【森島 賢・正義派の農政論】野党の統計問題にのぞむ姿勢2019年3月11日
国会では野党が、あいかわらず労働統計の不正問題で、政府を激しく追及している。だが、弱者にとって何が問題なのか分からない。誰が法令に違反して不正を行っているか、という犯人捜しのようにみえる。
国会が議論すべきことはそうではないだろう。国会では、自分たちが作った法律の何が問題なのか、という本質問題を議論すべきである。そうして、適切に施行しているか。
だが、そうしていない。法律と法令を遵守しない政府を攻撃し、誰がその犯人かを、正義の味方のようにして追及するだけだ。
正義の追及は大事なことだ。しかし、それは司法に任せておけばいい。国会の使命は、ことに弱者の味方を名乗る野党の使命は、法律の何が弱者にとって問題かを議論して、法律を改正することである。
いま、弱者にとって重大な関心事は、格差の拡大である。これは、日本社会にとって最重要な問題である。世界経済の根本問題でもある。このことに、いま国会で議論している統計は、密接にかかわっている。
強者たちは、格差という不都合な事実を隠そうとしている。だから、格差が露わになる統計は作りたくないし、露わになる統計を公表したくない、と考えている。これが本質問題である。
このことを国会で追及することが、野党の役割である。格差の拡大を、統計の裏付けのもとで、暴露することである。そのために、統計法がどのように歪められているか、を暴き出すことである。
だが、そうしていない。犯人さがしに明け暮れている。
◇
農林統計をみてみよう。
かつて農林統計は、総ての農家を調査の対象にしていた。しかし、今は違う。小規模農家は、調査の対象にさえしていない。耕地面積が30アール(3000平方メートル)未満の小規模農家は、農林統計の調査対象になっていない。「3反百姓」という言葉は死語になった。「3反百姓」は「百姓」でさえない、という。
その他に、「土地持ち非農家」といわれる多数の「農家」がある。これは、農村では「農家」と言われている。これらを整理すると、次のようになる。
上の表のように、農林統計は、42%の農家しか統計調査の対象にしていない。
このことは、42%の農家しか、農政の対象にしていないことを意味する。農政は、58%の小規模農家を除け者にして、彼らの窮状を見ようともしない。
これは、統計が不正確に歪められているかどうか、という以前の重大問題である。統計から疎外され、農政から疎外されている弱者、つまり、小規模農家は、そのように考えるだろう。
◇
以前、この点を鋭く突いたのが、小沢一郎氏である。同氏は、選挙公約に、農業者戸別所得補償制度の導入を掲げて、選挙に勝ち、政権を奪取した。
この制度は、小規模農家を農政から排除するのではなく、全ての農家を対象とするものだった。これが、農村からの圧倒的な支持を得て、選挙で勝った。
これは、同氏の非凡な才能だけではない。日ごろから農村の現地に密着していて、そこから発想したものだった。
◇
本題の労働統計に戻ろう。
国会で議論すべきは、誰が法令に反して不正を行ったか、ではない。労働統計の本質問題である。ことに弱者の味方だという野党にとっては、それが格差問題にどう関わるか、という点である。法令を遵守していれば、何も問題はないのか、という点である。
この点を見逃していたのでは、弱者の関心から外れる。まして、弱者の支持は得られない。
国会は、労働の現場に基づく、そして、格差の実態に基づく、新しい議論の展開が求められている。
(2019.03.11)
(前回 沖縄の苦悩)
(前々回 統計のカラクリ)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日