農政:特集
【特集:許すな命の格差 築こう協同社会】現地ルポ:JAいぶすき(鹿児島県)(2)「南の食料基地」の役割を担う 期待される若手担い手に聞く2021年8月17日
「南の食料基地」の役割を担いJAいぶすきの農畜産物販売高186億円のうち生産牛・肉用牛など畜産が87億円。そして、管内の耕地面積の約9割は畑で、池田湖の水を利用した畑地かんがい施設が整備され、茶が40億円、野菜が45億円で、野菜は日本一の生産量を誇るそらまめやオクラ、かぼちゃ(同2位)、紅さつまいも、マンゴーなど多彩で、これに観葉植物が加わり、鹿児島県内の農協のなかでは野菜の生産量が大きいのが特徴だ。そこで、こうした農畜産物生産を担う若手生産者にインタビューした。(取材・構成:村田武・九州大学名誉教授)
「鹿児島黒牛」の評価をもっと高める
えい地区の繁殖和牛経営:河上 颯(はやて)さん(26歳)
就農して2年です。地元の頴娃(えい)高校を卒業後3年間、県内の肥育農家で研修し、その後就農しました。父は51歳でまだ若いので、父の母牛45頭の繁殖経営に自家就農するのではなく、独立した経営を始めました。現在は母牛30頭の繁殖経営です。ソルゴーやイタリアンを3ha栽培し、飼料自給率は20%程度です。コロナ禍では、当初肉牛価格が低下して、「これはどうしたものか」と迷いましたが、現在は回復してほっとしています。問題は飼料代がアップしていることです。1頭当たり4~5kg給与する乾草が、1㎏45円だったのが50円になっています。少数頭数の経営なので、初産ケアに注意して事故率を減らすこと、受胎率を80%からさらに引き上げることに力を入れています。
国がTPP関連対策で導入した「畜産・酪農収益力強化総合プロジェクトの推進」の「増頭奨励金」で、飼養規模50頭未満経営には母牛(繁殖雌牛)1頭に24.6万円の増頭奨励金が出ます。自分の経営はまだ子牛セリ市場で繁殖雌牛を購入して規模拡大する段階です。繁殖雌牛は現在1頭75~80万円するので、この奨励金はたいへん助かっています。
鹿児島県には、「鹿児島黒牛」の宣伝にもっと力を入れてほしいですね。鹿児島県は素牛(もとうし)産地であるだけでなく、肥育もやっているのだから、黒豚なみの力を入れれば、「鹿児島牛」の評価は高まると思います。
農協には、年6回開催の「指宿中央家畜市場」の存在をもっと県外に知らせてほしいですね。そうすれば現在、市場に参加している肥育農家は地元の農家が8割ですが、その存在が知られれば県外からの参加者が増え、価格も維持できると思います。
「JAいぶすき認定」農産品の確立を
山川地区のそらまめ経営:西山 尚吾さん(35歳)
父のそらまめ経営に就農して11年、独立して丸6年です。そらまめ50アール、オクラ7アールの野菜専門経営です。今年、歯科衛生士だった妻も就農しました。4歳と0歳の子どもに手がかかるので、妻の農作業にそれほど期待できませんが、そらまめを70アールに増やし、オクラは施設栽培で10アールに増やします。というのは、9月に播種し、収穫が11月末から4月上旬までのそらまめは粗収益がある程度安定しておりますが、オクラは台風等の強い風で実が擦れて商品化率が下がってしまいます。露地栽培では10アール当たり粗収益が20万円から50万円と振れ幅が大きすぎます。これを施設化すれば、10アール当たり粗収益の増加が期待できます。
コロナ禍の影響でしょうか、野菜の販売価格は上がらないのに、肥料など農業資材の価格が上がって、利益率が低下するのは困ります。
そらまめは連作なので、土づくりには力を入れています。そらまめ収穫後の6月に播種したソルゴーを鋤き込み、そらまめ播種前には、施肥、プラウ耕起のうえ、ロータリーを5回掛けてソルゴーが残らないようにし、土壌消毒もします。オクラは肥培管理にたいへん手間がかかりますが、アブラムシ、ヨトウガ、アザミウマなどの害虫対策には、テントウムシやヒラタアブの幼虫、寄生蜂などの天敵を活かすこともやっています。
国に言いたいのは、農政の基本は、輸出戦略よりも食料自給率の引き上げだろうということです。
オクラスター君
鹿児島県には、県産農産物のPRにもっと力を入れてほしいと思います。たとえばイチゴでは、鹿児島県の「さつまおとめ」は福岡県の「あまおう」に負けない品質です。マンゴーだって宮崎マンゴーに劣りません。どうも鹿児島県は、素牛を初め「原料農産物産地」という思いこみがあるのかもしれません。これを払拭して、「かごしまブランド」農産品の認定とその宣伝に力を入れるべきです。
農協には野菜の集荷力を高めてほしいですね。私は全量農協に出荷していますが、古くからの野菜産地であるこの地域には仲買人が多く、農家は出荷先を選べる状態です。目先の値動きに動揺します。農協はシビアな慣行栽培の栽培基準を確立し、肥培管理指導を徹底してはどうでしょうか。その基準に合格した野菜を「JAいぶすき認定野菜」として商系に流れる野菜との差別化を図るべきです。
そうしてこそ、ダンボールを飾る公式イメージキャラクター「オクラスター」君が活きるというものです。鹿児島県農業青年クラブに参加する「AGRI倶楽部指宿」の元会長としての提案です。
【取材を終えて】
「南の食料基地」の役割を担うことを自らの存在意義としているJAいぶすきならではの、たいへん意欲的な農協の取り組みをお聞きできた。繁殖和牛に加えて、畑地かんがいを装備した農地基盤に依拠して鹿児島県内最大規模の野菜産地を形成してきた地域であるだけに、新たな問題が浮上している。TPPや日米FTAによる畜産物自由化によって、規模拡大だけでなく、地域内飼料自給率の本格的な引上げによる畜産の低コスト化を求められている。また、長期の集約的野菜生産は確実に抜本的な連作障害対策を求めるようになった。そのことに危機感をもって認識されている福吉組合長のリードで、JAいぶすきが本格的な土地利用のあり方を含む農法改革、たとえば新たな輪作体系や作物の開発についての研究を組合員農家や農業試験場と協力して推進することが期待されている。(村田)
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