【熊野孝文・米マーケット情報】自社で仕入れるコメは自社で生産する時代に!?2019年5月7日
大型連休前に関東の大規模稲作生産者を訪れ、車の中から圃場を見た際、ところどころ雑草が生えたまま放置してある圃場があった。同行した生産者によるとそうした圃場の持ち主の一人は、今年田植えをする予定であったが、体力が続かず放置したとのこと。こうした現象はこの地区だけの特有の現象ではなく、全国各地で起きている。東北のある県本部が作成した「米価急落によるリタイヤ農家急増の懸念」と題した資料には、2015年(平成27年)と2025年(令和7年)と比較したデータとして、生産者数は3万7810人が約1万人減少して2万7601人に、耕地面積は7万823haが約1万8000ha減少して5万2541haになるとし「リタイヤ世代の受け皿づくりが追いつくのか?」と記されている。資料には県内各農協別の販売農家数の2025年の予測も出ているが、それを見ると農協自体の存続も危ういのではないかとさえ思えて来る。連休前の同じ週に大手卸の役職員と懇親する機会があり、連休中の予定を聞くと一人の課長が「4回田植えする」と答えた。実家が農家なのではなく、大手通販会社や生協が企画する田植えイベントに自社も協力して消費者と一緒に田植えする予定だという。今はイベントで参加しているが、近い将来まさに本業として田植えをしなくてはいけなくなる時代が来そうな状況になりつつある。
◇ ◇
現実に大手外食企業の中には自社の食材仕入れの根幹的手法とするMMD(マス・マーチャンダイジング・システム)という手法を取り入れ始めたところがある。同社にとって最も大切な食材"コメ"についてもMMDの基本理念で調達されており、この外食企業の社長はMMD本部長を兼務している。外食企業の中では日本一のコメ使用量を自負する同社では将来のコメの調達に危機感を抱いており、大学と提携して自社が求めるコメの栽培研究に着手、「株式会社手法でのコメの生産」に取り組む方針だ。
この会社の食材調達の根幹システムMMDとは、原材料の調達から製造・加工、物流、店舗での販売までを一貫して企画・設計、運営する同社独自の仕組みで、これは創業以来続けており、このシステムを全地球規模で広げて行き、安全でおいしい「食」を手軽な価格で提供していくことが使命だとしている。MMDを推進するために全国に31の加工工場と33カ所の物流拠点を持っている。
コメについては、2013年に福島の精米工場を事業譲渡により自社関東工場を設立、主に東北・関東のコメを仕入れて、グループ外食店に供給している他、家庭用とし自社名を記した商品名でスーパーでも販売している。精米販売まで乗り出した理由は、使用するコメの安全性を担保すること以外に「自分たちでやってみてノウハウを作る」ためで、店舗から発注を受けてから精米、精米後5日後に炊飯するのが理想と言う。
また、食材の物流は短ければ短いほど良いという考え方で精米工場を1~2県に1カ所ずつ設置する方針。調達する玄米は契約農家のものもあるが、同社では将来的なコメの調達に危機感を抱いており、現状のコメ作りでは将来的に必要とする品質・食味・価格のコメが手当て出来なくなるのではないかと危惧している。このため大学と提携して自社が必要とする品質・食味のコメを確保する栽培について共同研究を始めた。
同時にコメの供給体制を確立するためには「株式会社方式でやる」ことによって解決でき、これは社長の方針でもあるという。コメを産業化するためには生産組織を株式会社化し、コストを吸収、生産者の手取り収入を安定させる事業形態が最善という考え方。
日本からフード業で世界一を目指すという大きな目標を掲げている同社では、現在海外12カ国に店舗展開しているが、海外でも食材調達の基本はMMDで、日本からコメを運んでいたらコストがいくらかかっても足りず、一食500円以内では提供できないとしており、海外でも自社が求める日本米を調達できるようにする。その方式については明らかにする段階ではないとしているが、生産する国の気象条件等に合った日本米の品種、栽培方法を研究しているものとみられる。
ここまでシステム的に川上に乗り出している外食企業ではなくても田んぼの圃場に自社の契約圃場であるという看板を立てている企業は珍しくない。米卸の中にはコメの納入先の外食企業から「直接生産者と契約したい」と要請され、中抜きされるのではないかと不安がっている卸もいる。中抜きされるのが嫌なら生産法人に出資するか自社でコメを作るしかない。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日