農薬:防除学習帖
有機防除暦2【防除学習帖】第127回2021年11月26日
前回より、ホウレンソウの有機農業防除暦の作成に挑戦しており、前回にほ場準備編として土壌消毒・有機農業編を紹介した。
今回より、は種から収穫に至るまでに必要な防除をどのような資材を選んでいくか検討していくこととし、ホウレンソウに農薬適用がある病害虫雑草を対象にして、有機農業で使用できる資材を使用した防除法を検証していきたい。
1.雑草対策
ホウレンソウは栽培期間が短いので防除しなければならない雑草は一年生雑草を対象に考えればよい。多年生雑草などは、作の間の耕起などで防除されてしまう。
一年生雑草には、イネ科雑草と広葉雑草があるが、有機栽培で使用できる除草法は、手や除草器具による物理的除草あるいは除草シートのような遮光資材の活用、太陽熱消毒・土壌還元消毒といった方法に限られるので、有機栽培は、除草作業に大きな労力が割かれることになる。
2.病害対策
ホウレンソウに農薬登録のある病害をホウレンソウの栽培において防除が必要な病害としてリストアップすると表のとおりである。その全てが糸状菌(かび)病であった。
病害の場合、発生生態(病原菌の種類や伝染方法、発生部位)の違いによって効果的な防除法が異なるので、知っておくと防除の役に立つ病原菌の生態を整理してみた。
(1)糸状菌の種類に違い
ホウレンソウの防除対象となる病害は、全て糸状菌病であるが、糸状菌にもいくつかの種類があって、子のう菌類、担子菌類、べん毛菌類、不完全菌類の4つに分類される。糸状菌の繁殖には、雌雄が登場して繁殖する完全世代と雌雄が登場することなく分生世代とがあり、病害のまん延はこの分生世代に作られる分生胞子によるものが多い。不完全菌類とは、完全世代の詳細がまだ分かっていないものを便宜上分類しており、完全世代が見つかれば子のう菌か担子菌かどちらかに分類されるものと考えられている。
糸状菌の種類のうち、べん毛菌類は感染に水の存在が大きく関与している菌で、多雨の時に発生しやすい。そのため、マルチングや雨よけ栽培などで泥はねを防ぐだけでもかなりの防除効果がある。
(2)伝染方法
空気伝染する病害は、病害のもととなる胞子が風に乗って作物に付着し、一定の条件のもと発芽・侵入して病害を起こす。病原菌が活動しやすい気象条件(温度や湿度)になったら、前年の被害残渣などで活動を開始し、胞子をつくって飛ばすようになる。その胞子が飛んで来る前に防除対策を行う、いわゆる予防防除が鉄則だ。そもそも伝染源となる被害残さをキレイさっぱりとほ場外に出しておくのが防除の第一歩であるが、それにも限界があるし、離れた場所で処分したとしても胞子が風で運ばれてほ場にやってくるものなので、常に感染のリスクがあると考えておいた方が良い。特に有機栽培に使える資材には、病原菌が侵入後に効果を示すいわゆる治療効果を示すものはほとんど無いので、徹底した予防対策が必要だ。
また、空気伝染性病害に防除効果を示すバチルス菌を成分とする生物農薬があるが、これは病原菌との養分や住処の競合によって病原菌の繁殖を抑えるので、後からやってきた病原菌がはびこる場所が皆無なくらい病原菌より先に作物体上で増殖させておく必要がある。
これが、土壌伝染の場合は様子が大きく異なる。土壌の中に存在している病原菌は、耐久体(土の中で活動に適さない時には不適な環境を耐え忍ぶ殻のようなもの)で存在することが多いので、例年発生する土壌由来の病害は予防のしようがない。このため、土壌に由来する病害は土壌消毒で対処するのが一般的だ。有機栽培で使用できる土壌消毒法は、熱を使った消毒法が主体(前回紹介)であるが、処理の簡便さと処理費用、環境対策の面から土壌還元消毒をお勧めしたい。
(3)防除に使用できる資材
有機JAS規格で使用が許されている資材は次のとおりである。それぞれが防除できる病害に違いはあるが、液状希釈もしくは粉体をホウレンソウの茎葉に向けて散布する。
コサイド3000などホウレンソウで登録のあるものも含め、野菜類登録でホウレンソウに使えそうなものを抽出した。
無機硫黄剤や無機銅は、高温時に薬害が起こる可能性が高いので、夏場での使用は十分に注意が必要だ。炭酸水素カリウムや炭酸水素ナトリウムは、予防効果はなく、治療効果のみ発揮するため、病害の小発生時に病原菌に確実に付着するように繰り返し散布する必要がある。
有機JASで使用できる防除資材のうち、バチルスと無機銅の混合剤であるエコショットや重曹と無機銅の混合剤であるジーファインは、広範囲の病害に安定した効果を発揮することから評価が高い。
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