国産小麦の高品質化に役立つ新たな育種素材開発に成功 農研機構2025年8月26日
農研機構は岩手大学と共同で、小麦粉をこねた後の生地が変色しにくい特性と、近年日本各地で発生が拡大しているコムギ縞萎縮病への抵抗性を兼ね備えた小麦の育種素材を開発した。今後の品種改良に利用されることで、小麦の安定生産と高品質な小麦粉の供給に貢献する。
小麦粉をこねた後に時間がたつと、生地が茶色に変色することがある。これは小麦に含まれるポリフェノールオキシダーゼ(PPO)という酵素の働きによるもので、生地の変色はパンや麺の見た目を損ねるため、品種改良では従来から「生地が変色しにくい」小麦が選ばれてきた。
PPO遺伝子は複数個存在し、それぞれに活性(働きの強さ)が異なるタイプが存在。これらの遺伝子のタイプを簡易に判別する手法がなく、品種改良に時間を要していた。
一方で、小麦には「コムギ縞萎縮病」という病気があり、原因となるウイルスは土壌中の微生物を介して広がり、近年日本各地で発生が拡大している。「コムギ縞萎縮病」は、一度発生すると薬剤での防除が極めて困難なことから、主要な対策は抵抗性品種の利用になるが、これまでの「コムギ縞萎縮病」抵抗性品種は、PPO活性が高い(生地が変色しやすい)タイプの遺伝子を持つという問題があった。
図:PPO活性の評価(PPO活性が高いほど検査試薬で濃く染まる)
そこで農研機構は、保有する遺伝資源の中から、今までよりPPO活性がさらに低く生地が変色しにくい遺伝子のタイプを発見。さらに、専用のDNAマーカーを設計し、PCR法を用いて生地が変色しにくい遺伝子のタイプを正確に選抜できるようにした。
この発見と技術を利用して、「コムギ縞萎縮病」に強く、かつ、今まで以上に「生地が変色しにくい」小麦育種素材(コムギ縞萎縮病抵抗性PPO欠失系統)の開発に成功。同育種素材を交配親として用いて品種改良する場合、専用のDNAマーカーを用いることで、この特性を簡単に選抜することができる。
同成果のコムギ縞萎縮病抵抗性PPO欠失系統は、これまで日本に存在しなかった遺伝子の組み合わせを持つ育種素材。同成果本系統を利用することで今後、「生地が変色しにくく」かつ「コムギ縞萎縮病に強い」特性を持つ優良な小麦新品種の開発が進むとともに、国産小麦の安定生産と利用拡大への貢献が期待される。
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