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真のセーフティネットとは何か2018年2月8日

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【鈴木宣弘・東京大学教授】

・改定農業災害補償法をめぐる論点再論

 本コラムで、前々回、農業競争力強化支援法の参考人質疑を取り上げた。その続編として、今回は「改定農業災害補償法」をめぐる議論を振り返ってみたい。
 2018年から米の直接支払交付金(戸別所得補償)が廃止される一方で収入保険が導入される。筆者は、収入保険の導入に至るまでのセーフティネットをめぐる紆余曲折の政策議論、特に、民主党政権時に戸別所得補償制度が導入される前後の議論に中心的に関わってきた。その観点から、収入保険導入に関する「改定農業災害補償法」の2017年の衆議院の参考人質疑で感じたのは、セーフティネットをめぐる政策形成の経緯を踏まえた本質的な議論が十分だったかということである。

◆収入保険は「岩盤」ではない

 我々は、戦後農政の大転換と謳われた07年の品目横断的経営安定対策の導入に始まり、09年の石破農水大臣による農政改革提案、09年の民主党政権による戸別所得補償制度、13年以降の戸別所得補償の廃止と収入保険の導入への流れ、という農業経営のセーフティネットをめぐる政策形成の経緯を振り返っておく必要がある。
 端的に言えば、今回導入される収入保険は所得の「岩盤」(所得の下支え)としてのセーフティネットではない。5年間の平均収入(5中5)より下がった分の一部が補填されるという仕組みでは、基準収入が減り続ける「底なし沼」になる。傾向的に価格が下落する局面では、例えば「これから5年間の平均米価が1俵1万円になったら1万円より下がったら差額の81%は補填します、さらに次の5年は平均9,000円になったら9,000円との差額の81%は補填しますから大丈夫」と言われても、誰もつくれなくなっていくだろう。
 つまり、新たに導入される収入保険は、岩盤政策であった戸別所得補償の廃止に対する代替措置にはならない。09年に戸別所得補償が実現したのは、収入変動を緩和する『ナラシ』対策には岩盤がないから、所得がどこまで下がるかわからず経営計画が立てられない、という現場の切実な声を受けてのことである。それをやめてしまって、簡単にいえば、ナラシの5中3(過去5年の最高と最低を除く3年の平均収入が基準)が5中5になっただけの収入保険を代わりに追加しても、「底なし沼」が二つ並ぶだけで岩盤は消えたまま、「元の木阿弥」である。岩盤を求める現場の切実な声に基づいた政策形成の経緯は何だったのか、これで現場が納得できるのか、ということである。
 例えば、特に、コメについて傾向的な米価下落が懸念される。我々の試算では、戸別所得補償制度を段階的に廃止し、ナラシor収入保険のみを残し、生産調整を緩和していくという農政が実施された場合、2030年頃には、1俵で9,900円程度の米価で約600万トンでコメの需給が均衡する。ナラシを受けても米価は10,200円程度で、15ha以上層の生産コストがやっと賄える程度にしかならない。貿易自由化の影響は算入していないので、実際には、さらに深刻な米価下落が継続する可能性がある。
 米国の仕組みを参考にしたと言うが、米国が、不足払い(PLC)または収入補償(ARC)の選択による生産費水準を補償する強固な岩盤を用意した上で、年々の収入変動をならす収入保険も入りたい人は入ってね、と+αで収入保険を準備しているのに対して、我が国では、米国におけるようなメインの岩盤は逆に廃止し、+αの部分のみにして、これを米国の仕組みに近いかのように説明するのは極めてミスリーディングである。米国で同種の経営単位の収入保険(WFRP)の加入農家は1,000戸程度にとどまっている。
農家の切実な声で実現した「岩盤」の経緯を忘れてはならない~政策は現場の声が創る

 民主党政権の後を受けた現自公政権では、岩盤政策として導入された戸別所得補償を廃止して、収入変動をならす「ナラシ」対策のみに戻し、それを収入保険の形にしていこうという政策の流れを打ち出した。民主党政権時に導入されたものをすべて白紙に戻す、つまり、前の自公政権の2007年の政策に戻すものだが、「ナラシ」だけでは所得下落の歯止めにならないとの現場の切実な声が戸別所得補償に結実したことを忘れてはならない
 岩盤の議論を振り返ると、まず、2007年に導入されたナラシ対策に対して、(1)対象を一定規模以上に限定したことと、(2)5中3(過去5年の最高と最低を除く3年平均)では経営所得の補填基準が趨勢的な米価下落とともに下がってしまい、所得下落に歯止めがかからず経営展望が開けない、という現場の不満に応えるべく、前回の自公政権においても、(2)「担い手」を対象とする「ナラシ」は維持し、(3)「ナラシ」に加えて、全販売農家に対する生産費との差額を補填する岩盤を追加する、ことが提案されたが、実現の前に政権が交代した。

