農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(24)【防除学習帖】 第263回2024年8月24日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っているが、そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探っている。IPM防除は、①化学的防除、②生物的防除、③物理的防除、④耕種的防除の4つの防除法を効率よく組み合わせて、作物の生産圃場を病害虫雑草が生きていきづらい環境、いわゆる病害虫雑草自身の生命活動を維持しにくい環境にすることで効率的に防除効果を発揮しようというものだ。
このため、病原菌種別や害虫種別、雑草種別に使えるIPM技術を整理すると、作物が異なっても応用しやすくなるので、現在、病害虫雑草別に主として化学的防除を除いたIPM防除法の組み立て方を検討している(化学的防除法については病害虫別に後日整理する)。
現在害虫別にその生態と防除について紹介しており、今回はバッタ目を紹介する。
1.バッタ目の種類と生態・被害
バッタ目は節足動物門、昆虫網に属し、作物を加害するバッタ目は多数あるが、実際に加害し農薬登録のある害虫は、コオロギ科のカネタタキ、ケラ科のケラ、オンブバッタ科のオンブバッタ、バッタ科のオキナワイナゴモドキ、イナゴ類がある。イナゴについては、農薬登録上はイナゴ類でまとめられているが、実際にはツマグロイナゴ、ツチイナゴ、チュウゴクハネナガイナゴ、コイナゴ、ハネナガイナゴ、コバネイナゴといったものがイネを加害する。
バッタ目は、不完全変態の代表選手みたいなもので、幼虫で6齢程度を経過して、幼虫と成虫の姿形がほぼ同じまま成虫になる。作物への加害は成虫も幼虫も作物の葉などを食べるので被害が大きい。体格の大きいほど食害量も多くなるので、できるだけ小さな幼虫の時期に防除できる方が良い。
2.バッタ目の防除対策
(1)殺虫剤の使用 [化学的防除]
バッタ目の防除では、有効な防除法が少なく、もっぱら化学的防除が中心となる。飛翔能力が高く、圃場外から飛び込んでくるので、その前に作物毎の適用農薬を予防的に散布することが重要である。体が大きくなるにつれて殺虫剤が効きにくくなるので、できるだけ害虫の身体が小さいうちに防除できるよう、発生の盛期には定期的な殺虫剤散布が必要である。その場合、抵抗性の発達を防ぐため、作用性の異なる薬剤をローテーションで使用する。
水稲の場合は、育苗箱処理でイナゴ類を防除できる殺虫剤があるので、イナゴ類の被害が大きい地域などではイナゴに効果の高い育苗箱処理剤を活用する。この場合、イナゴ類が飛び込む前にイネがガードされているのでイナゴの防除効果は高くなる。
(2)圃場周辺雑草の防除[化学的防除・耕種的防除]
バッタ目は圃場周辺の雑草などを加害しながら圃場に侵入してくることが多いので、圃場周辺の雑草防除を徹底することで、圃場への侵入数を減らすことができる。草刈機による除草[耕種的防除]や、除草剤による除草「化学的防除」を適宜使い分けて、特にバッタ目の発生盛期にほ場周辺に雑草量を減らすよう努力する。
(3)土着天敵の活用[生物的防除]
バッタ目を捕食するカマキリなどの天敵類を活用する方法がある。バッタ目を捕食する天敵を製品化した生物農薬は無いので、土着している天敵を増殖させ、バッタ目が発生している圃場に放飼するなどの方法が取られるが、いかにして天敵類を増殖させるかが防除成否の鍵である。
(4)防虫ネットの使用[物理的防除]
作物の背丈が小さく、ベタ掛け資材などが使用できる場合は活用してバッタ目の作物への加害を防ぐ。施設栽培作物の場合は、側窓や天窓に防虫ネットを設置してバッタ目の侵入を防ぐ。
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