農薬:防除学習帖
トマト病害虫雑草防除のネタ帳 子のう菌類の防除①【防除学習帖】第166回2022年9月10日
Ⅰ.子のう菌類病と防除
1. 子のう菌類の特徴
子のう菌類は、糸状菌(かび)の仲間であり、糸状菌の中では高等な菌とされている。繁殖に際して、子嚢(しのう)と呼ばれる袋の中に胞子(子嚢胞子)を作ることから子のう菌と呼ばれている。
子のう菌類は、子嚢胞子を発生させる有性世代(オスとメスが現れる世代)と、無性のままで発芽・感染力を持つ分生胞子を発生させる無性世代(不完全世代)とがある。農業現場では、前作の植物残渣などで生成された子のう胞子が放出されて第一次伝染源となり、この子のう胞子が発芽して作物に侵入し、増殖して病斑を作り、その上に大量の分生胞子を生成し、それを空気中に拡散させて蔓延していく。
一般的に、子のう菌類による病害の蔓延には、分生胞子が大きく関与している。
2.トマトに発生する子のう菌類病
トマトに発生する子のう菌類の主なものは次の3病害である。
3.子のう菌類に共通した防除の考え方
子のう菌類は、子のう盤(きのこ状のもの)に子のう胞子を生成・放出して第一次伝染を行うことが多い。
このため、まずは子のう胞子の発生好適条件が整わないようにに圃場環境を整備することが第一である。
例えば、菌核病であれば、子のう胞子の発生条件は、①15℃~21℃の適温、②湿度、③菌核の存在なので、①温度管理の実施、②圃場の湿度を下げる、③菌核を圃場に残さないよう被害残渣を圃場外に出すことが防除対策の第一弾となる。
一旦感染を許すと、多くの子のう菌は分生胞子をたくさんつくって空気伝染して蔓延していくので、発生初期の病原菌密度が低いうちに、徹底防除を行って、病斑からの分生胞子の発生を抑制することが重要になる。
Ⅱ.トマトに発生する子のう菌類病の防除
1.うどんこ病
(1)発生生態と被害
Oidium violae、Oidiopsis siculaという子のう菌類に属する糸状菌(かび)菌によって発生する。
完全寄生菌と呼ばれる植物の細胞上でないと生育できないであり、トマトの葉の表面に白色の白い分生胞子を大量につくり、うどん粉をまぶしたような病徴が発生する。
主に葉に発生し、発生量が多いと茎や果実にも発生し被害を及ぼす。
病原菌が植物体の表面を覆うように発生するため、光合成阻害や養分転流阻害などを起こし、結果として、①葉が早期に枯れあがり減収する、②果実の肥大抑制、③品質の劣化(果実への直接被害など)といった被害が発生する。
(2)生活環
耐久器官である「子のう殻」をつくる完全世代と、植物体で菌糸から分生胞子をつくる不完全世代がある。栽培の現場で目にする白いうどん粉状の病斑は、分生胞子の集合体であり、顕微鏡でみるとおびただしい数の分生胞子を確認することができる。この分生胞子は、菌糸の上に大量に次々とつくられ、それが風に乗ったり、作業者の体に付着するなどして、新しい株へと拡散していく。
(3)防除法
①耕種的防除
窒素質肥料の施用量が多い(葉色が濃い)と発生が多くなるので、施肥量を適正にする。また、下葉や枯葉など不要な葉を丁寧に取り除くとともに、作付が終了したら、病気になった株をできる限り抜き取って圃場外に出す。
残渣(罹病株)は、野焼きの可能な地域については焼却するなどして伝染源を残さないようにする。
②化学的防除
ア.発生前に予防効果主体の農薬で定期的な防除
うどんこ病が発生する時期がきたら、発病前に予防効果中心の農薬を定期的に散布し、予防的防除を主体の防除を組み立てる。その際、散布回数制限の無いクリーンカップ(微生物+銅剤)などを防除の中心にすえ、他の病害との同時防除を狙って防除すると効率的かつ効果的な防除体系が可能となる。
防除体系の基本は、発生前から予防剤を中心にローテーションを組み、発生が認められたら、発生が少ないうちに治療剤で、ほ場全体を確実に防除することである。
イ.初発確認後は早期防除を徹底する
初発を確認したら、できるだけ早期に徹底した防除を実施する。その際、治療剤は、できるだけ発生が少ない時にほ場全体をまんべんなく散布する。なぜなら、うどんこ病の場合、病斑が見え始めた時にはかなりの数の分生胞子が飛散しており、病斑が無くとも既に感染している葉や茎もある可能性が高いからで、潜伏している病原菌を治療剤の散布できちんと防除し、取りこぼしを少なくすることができるからである。
ウ.治療剤は系統の異なる農薬をローテーションで使用する
治療剤に限ったことではないが、特にうどんこ病の治療剤には耐性菌がつきやすい傾向にあるので、同一治療剤の連続散布を避け、系統の異なる農薬を輪番で使うことを厳守する。また、有効成分によっては、既に耐性菌が発生している事例があるので、地域の指導機関等に事前に確認してほしい。
以下に主なうどんこ病剤の予防・治療の区別と残効性について整理したので参考にしてほしい。
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