酪農版自由貿易論の悪夢2018年2月5日
バター不足が常態化している。スーパー店からバターが消えることが珍しくない。そのつど政府は緊急輸入をするのだが、やがて、また不足する。このように緊急輸入が常態化している。
需要が急増したのが原因か。そうではない。需要が急増している事実はない。下の図をぼんやり見ていると、国内生産量が減ったから、その分だけ輸入量が増え、ようやく需要を満たしているように見える。
しかし、そのように見えるのは、ぼんやりと見ているからである。というよりも、逆立ちした見方で見ているからである。
真実に即した正しい見方で見れば、輸入量が増えた、などという自然現象のような事態ではないし、無責任な事態でもない。政治が輸入量を増やしたのである。そして、政治が輸入量を増やした分だけ、政治が国内生産量を減らしたのである。これは政治が招いた結果である。だから、政治に責任がある。
こうした政治を今後も続ければ、日本の飲用乳やバターなどの酪農製品は、全面的に外国に依存することになる。つまり、いまの貿易自由化の政治を続ければ、日本の酪農を弱体化し、その結果、食糧安保を、いま以上に危機的な状態に陥れることになる。そんな悪夢は見たくない。

上の図は、1960年から2016年までの酪農製品の国内生産量と輸入量を示したものである。輸入乳製品は生乳に換算した。
1996年までは、需要が増え、それにしたがって国内生産量も増えたし、輸入量も増えた。
しかし、国内生産量は20年前の1996年度の866万tをピークにして減り続け、2016年には735万tにまで減った。128万t減ったのである。
これは需要が減ったからではない。需要はこの20年間で1207万tから1190万tになった。つまり、ほとんど同じだった。
一方、輸入量をみると、この20年間で342万tから455万tにまで増やした。113万t増やしたのである。そして、輸入を増やした分だけ、国内生産を減らした。この結果、自給率でみると、72%から62%にまで下げた。
この図からは、こうした事態が止まったようには見えない。こうした事態にした政治が変わらないからである。
◇
この事態をどのように評価するか。評価は賛否の2つに分かれる。
1つは、この事態を是認する評価である。だから、この事態を今後も続けようとする。そうして、TPPや日欧EPAなどによって、輸入自由化の政策を続けようとする。
この政策は、競争を至上原理とする市場原理主義に基づくものである。この政策が続くかぎり、日本の酪農は衰退する。そして、これまで構造政策の優等生といわれてきた酪農家たちを、さらに大きな苦難に陥れる。
また、この政策を続ければ、国民の食生活のなかで重要な地位を占める酪農製品の供給を、さらに深く外国に依存することになる。そして、供給が不安定になり、しかも、それを政治が制御できなくなる。
このままでは、日本の酪農は壊滅するだろう。その結果、低所得の経済的弱者は、国産牛乳は飲めなくなるだろう。それに代わり、輸入したバターと、輸入した脱脂粉乳を、水のなかに入れてかき混ぜた加工乳を飲むしかない。水だけが国産という牛乳まがいのものである。
◇
このような事態を避けるために、その原因であるこれまでの政策を否定するのが、もう1つの評価である。
この評価は、市場原理主義の否定に基づいている。つまり、国内市場での、および国際市場での競争原理よりも上位に、日本の酪農振興と、日本の食糧主権の確保を置く考えである。
酪農家だけでなく、また、大多数の農業者だけでなく、多くの国民は、この考えを支持している。そうして、規制改革会議を隠れ蓑にした、市場原理主義による、いまの酪農政策を否定している。
(2018.02.05)
(前回 第2保守党の媚態)
(前々回 オレファーストの醜い面々)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(169)食料・農業・農村基本計画(11)世界の食料輸出市場と主要輸出国の動向2025年11月22日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(86)無機化合物(求電子剤・銅)【防除学習帖】第325回2025年11月22日 -
農薬の正しい使い方(59)生態に合わせた害虫防除の考え方【今さら聞けない営農情報】第325回2025年11月22日 -
【特殊報】チュウゴクアミガサハゴロモ 府内のミカン園などで初確認 京都府2025年11月21日 -
【浜矩子が斬る! 日本経済】経済統計は見方と使い方が肝要 国富の中の格差に目を2025年11月21日 -
農業法人「奥松農園くにさき」が破産 負債5.5億円 補助金事業の施設に海水侵入2025年11月21日 -
国産米重視が83.4%「2025年お米についてのアンケート調査」日本生協連2025年11月21日 -
シャインマスカット苗の「違法販売」防げ 注意喚起、商品削除...農水省とフリマ業者、対策に注力2025年11月21日 -
AI×アジャイルでアプリ開発 JAグループ若手が成果発表「Nexus Craft Lab 2025」2025年11月21日 -
(462)穀物が育んだ人類の知恵【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年11月21日 -
JA常陸「茨城県産 笠間の栗」予約販売中 JAタウン2025年11月21日 -
濃厚な甘さとフレッシュな果汁「国産温州みかんフェア」21日から開催 JA全農2025年11月21日 -
食べて知って東北応援「東北6県食材フェア」22日から開催 JA全農2025年11月21日 -
百名店監修みやぎ米レシピを提供 デリッシュキッチン・食べログとコラボ JAグループ宮城2025年11月21日 -
若手職員がキャリア自律を考える「3県合同キャリアワークショップ」開催 JA愛知信連2025年11月21日 -
JA三井リース ベイシア前橋みなみモール店のオンサイトPPA事業者として参画2025年11月21日 -
農林水産業の持続的発展へ金融・非金融で支援 サステナブル・ファイナンスは10兆円超 農林中金2025年11月21日 -
「乾田直播栽培技術標準作業手順書」新たな地域版6編を公開 農研機構2025年11月21日 -
「えひめ・まつやま産業まつり-すごいもの博 2025-」出展 井関農機2025年11月21日 -
半導体用プロセスケミカル企業AUECC社 買収に合意 住友化学2025年11月21日


































