠償方針で、期間や地域、業種を限定せずに賠償すると明記した。商品やサービスの取引量の減少、価格の下落などに基づき損害額を算定する。しかしその基準はまだ決まっていない。風評と損害の因果関係を厳しく審査され、被害があっても救済されないこともあり得る。
福島第一原発事故に伴う賠償を求める方法は、東電への直接請求と国の原子力賠償紛争解決センター(ADR)、訴訟の3つがある。このうちADRの申立件数は2020年末現在で約2万2000件。このうち約6000件は和解に至っていない。本紙3月20日号で紹介した飯舘村の菅野哲さんらは、東電が和解案を拒否したため、訴訟に持ち込んだ。「賠償するかどうかは東電が決める」こととしか思えない。処理水の海洋放出で、同じことが繰り返されるのではないか。
(客員編集委員 先崎千尋※)
※先崎千尋氏の「崎」は本来異体字です。
重要な記事
最新の記事
-
果樹産地消滅の恐れ 農家が20年で半減 担い手確保が急務 審議会で議論スタート2024年10月23日
-
【注意報】野菜、花き類にハスモンヨトウ 県内全域で多発のおそれ 滋賀県2024年10月23日
-
【クローズアップ】数字で見る米③ 委託販売と共同計算2024年10月23日
-
【クローズアップ】数字で見る米④ 委託販売と共同計算2024年10月23日
-
千葉県で高病原性鳥インフルエンザ 今シーズン国内2例目2024年10月23日
-
能登を救わずして地方創生なし 【小松泰信・地方の眼力】2024年10月23日
-
森から生まれた収益、森づくりに還元 J‐クレジット活用のリース、JA三井リース九州が第1号案件の契約交わす2024年10月23日
-
食品関連企業の海外展開に関するセミナー開催 関西発の取組を紹介 農水省2024年10月23日
-
ヒガシマル醤油「鍋つゆ」2本付き「はくさい鍋野菜セット」予約販売開始 JA全農兵庫2024年10月23日
-
JAタウン「サンゴ礁の島『喜界島』旅気分キャンペーン」開催2024年10月23日
-
明大菊池ゼミ・同志社大上田ゼミと合同でマーケ施策プロジェクト始動 マルトモ2024年10月23日
-
イネいもち病菌はポリアミンの産生を通じて放線菌の増殖を促進 東京理科大2024年10月23日
-
新米「あきたこまち」入り「なまはげ米袋」新発売 秋田県潟上市2024年10月23日
-
「持続可能な農泊モデル地域」創出へ 5つの農泊地域をモデル地域に選定 JTB総合研究所2024年10月23日
-
「BIOFACH JAPAN 2024」に出展 日本有機加工食品コンソーシアム2024年10月23日
-
廃棄摘果りんご100%使用「テキカカアップルソーダ」ホップテイスト新登場 もりやま園2024年10月23日
-
「温室効果ガス削減」「生物多様性保全」対応米に見える化ラベル表示開始 神明2024年10月23日
-
【人事異動】クボタ(11月1日付)2024年10月23日
-
店舗・宅配ともに前年超え 9月度供給高速報 日本生協連2024年10月23日
-
筑波大発スタートアップのエンドファイト シードラウンドで約1.5億円を資金調達2024年10月23日