 

◆戸別所得補償よりも強固だった前自公政権の提案した岩盤対策

 そして、民主党への政権交代と同時に「戸別所得補償制度」によって岩盤が具体化した。ただし、それは、固定支払いと変動支払いの組み合わせ、具体的には、平均コスト13,700円と平均販売価格12,000円との差額(固定支払い)と基準価格(過去3年の平均販売価格)と当該年の米価との差額(変動支払い)の組合せであり、米価下落が続くと、両者に「隙間」が生じるので、実は13,700円が岩盤にはなっていなかったため、のちに基準価格の固定が行われた。
 その点で、注目すべきは、前回の自公政権でベストの選択肢として示された提案は、完全に生産費を補填するもので、政権交代後の当初の戸別所得補償よりも強固なセーフティネットだったことである。
 提案書に曰く、「いわゆる品目横断的対策は、補てん基準が5中3平均の価格であることから、米価が年々下落する局面では基準自体が下がり、補填額も徐々に減っていくこととなる。他方、新たな米価下落対策は、生産費を確保できる補填水準が維持されることで、中長期的な経営の安定化を図ることが可能となる。さらに、米の場合には、中・小規模農家の占める割合(担い手以外の販売農家による作付が全体の約4割)が大きいため、担い手だけでなく、それ以外の販売農家も対象にする対策とすることで、生産調整に関する不公平感を解消する上で十分な効果が期待できる。」

 

◆農業災害補償を弱体化してはならない

 もう一つの懸念がある。導入される収入保険の加入範囲が青色申告実施者に限定される中で、米麦では「当然加入」であった農業共済が、収入保険との選択性になることで、収入保険にも入らないが、災害補償の農業共済からも抜けるという「無保険農家」が増加しかねない。特に、基幹農産物の災害補償は、広くあまねく行き渡ることが不可欠であり、だからこそ、農家が自主的な相互扶助により、全員参加で基金をつくり、推進や損害評価も自分たちのボランティアで行うという、まさに「共済」が成立した。これは、実は、非常に安い費用で災害補償を実現し、農村コミュニティの持続性にも大いに貢献している。また、被害を未然に防止するための病虫害防除などの幅広いリスク・マネジメント活動も展開されている。こうした相互扶助の共済を、簡素化すれば効率化されると短絡的に考えるのは間違いである
 確かに、地域での人手不足で、従来のような体制が取り難くなっている側面もあるが、だからといって、すぐに評価体系を簡素化するのではなく、一筆方式は維持しつつ、人手不足をドローンによる調査で代替するといったように、最新技術の活用で評価手法を効率化して農家へのサービスは低下させない方向性も、もっと追及すべきである
 短絡的な簡素化の追及でなく、地域コミュニティの持続的発展に不可欠な相互扶助の共済の重要性を理解し、全員参加型できめ細かなニーズに低廉な費用で対応できる農家自らの仕組みが壊されないように、その維持のための最大限の政策的誘導策をセットにする必要があるだろう。

 

◆日本の農政は世界に逆行していないか

 日本の農業は世界で最も過保護であると日本国民は長らく刷り込まれてしまっているが、実態はまったくの逆である。世界で最もセーフティネットが欠如しているのが日本といっても過言ではない。
 欧州の主要国では農業所得の90~100%が政府からの補助金で、米国では農業生産額に占める農業予算の割合が75%を超える。日本は両指標とも30%台で、先進国で最低水準にある。しかも、欧米諸国は所得の岩盤政策を強化しているのに、我が国はそれを一層手薄にしようとしている。
 欧米では、命と環境と地域と国境を守る産業を国民全体で支えるのが当たり前なのである。農業政策は農家保護政策ではない。国民の安全保障政策なのだという認識を今こそ確立し、「戸別所得補償」型の政策を、例えば「食料安保確立助成」のように、国民にわかりやすい名称で再構築すべきではないだろうか。

 

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

鈴木宣弘・東京大学教授のコラム【食料・農業問題 本質と裏側】

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