農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識 2017
予防が最も効率良い防除【本田防除のポイント】2017年6月10日
今年は春先にいきなり夏日が訪れたりするなど、異常気象に悩まされやしないかと心配している方も多いのではないかと思う。今は、普通期の田植えが始まり、日本中の水田に水が張られる頃で、そんな風景を思い浮かべると、今年はどうか気象被害も無く、無事に実りの秋を迎えられるよう祈るばかりである。
さて、気象はどうあれ、イネを狙う病害虫は、発生する時期や発生量が異なることはあっても毎年必ず発生してくるからやっかいだ。今はちょうど幼穂形成や必要茎数確保に大変重要な時期でもあるので、この時期の病害虫の発生状況が最終的な水稲の生育や収量に大きな影響を及ぼすことも多い。特に、大敵いもち病は、葉いもちの発生量が多いと穂いもちの発生増に結びつきやすく、被害が大きくなるので、この時期にしっかりと防除しておきたいものである。この重要な時期の病害虫防除の技術情報を整理してみたので参考にしてほしい。
※この記事は2017年に掲載した内容です。最新記事はこちらをご覧ください。
◆水稲本田に発生する病害虫
いもち病は、水稲に最も大きな被害を発生させる病害である。糸状菌(かび)が引き起こす病害で、25℃~28℃の温度と高湿度を好み、しとしと雨が長期間続くときに多く発生する。いもち病菌は、水滴がなければうまく感染することができず、病斑ができてからも、大量の胞子を飛散させるには90%以上の高湿度が必要であるなど蒸した気候が続くときに蔓延する。
水稲生育のどの段階でも発生し、おおきな被害を引き起こす。苗いもちの場合、初期生育が悪くなって収量が減ったり、葉いもちの伝染源になって病害の蔓延の原因となったりする。葉いもちの場合、たくさんの病斑に葉がやられて生育が抑制され、ひどい場合は新しい葉も出すくみ状態となり、いわゆる"ずりこみ"状態となる。この状態になると、もはや収穫も望めなくなる。穂いもちの場合、穂首や籾に病斑ができるが、穂首に病斑ができると、首から先の穂に栄養が届かなくなり、籾が入らない白穂になるし、籾に病斑ができると稔実不良となったり、着色米の原因ともなる。
いもち病の次に問題となるのが紋枯病である。この病害も糸状菌(かび)が起こすが、いもち病とは違う種類のかびである。稲の水際の茎葉部に、雲形で中央が灰白色の病斑をつくり、それから、だんだんと上部に病斑が伸びていき、止葉まで達することがある。そこまで行くと、減収の被害が出る。また、稔実が悪くなったり、茎葉が病斑によって弱まって倒伏しやすくなるので、コシヒカリなど背の高い品種は要注意である。株間の湿度が高いと発病が多くなるので、茎数が多い品種はもちろん、窒素過多による過繁茂などは発病が多くなる要因となるので注意したい。
その他、近年発生が多くなっている稲こうじ病やごま葉枯病、細菌が原因の白葉枯病や籾枯細菌病などがあるが、気候や地域によって発生状況が異なるので地域の指導機関の情報などを入手してしっかりと対策してほしい。
一方害虫では、田植え直後から発生するイネミズゾウムシやイネドロオイムシ、セジロウンカ、ヒメトビウンカ、ツマグロヨコバイなどが主な対象害虫である。
これらは、まだ幼いイネの葉を加害し、初期生育を遅らせたり、ウイルス病を媒介したりする被害をおこすが、初期の防除をきちんと行っていればそれほど怖いものではない。また、ニカメイガなど後半の発生を抑えるためにこの時期の発生量を減らしておいた方がよい害虫もあるので、特に常発地域ではこの時期の防除を確実に行っておきたい。
(表)主な水稲殺菌成分の特性一覧
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(表)主な殺虫成分と適用害虫
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◆上手な防除とは
近年は、気候変動が大きく、病害虫の発生状況が例年と異なることが多くなっており、発生に応じた防除がやりにくくなっている。特に、特別栽培米など農薬の使用回数が制限される栽培では、使用回数が制限されているが故に、突発的な発生には対応しづらい状況が続いている。そのような状況の中でも効果の上がる防除対策とはどんなものなのであろうか。
◆効果が持続する薬剤を
「出もしない病害虫の防除に農薬を使うのはナンセンスだ。病害虫が発生した時に必要な農薬を必要な量だけ散布することで過剰な農薬散布を避け、環境に配慮した効率的な防除ができる」という意見がある。
もっともな意見でもあるが、必ずしも現状に合っているとは言えない場合もある。例えば病害の場合、病斑が見つかった時にはじめて発生が確認されるが、病害には、感染してから発病するまで症状が出ない期間(潜伏期間)があるので、目の前の病斑以外にも、発病はしていないがすでに感染している可能性が高い。
つまり、病斑が見つかった時に見つかった部分だけ防除してしても、実は、隠れた病害を取りこぼしてしまうこともあり得るということだ。それで、潜伏していた病害が病斑として出現した時、再び農薬を撒かなければならなくなる。農薬の使用回数はほ場に対してカウントされるので、このような防除を行っていれば、農薬の使用回数はあっという間に回数上限に達してしまうだろう。
また、稲の表面を保護する、いわゆる保護剤を使えば新たな感染を防ぐことはできるが、既に潜伏している病害には効果がないため、防ぎきることができない場合もある。このため、効果を持続させるには、繰り返し散布しなければならないことも多く、害虫防除でも同じようなことがいえる。
ということは、病害虫が飛んで来る前に長期に効果が持続する農薬を使用しておくことが、一番少ない回数で、安定した防除効果が得られる防除法といえるのではないか。もちろん、地域単位で全く出ない病害虫には防除の必要はないが、地域で毎年発生する病害虫に対しては、年々変わる発生時期や発生量に対応するためにも、長期に持続する農薬をあらかじめ施用しておいて、防除を確実にする方がより効率的だといえないだろうか。
◆育苗箱処理剤を防除の中心にすえる
長期に効果が持続し、しかも少ない防除回数で安定した防除効果を得るためには、長期持続型の有効成分を含む育苗箱処理剤が最も適しているだろう。つまり、まだ病害虫にさらされていない育苗段階から外敵への備えを済ますことができ、しかも重要な防除時期を通して効果が期待できるので、どんな発生状況になっても十分な効果を発揮することができるだろう。このことを実現できる主な育苗箱処理剤とその有効成分の特性一覧を作成しネットに掲載したので参考にしてほしい。
◆本田散布もできるだけ予防的に散布する
箱処理剤を使用しない場合や緊急防除、空中散布では、本田散布の粒剤や豆つぶ剤、水和剤やフロアブル、粉剤などを地上部から散布することになるが、その場合でも、前述のような理由で、できるだけ適用の範囲内で病害虫が発生する前に散布するようにしたい。
また、どうしても病害虫の発生後に散布する場合は、出来るだけ発生初期の病害虫の密度が極少ないうちに散布することが重要だ。治療効果のある薬剤でも発生密度が少ない方が高い効果を発揮する。その際に耐性菌のリスクのある薬剤を使用する場合は、指導機関に確認した後に使用するようにしてほしい。
(写真)農薬の予防散布で防除の効率化を
(表)主な育苗箱処理剤とその有効成分の特性一覧
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