お年寄りへの賛歌2018年1月9日
新年、明けましておめでとうございます。
今年こそ、お年寄りを大事にする政治を行ってほしいものである。残念なことに、昨年まではお年寄りを邪魔者にするような政治が罷り通っていた。
昨年の大きな出来事は、なんといっても、秋の衆議院解散と総選挙だった。この解散は、大義なき解散と批判されたが、安倍晋三首相は、国難を突破するための解散だ、といった。首相がいう国難とは、1つは北朝鮮の脅威で、もう1つは少子高齢化だという。少子化だけならともかく、高齢化が国難だといった。いよいよお年寄りは国難を招くものとして、首相から糾弾されてしまった。お年寄りが多くなり、介護費用などが嵩み、国家財政が破綻しかねない、というわけである。
農業でも同じように、お年寄りが政治から虐げられている。お年寄りが多いから、生産効率が低くなってしまう。だから早く引退せよ、というわけである。
こうした暴言を聞き逃すことはできない。
上の表は、高齢者の働きぶりを見たものである。
表の3行目で右から2列目に赤字で書いた52%に注目しよう。これは全農業就業者のうち52%もの多くの人が、65歳以上の高齢者であることを示している。つまり、農業の高齢化である。農業以外にこれほど高齢者の比率が高い産業はない。このことを確認したいために、大きな表にした。
もう1つ指摘したい数字がある。それは、表の同じ3行目で左から6列目に赤字で書いた14%である。これは農業が日本全体の高齢就業者のうち14%もの多くの人を受け入れてことを表している。1%産業といわれる農業が、14%もの多くの高齢就業者を受け入れているのである。75歳以上の後期高齢者でみると、同じ行の8列目の赤字で示したように、農業は日本全体の後期高齢者の就業者の、実に26%もの多くの人を受け入れている。
◇
上で示したことは、農業が日本の社会全体の高齢者の多くを受け入れていることである。そして、その結果、農業が高齢化していることである。
このことを、社会全体でみて、どう評価すればいいか。
1つの考えは、高齢者は生産効率が低いから、高齢者が働くことは社会全体の生産効率を下げる、という考えである。だから、その結果、競争力が弱くなる、という考えになる。そして、高齢者は早く引退せよ、という主張になる。
このように考えて、高齢者が働くことを誹謗し、また、農業はそのことに加担している、と言って非難する。
この考えが、首相とその周辺にいる市場原理主義者の考えである。
◇
いったい、高齢者が働くことは非難されるべきことか。そうではない。称賛されるべきことで、非難されることではない。これが、もう1つの考えである。
なる程、高齢者は体力が衰えるから生産効率は低くなるかもしれない。しかし、知力は体力ほどには衰えない。農村だけでなく、矍鑠とした高齢者は多い。まだまだ働ける。
◇
問題は、まだまだ働ける高齢者を、社会が生産活動から疎外していることにある。先頭に立って疎外しているのが、首相とその周辺にいる市場原理主義者である。
これは、彼らの心が冷酷だからではない。日本の資本主義経済の弱さである。高齢者も働く場があり、若い人たちから称賛される、というほどに強くないからである。だから、高齢者に対して冷酷に対処せざるを得ない。
しかし農業は違う。高齢者を疎外するどころか、高齢者を温かく迎え入れる。それだけの力がある。そうして、老若男女のみんなが心を合わせて食糧安保のために懸命に働いている。高齢者は国難を招くどころか、食糧安保の危機という国難に立ち向かっている。
◇
これは農村共同体の強さである。その土台になっている協同組合経済の強さである。そして、衰えた資本主義経済の弱さである。この2つの経済が、高齢者をめぐって、農村でも鋭く対峙している。
ここにこそ農業問題の根源がある。農業問題は、農業の雇用問題である。そして、それにとどまらない。日本全体の雇用問題である。つまり、高齢者をはじめ、多くの労働者を社会全体が受け入れられない、という問題である。だから、農業が受け入れている、という問題なのである。この社会全体の雇用問題が解決しない限り、農業問題の解決はない。このことを上の表は示している。
上の表で示した農業の雇用問題の実態にこそ、日本の社会問題の広さと深さの根源がある。
◇
このことを、首相とその周辺にいる市場原理主義者は理解できない。そして理解しようとしない。農業問題の根本には農業の雇用問題がある。それが日本全体の雇用問題の基底になっている。そして、それが土台になって日本の「国のかたち」を作っている。
こうしたことを真剣に考えない政治が原因になって、退廃と異臭が日本社会の全体を覆っている。
これらを理解しない政治家に、農政を任せるわけにはいかない。
今年も、農村のお年寄りが先頭に立ち、こうした政治家に対して、反省を求めることを期待したい。
(2018.01.09)
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