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【小松泰信・地方の眼力】「髙木報告」って、ホンマでっか!?2017年7月19日

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【小松 泰信 (岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

 元祖改革派の元農水事務次官髙木勇樹氏は、日本経済調査協議会の「食料産業調査研究委員会」の委員長として、『日本農業の20年後を問う~新たな食料産業の構築に向けて~』(2017年5月)をとりまとめた(以下、「髙木報告」と略す)。主査は、規制改革推進会議委員でもある本間正義氏である。

◆髙木報告の問題意識と枠組み

 髙木報告は、問題意識、7提言(提言1.フロンティアの支援を基本とする農業政策、提言2.国内流通制度の抜本的改革、提言3.食品産業および他産業との一体化した連携、提言4.海外市場での積極的なビジネス展開、提言5.農業食料高等教育の改革、提言6.農の魅力をサービス産業に活かす、提言7.関税に依存しない日本農業の確立)、そして総括で構成されている。
 本報告の根底にある問題意識は、「経済のグローバル化は、紆余曲折はあるにせよ、今後も進展していく。グローバル化の進展を考えた時、将来的には関税に頼ることのない日本の農業を想定すべきである。関税に頼らない農業とは、国内と海外市場が連結すること、すなわち輸出である。20年後にむけて考えるべき第一の視点は、平均値農政から脱却し、フロンティアを広げる農政である。フロンティアは、流通・加工、最終消費までを含むコンセプトとして、今後の農政の基本。20年後の日本農業を考える多くの議論において欠如しているのは危機感である。農家戸数は経営体でみて、この20年間で平均して毎年約6万の農家・経営体が農業を辞めている。このままでいけば、20年後には10万を切る経営体しか残らない。経営体当たり1億円の生産額があれば、10万経営体で10兆円の農業生産を維持できる。問題は、そのような構造に到達するための徹底した構造改革」と、要約される。
 グローバル化、輸出、1億円規模の10万経営体、それをめざした徹底した構造改革、といったところがキーワードである。
 7提言のうち特に検討しておかねばならないのが、提言1と7である。

◆〝提言1.フロンティアの支援を基本とする農業政策〟は小規模家族経営切り捨て政策

 提言の土台は、「日本農業の成長は皆が手を携えて仲良く歩を進めるものではない。必要なのはイノベーション。イノベーションはフロンティアからしか生まれない。フロンティアに立つ農業者と、フロンティアに立とうとしている農業者・企業の活躍の場を広げなければならない」という考えにある。なお、農業者の後に企業が来ているところにご用心。
 能力発揮を阻害する要因の1つに〝コメの減反政策〟をあげ、「飼料用のコメ生産に手厚い補助金」を与えることは実質的な生産調整であるがゆえに、「早急に撤廃すべき」と迫る。
 もう1つが農地制度。「農地法は戦後の農地改革の成果を守るため制定され、経済的視点からの法体系になっていない」が故に、「農地所有者および利用者の権利を守ることに主眼が置かれ、...農外からの新規参入には厳しい規制がかけられ、農地の流動化を阻害する要因」とする。そして、農外企業が単独では農地を取得し農業経営ができないだけでなく、出資制限による大規模化や多様な6次産業化の制約となっている、と指摘する。
 解消策として、「農地法は撤廃し、農地の管理や転用規制は地域の土地管理委員会のような審議会に任せ...。その上で、農地指定をうけた土地ではだれでも自由に農地の取得と利用を可能とし、...農地に最適な投資がおこなわれるような制度に転換すべき」とする。ただし、「農地の所有は自由であるが、その利用にあっては効率的利用がなされていない場合、...実質的に課税を強化」することで、適正な農地利用を実現させることを提言している。これは、耕作放棄地を強く意識したものである。
 フロンティアなるところに存在するものだけを支援し、小規模家族経営を邪魔者扱いにすることが、どういう経路で「日本農業全体の底上げ」に通じるのか、理解に苦しむところである。

◆〝提言7.関税に依存しない日本農業の確立〟は、ノーガードの戦いへの能天気な誘い

 「農と食のフロンティアの拡大を成長の基本とするならば、守りの農政はやめなければならない。守りの農政の典型は国境保護措置である」と断ずる。そしてこの間を、「日本の農家が関税削減・撤廃におののいてきた20年」と位置づける。今後も貿易交渉で関税削減が求められるが、それにおびえ続けるのではなく、「収入保険などセーフティネットを整備しつつ、日本が今後の国際交渉で農産物関税の撤廃を宣言し、そのもとで交渉を行い、非関税障壁ともいわれる動植物検疫の共通化などでリーダーシップを発揮し、農産物輸出の拡大の道を開くことを前提に日本農業の姿を描く...。関税撤廃を武器にし、相手国の輸入制限を撤廃する。...国内的にも目標を示すことで、それぞれの生産者に20年後、関税なしでどのように戦うのか、経営のグランドデザインを描いてもらう...。撤退する者、新規参入を図るもの、農家同士あるいは企業と農家のコラボなど、これからの戦いに生き抜く戦略を関税なしの世界で構築する戦略を練ることを今始めなくてはならない」と、いたく昂揚した筆致でノーガードの戦いと、それに耐えられる強靱な日本農業づくりを提言している。
 国家間の交渉ごとに楽観論は禁物。そして、国民への安定した食料供給の視点の欠如。無責任な提言といわざるを得ない。

◆〝総括:食料産業の構築に向けた国家の役割〟では国家の役割を果たせない

 最後に、農林水産省の抜本的な改変を提起している。最大の理由は、「兼業を含む小規模農家をも政策対象」とし、「生産現場の目線からしか農業をとらえてこなかった」ことである。今後は、〝消費者主権〟に基づく政策の実行者となり、社会政策と産業政策を混同しないために、「産業政策に徹せよ」とする。産業政策としては、「フロンティアの支援に尽きる」とまで言い切る。ここに、〝全体の奉仕者〟としての公務員像はない。元農水事務次官を委員長とする報告書とは思えないが、ホンマでっか?
 さらに、基礎代謝すら自給できない国であることを忘れ、「食料自給率を上げることが目的化してしまうのは本末転倒」とし、国民の食料安全保障への不安を払拭するために、「総合的な国家安全保障の枠組みの中で食料の安全保障を位置付けて方針を確立すべき」とする。要は、農水省には産業政策それ以外のことには責任を負わせないでくれ、という姿勢である。
 第一次産業と他産業との決定的な違いは、地域社会、それも基層領域との密接不可分の関係性にある。社会政策と産業政策が混同している、との批判がされているが、それは混同ではなく一体的総合的な政策遂行と理解すべきである。産業政策に徹するべきではない。社会政策の分離・放棄は、国家の役割の放棄である。
 「フロンティアで何が起こっているのか、フロンティアでは何を必要としているのか、謙虚に現場の声を聴き、真に必要な支援を見極める能力と判断力を持たねばならない」との指摘がされている。今夏の九州北部豪雨被災地こそ、重大なフロンティアに立ちすくんでいる。本間主査は、被災地と同じ県内の大学で勤務しておられるようだ。復旧、復興のためにその知恵が求められることがあるだろう。その時には、謙虚に現場の声を聴き、真に必要な支援を見極める能力や判断力を発揮していただきたい。
 なお、ショック・ドクトリン(火事場泥棒資本主義)的な、下品な政策提案は御法度であることをお忘れ無く。
 「地方の眼力」なめんなよ

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