【小松泰信・地方の眼力】公序破壊政権は公助も壊す2018年7月11日
7月5日夜9時半、JR岡山駅の構内アナウンスは、大雨の影響による在来線の一部運休を伝えていた。一晩中、晴れの国岡山に雨は降り続いた。6日岡山県にも初めて、「大雨特別警報」が発令され、土砂災害の発生に最大級の警戒が呼び掛けられた。地元紙山陽新聞の7日朝刊は、オウム関連記事に紙面の多くを割きつつも、県内各所で土砂崩れ、橋の流失、家屋浸水といった被害が発生していることを伝えた。そして、8日の朝刊一面には、屋根近くまで冠水した倉敷市真備町地区の住宅の写真。
◆筆致際立つ福井新聞
10日の新聞各紙の多くが社説・論説等で今回の豪雨被害を取り上げている。筆致が際立っているのが福井新聞である。
「特に、国の非常災害対策本部が設置されたのは8日と遅きに失した感が否めない。5日夕には国を挙げて早期避難を呼び掛けるべきだったのではないか。安倍晋三首相はそのころ、自民党議員らとの飲み会に出席していたという。気象庁と官邸が危機感を共有していたのか、甚だ疑わしい」と、ズバリの指摘。気象庁が5日午後に緊急記者会見まで開き、「記録的な大雨になる恐れがある」と警戒を呼びかける、異例ともいえる対応をしていたにもかかわらず、首相と自民党幹部らは議員宿舎で「赤坂自民亭」という懇親会に参加していた。楽しげな様子が参加者によってツイッターに投稿されている。そこには、自衛隊の災害派遣要請を受けるはずの小野寺五典防衛相や、オウム真理教元代表ら7名の死刑執行を翌朝に控える上川陽子法相までが映っている。首相はご機嫌のご様子で、9時38分に官邸ではなく私邸へのご帰還。
その首相が7日の関係閣僚会議で「先手先手で被害の拡大防止に万全を期してほしい」と述べたことに対して、「既に後手に回っていたのではないか、国会でも問われよう」と追及の手を緩めない。そして、岡山県倉敷市真備町で氾濫した河川は、以前から危険が指摘され改修計画が持ち上がっていたことにも言及し、「1基1千億円もする防衛装備の前に、国土の強靱化こそが求められていることを政府は肝に銘じるべきだ」と、見事な斬れ味。
最後に、「福井県内でも越前町などで被害が発生、早期復旧が待たれる。......県民は2月に豪雪に遭ったばかりで、災害の怖さは身にしみて感じている。大阪北部で起きた震度6弱の地震被害の記憶も新しい。豪雨をはじめ天災は、いつ、どこでも起こり得る、を改めて心に刻み、備えたい」と締める。
◆ライフラインの早期復旧を求める山陽新聞と中国新聞
山陽新聞は「被害の甚大な地域に関心が集まりがちだが、各地で農作物に被害が出たり、浸水で機械などが被害を受けた事業者も出たりしている。通勤・通学の足である鉄道も一部で不通となり、道路が寸断されて物流網にも支障が生じたことで、一部の店舗では品薄も起きているようだ。......今回も災害の爪痕は深く、元の生活を取り戻すには時間がかかろう。物心両面で息の長い支援が欠かせない」と、農作物や事業者の被害、そして交通インフラの毀損を取り上げている。
中国新聞も、「とりわけショックだったのは、JR山陽線と国道2号、山陽自動車道という広島県の東西を貫く三つの大動脈が同時に寸断されたことだ。ほとんど想定していなかった事態といえるだろう。国道2号や山陽線だけではなく、呉線や芸備線も全面復旧までに相当時間がかかる見通しという。長期化すれば、通勤通学といった市民生活だけでなく、地域の経済活動にも深刻な影響を与えかねない。市民はもちろん、中小企業などの動向にも目配りする必要がある」として、国が国庫補助率をかさ上げする激甚災害に指定する方針を固めたことを受けて、自治体としっかり連携し、ライフラインの一刻も早い普及を国に求めている。
◆まだまだ広がる農業被害
極めて広範囲に甚大な被害を及ぼした今回の豪雨、当然農業が受けるダメージは大きい。
日本農業新聞・論説は、今回の豪雨を「人知を超えた災害」と位置づけ、「国会も審議を一時休止してでも、被害対応を最優先すべきである」と一般紙には見られぬ指摘で始まる。農業被害も広がっていることから、「被害調査を迅速に行うとともに、被災農家の生活や営農再開に向けた支援を万全にする必要がある」として、JAグループの支援に期待を寄せいている。
また、「今回は局所的ではなく広範に及んでおり、水害へのもろさを露呈した」ことから、「特別会計を含めた予算全体を見直し、全国の河川の整備と復旧に割くべき」と、政府に要求している。
山陽新聞(11日)によれば、斎藤健農相が10日の閣議後の記者会見で、農林水産関連の被害額が72億円になったこと、しかし被害の把握は一部にとどまっており、金額が「まだまだ大きくなる」との見方を示したそうである。
中国新聞(11日)には、「ブドウ園には影響はなかった」が、物流網の寸断で配送が難しい状態が続いており、「生ものなので、いつ着くか分からないのは困る。中元用の需要が多いので、早く復旧してほしい」という、三次ピオーネ生産組合長石田博人氏の願いが紹介されている。
◆共助・自助への期待は公助の破壊を招く
信濃毎日新聞は、「住民自身が身近な危険に目を向けていくことも重要だ。今回、広島では崩れるような音が響く裏山の異変に気付いて親族の家に身を寄せ、難を逃れたケースがあった。同じ集落の住宅でも、地形によって危険性には違いがある。少しでも安全度の高い一時的な避難先を近くに確保する」といった、地域住民の目線に基づいた対策が必要とする。
河北新報は、昨年の九州北部豪雨で大きな被害が出た福岡県朝倉市で、「川に近い家が浸水しそうになったら避難する」という独自のルールを事前に決めていた集落では、一人も犠牲にならなかったこと。群馬県みなかみ町のある地区では、過去の教訓から、沢で石が転がる音などに気付いた際は区長に連絡し、異変情報が3件集まれば地区全員で避難するという独自ルールを設けていること。これらを紹介し、「住民は意識を高める必要がある。自らの判断で被災を防ぐように動く。地域が一体となって災害防止に備える」、この自助と共助が命を守ることにつながることを強調している。
気象庁が緊急記者会見を開いた5日の日本農業新聞・論説は、九州北部豪雨から1年を迎えたことを受け、「常日頃から命を守る対策を徹底しよう」と呼びかけた。政府の「防災白書」が、災害の発生に備えて「自助」と「共助」による事前防災の必要性を強調したこと。内閣府が、住民主体の「共助」による「防災」の取り組みとして、コミュニティー単位で連携できるよう「地区防災計画」の策定を推進していること。これらから、住民主体の「自助」「共助」の重要性を強調している。
「自助」「共助」の必要性を否定はしない。しかしその動きの活発化を良いことに、「公助」から手を引きかねないのが現政権であることを肝に銘じておかねばならない。さもなくば、公助は必ず壊される。
「地方の眼力」なめんなよ
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